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「保育は家庭でしなければいけない」と「学校に行かなければいけない」という規範は、どちらが強力か

■さまざまな「あるべき」

年度末の多忙さでなかなかこの欄を書く時間が見つからず、あっというまに前回から1週間が過ぎてしまった。

前回は「保育は家庭で行なわなければいけない」という規範が日本を停滞させるといいうタイトルで、日本の保育所/園不足の根本には、日本に根強く残る「保育は家庭で」という規範があるのでは、という、古典的かもしれないが僕には重要だと思うテーマを指摘した。

日本には、子ども・若者に関するいくつかの規範が根強く残る。

規範とは、道徳や倫理を薄めた、「社会を目に見えないかたちで縛る決まりごと」のことだが、道徳や倫理(その究極は「人を殺してはいけない」だろう)までいかないものの、この社会にはたくさんの決まりごとがあり、それは道徳や倫理というふうにまとめてしまうと大げさになる。

社会にはさまざまな「~であるべき」が存在しており、それらは「人を殺してはいけない」ほど強烈ではない。

そのひとつが、「学校に行かなければいけない」であったり、「仕事をしなければいけない」であったり「結婚しなければいけない」だったりする。

それらは、社会の時代背景が変われば、「~いけない」の重さが薄くなってくる。

今の社会情勢であれば、「結婚しなければいけない」とはなかなか言えないだろう。また、「仕事をしなければいけない」はまだ生きているかもしれないが、「正社員でなければならない」とは、非正規雇用4割のこの時代にはなかなか言えない。

■「学校に行かなければいけない」

「学校に行かなければいけない」にしても、70年前の敗戦直後においては、学校より「自分と家族が生きていく」ことが最優先だったため、学校は後回しにされた。少女時代の美空ひばりの映像などを見ると、そのことはなんとなく想像できる。

このように、「人を殺してはいけない」的道徳とは違い、規範とはその時々の社会情勢に左右されるものだ。

現在では、その典型が「学校に行かなければいけない」という社会規範だろう。

学校とは、親からすると、自分の子どもを絶対通わせたい施設だ。が、親の生活状態によっては、それは後回しになってしまう。

敗戦直後の混乱状態であれば、親は子どもに「小さい大人」であってほしい。小さい大人として、家にその稼ぎを入れてほしい。

また現在の貧困家庭であれば、親は生活保護を受給しながらも子どもにはアルバイトしてもらい、そのアルバイト代の大半を役所に内緒で家に入れてほしい。

生活保護を受給する親にとっては、学校に行く行かないは二次的なものになり、子どもは生活保護受給金の頭数の1つになる。

そして、生活保護費がアップするための頭数の1つとしてカウントしながらも、同時に子どものアルバイト代のほとんどを「搾取」する。その搾取したカネは、たとえば親のパチンコ代として消えていくのであるが、けなげな子どもたちは文句を言いながらも搾取され続ける。

まるでドストエフスキーの貧困家庭に出てくるエピソードのような話だが(ドストエフスキーのロシアにはパチンコはなかったが)、現在の日本の都市部で実際に繰り広げられている事態だろう。

■政治は日本の「保育規範」に甘えている

話がついつい貧困問題に行ってしまったが、そうした事態が現在の日本の貧困層にあるとはいえ、我が国にはまだまだ「学校に行かなければいけない」という規範は残る。

これと、「保育は家庭でしなければいけない」という規範ではどちらが強力だろうか。

一見「学校」のほうが強いように思える。が、今回の「保育園落ちた日本死ね」ブログから始まる動きを見ていると、問題を十分理解しながらも世論動向を見て政策レベルにまで落とし込めない政治の姿から、この「保育は家庭でしなければいけない」は、我々の社会に相当強烈に食い込んでいる。

言い換えると、政治は日本の「保育規範」に甘えている。

保育に関する政治的決定(保育士の給与アップや保育所増設)に辿り着く前に、「日本では『保育は家庭で』という規範が残るので、そこに税の投入はできない」という言い訳が成り立つ。

「学校規範」は、10数万人という「高止まり」の不登校現象で表わされるように、崩壊寸前ではある。

これに対して「保育規範」は、今回の「日本死ね」現象で表沙汰にはなったものの、「保育所が悪い」ということにはなっていないし、そもそもこの問題(保育園不足)の大元に「保育は家庭で」という規範が隠れていることも認識されていない(少なくとも不登校は「教育は学校で」規範が共有されている)。

その意味では、保育のほうがリジット(堅い)な問題であり、やっと気づかれた問題でもある。★


※Yahoo!ニュースからの転載

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