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問われたのは“人となり”だった-ジャーナリズム・イノベーション・アワード反省会-

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 2016年3月12日、講談社講堂で開催された『ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016』に出展した感想……いや、反省をこの場で記しておきたい。
 前のエントリーでまとめた通り、私Parsleyことふじいりょうは、「新聞の軽減税率導入」に関するアンケートを会場およびネット上で実施し、それを会場の出展時間(13時から17時)のうちに記事化、発表するという試みをやってみた。結果的に、これは大失敗だった。

 ※参考 今一度考えたい新聞の軽減税率導入の是非

 当日は、15時30分までアンケートの実施を呼びかけ、会場で23人・その他(ネット上)114人の計137人の協力を得ることができた。前回のアワードでも同様のアンケートを試みて、32人より回答を得たのだけれど(摂エントリー参照)、会場で答えて貰えるのはだいたい20~30人というところという点は変わらなかった、と言っていいだろう。また、「現場の記者に影響がある?ない?」といったことを尋ねて、意見を付箋に書いて貼ってもらった。それも記事に盛り込むためだ。
 実際、17時までになんとか、記事は出すことが出来た。そして、さして著名でもないブロガーにしては、そこそこの反響のある内容を出すところまでいった。そういう意味では、私が当初想定していた新聞の軽減税率導入について、アワードに来場するであろう新聞関係者の「声」を盛り込んだコンテンツを、その場で出すという実験自体はやり切ることができた。

 新聞の軽減税率の導入への反対は圧倒的、影響は「ない」が圧倒的だった件

 しかし……。当たり前のことだが、アワードに来場する大多数は、『Twitter』どころか公式サイトの一覧を見ることなく来場している(これは去年の経験から分かっていた)。つまり予備知識なしにブースを訪れる人がほとんど。そういった人たちは、目の前にあるブースとそこにいる出展者(つまり私自身)が全てなわけで、「アンケートやっています」「これから記事化します」と言っても「なぜそんなことを?」という疑問を抱くのが当然だ。
 私としては、「新聞の軽減税率の導入が参院本会議での審議に入り本決まりが確実な中、本当にそれでいいのか、現場の記者の方々がどう思っているのか知りたくてやってみたんです」と答えていた。それは私の本心だし、今回のアワードでそれを問うことができたのは意義があったと思っている。では、何が失敗だったのか。

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 16時前くらいから、私は記事への執筆作業に入った。とはいえ、その間も来場者はやってくる。ブースをみて、「なぜ?」といった質問をしてくる。このことに対して、上記のような質問も当然、私に対してしてくるので、答える。ただし、PCのキーボードを打つ手を休めず、相手の目を見ずに、だ。これって超失礼だし、自分がこの企画をどのような思いでやっているのか、より知りたいと感じた人にさらなる質問を封じる空気を醸し出していたはずだ。
 つまり、16時くらいから来てまわる来場者(明らかに昨年よりも終盤の方に混みだしたように思う)は、一番キモになるアンケートについて「体験」をすることもできず、ただPCをものすごい形相で睨む私の姿を見て帰ることになったわけだ。書きながら質問を受けた瞬間に、「これはダメだ」と思わざるをえなかった。

 

■結局、問われたのは出展者の人となりだった

 前回のアワードの時は、他のブースを見て回る余裕がなかったのだけど、今回は人員を配置できた(ナコ女史に一番の感謝を!)ので、合間を見ていろいろな出展者がどのようにやっているのか、勉強することができた。
 今回、地方発のメディアがいくつか出展していたが、その中から『宮崎てげてげ通信』が最終プレゼンへ進出、優秀賞に選ばれた。
 ブースでは『テゲツー』の沿革が手書き、写真入りで掲示されていて、ビジョンや配布物が用意されていた。ただ、これは他のブースでも同様の展示をしているところがあったように感じられた。違っていたのは、「自分たちがなぜアワードに出ているのか」「なぜメディアをやっているのか」ということを、前のめりの姿勢で来場者ひとりひとりに対して丁寧に説明してまわっていたことだった。

 同じように、優秀賞に選ばれた朝日新聞デジタル編集部の『築地 時代の台所』でも、ブースで「本社の目の前にある築地のことを我々はよく知らなかった。移転を機にアーカイブを残すことに意味があると思った」といった趣旨の説明を受けてハッとさせられた。要するに、「ねぜそれを伝えに来ているのか」ということが明確で、なおかつ来場者にわかりやすく伝えるということが、この場では求められていることだったのだ。

 そういう意味では、元切込隊長こと山本一郎氏は、ブースこそ『NewsPicks』批判を展開していたけれど、決勝プレゼンでは「おかしいと思ったら直接電話するなり、メールするなり、してほしい。それがいい社会につながります」と語りかけて、講堂を“圧倒”していた。
 ネットでは内容証明が飛び交っているような言論を展開して「怖い」イメージで見られがちな彼が、「どこか憎めない」存在であるゆえんがプレゼンには詰まっていたし、「知りたい」ということに忠実であるというのは「ジャーナリズム」の第一歩なのではないか。そこには山本氏の“人となり”が詰め込まれていたように思えた。
 しかも、JCEJ代表委員の藤代裕之先生が記しているように(参照)、自身のプレゼンが終わった後に最前列の脇に立って真剣に聞き入り、真っ先に拍手を送っていた。正直、その姿を見て、「姿勢が違う」と思わざるを得なかったです。

 最優秀賞に選ばれた『沖縄戦デジタルアーカイブ』にしても、そのデータに裏打ちされたグラフィックというビジュアル面もだけど、渡邉英徳先生がプレゼンで70年前の沖縄について「私たちと同じような日常を過ごしていた人がいた」と語った言葉が静かだけど強かった。ここでも、渡邉先生の“人となり”がにじみ出ていたし、プロジェクトに関わっていた人全てを背負って語っている、と明快に伝わる内容だった。

 

■個人でもできることはまだある

 今回、映像やインフォグラフィックなど、さまざまなテクノロジーを用いた出展もあり、従来の記事より「進んだ」コンテンツの展示も数多く見られた。とはいえ、「イノベーション」を起こすのは手法ではなく、読者に何らかの「イノベーション」を起こして完結することなのでは、と気付かされた。
 例えば、『女子大生、プラ子の就活日記』で出展してたプラ子女史は、4コマと自身の就職活動を時系列でまとめる展示をしていた。彼女には4票入っていて、私のところより票が入っている。つまり、彼女の「体験」を彼女自身から聞いて、何かしら感じるところがあり、心のなかで「イノーべション」があった人がそれだけいたということだ。彼女の存在は、個人でも伝えられることはまだまだあるということを示していると思う。

 逆にいえば、どんなに凄いグラフィックを使っても、最新のテクノロジーを使っても、ブースに来場したひとりひとりに伝える努力をしないと、何にもならない、ということだ。それには、「あなたはなぜアワードに出ようと思い、どうしてこのテーマで出そうと思ったのか」という問いに対して、分かりやすく、相手の心に響くような言葉を持っていなければいけない。今回の自分にはそれがなかった。

 ブースの目の前にいる人に何かしらの響くものを与えることこそが「イノベーション」で、それを達成するためには相手の目を見て正面から説明できないと何もはじまらない。今回の失敗で、それを学ぶことができたのが自分にとっての「イノベーション」だった。今度はその「イノベーション」を誰かに与えなければいけない。まだ次回、どのようなテーマにするかまだ決められないけれど、必ず「なぜここで問うのか」伝わる内容のものを出展したい。

 ともあれ。反省会はここまで。来場頂いた皆様、運営の皆様、改めましてありがとうございました!

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