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- 2016年03月15日 07:03
「ニュースの商社としてスピーディーに動きたい」 産経デジタル・鳥居洋介社長インタビュー
2/2■大阪独自の運営で勝負する「産経WEST」
―「デジタル化」が現場の記者に与えた影響は何かありますか?鳥居:一つは、新聞では活躍の場面が減りつつあったベテラン記者がデジタルでよみがえったというのがありますね。たとえば、海外特派員を経験したこともあるエンタメに強い記者がいて、先日亡くなったデビッド・ボウイがいかに日本を愛していたのかという追悼記事を書いたら、あるコラムニストが「これは日本人にしか書けない素晴らしい追悼記事だ」とブログで褒めてくれました。
あるいは、休日に自衛隊の演習の見学に行ったりするような軍事オタクの記者がいて、その知識を生かして、紙の新聞には載せられないようなマニアックな記事を出すと、何十万というPVを稼いだりする。こういう記者は新聞社の中でマネージャーになったりしないし、紙面でも必ずしも重宝がられてはいないけれど、ネットでは、そんな特殊な能力をもった記者がファンを持つようになるという一面がありますね。
もう一つは、駆け出しの若い記者たちが、ネット向けに原稿を書くことで鍛えられるというのがある。紙の新聞だと、たくさん書いてもデスクに削られて、ごく短い記事になることが多いんですよね。だけど、ネットならば、ちょっと面白い特異な事件があったとき、「現場に行って話を聞いてみたら、こんな人間模様があった」という感じで長文の読み物にできる可能性がある。
これは、これまでもやっていた手法ですが、若い人たちに深堀り記事を書かせるため何度も現場に通わせるうち、足腰の強い、取材力のある記者になる。しかも、書いた記事がネットでものすごく読まれれば、若い記者の励みになるわけです。

「産経WEST」より
鳥居:僕が大阪の編集局長だった一昨年の10月、産経デジタルはマイクロソフトとの提携関係を解消して、それまでの「msn産経ニュース」というのがなくなり、新しく独立した形で「産経ニュース」を立ち上げました。そのとき、我々が要求したのは「大阪の産経は、全く別のサイトにしてくれ」ということだったんです。それは実現できなかったんですが、サイト・イン・サイトのような形で「産経WEST」として産経新聞サイトの関西版を大幅にリニューアルすることにしました。
―産経ニュースは「ブルー」を基調としたカラーデザインですが、産経WESTは「ピンク」が基調と色が違いますね。
鳥居:僕たちは「赤と青」と呼んでいます。色で分けて、インターフェイスを変えよう、と。トップページの内容や見せ方が微妙に違うんですね。
―記事のランキングが違いますよね。
鳥居:ランキングも違うし、ニュースの扱いも違う。東と西は、サイトの編集がそれぞれ別になっていて、お互いに記事を融通し合う形にしています。僕が大阪の編集局長だったときは、東をライバル視しているくらいでした(笑)。大阪の産経新聞は、東京と違って夕刊もあるし、部数も他の全国紙とエリアによっては遜色ないという自負があるので、動きが速いんですよね。記者の人数は大阪のほうが少ないんだけど、それでも産経ニュース全体のPVの4分の1強は「産経WEST」で稼いでいます。
―「産経WEST」を独立したような形で見せているのは、なぜですか?
鳥居:モチベーションですよ。大阪編集局として独自に運営するようにしたほうが、モチベーションがあがるということです。記事のテイストが東京と関西では違うから、分けたほうがいいというのもあります。もう一つは、他の新聞社がやっていないからですね。関西テイストを好むユーザーのためにも、関西独自の編集で記事を出しているというのが、我々の強みになっている。
―大阪のカルチャーと東京のカルチャーは違うのでしょうか?
鳥居:違いますよね。ニュースに対する価値判断や面白がり方も違います。政治や経済の面では、東京のほうが圧倒的に上だけど、文化的な面では、京都・奈良の歴史や、タカラヅカ、タイガース、吉本といった全国に誇れるカルチャーやコンテンツがある。美味しい食べ物もある。そういう「関西ならではのもの」へのこだわりがありますね。たとえば、NHKの朝ドラも大阪放送局で制作しているときは、そのプロデューサーにコラムを書いてもらったりしているんですが、好評です。こういうのは、全国の読者にも読んでもらえるんですよね。
―ネットのメディアというと、東京に拠点を置いているところが多いですが、そのために情報が東京発のものに偏りがちです。そんななかで「産経WEST」という存在は、非常に独特で、ニーズもあるんじゃないかと思います。
鳥居:そう言ってもらえると、我々の狙いが当たっているのかなと思いますね。関西の場合、記者もユニークな人間が多いので、記事もひとひねりしたような形になる。そういう面も支持されている理由の一つじゃないでしょうか。もちろん、絶対量では東京のほうが、優秀でスマートな記者が多いんですけどね。
■「トライアンドエラー」を許容できる組織にしたい
―いまネットのニュースの世界は、PCからスマホへどんどん移行していっていますが、産経新聞はまだPCのほうが強いようにも見えます。スマホ対応をどのように考えていますか。
『iRONNA』より
―その一方で、広告の単価はまだPCよりもスマホのほうが安いといわれています。こういう課題にどう立ち向かっていきますか。
鳥居:広告は今後、テクニカルな面でいろいろ変わっていくのだと思います。Facebookがそのプラットフォーム上でニュース記事が読める「インスタント・アーティクル」を始めましたが、僕らはプラットフォーマ―ではなく、パブリッシャーなので、そのような場でどう広告の収益を上げていくのかというのが課題ですよね。まだ始まったばかりなので、手探りの状態ですね。
―動画については、どうでしょう?
鳥居:動画も重要ですよね。スマホだと縦型の画面で見る人が多いので、「縦型動画」をどう企業にアピールして、どう広告を売っていくのかというのも重要になっていくでしょう。
―スマホに移行していくと、現場の記者にも影響が出るでしょうか?
鳥居:記者は、自分の記事が多くの人に読まれるのなら、どこで読まれようが構わない。だから、現場の記者にはあまり影響がないのではないかと思います。影響があるとすれば、むしろ、サイトを運用する側ですね。読まれやすい記事は何だろうかと考えたり、デザイン性やビジュアル性を意識して、写真やグラフィックを多用したりといった運用側の問題が大きい。そういう点は、コンテンツの「メーカー」よりも「商社」の仕事になりますよね。
―そうなると、ニュースコンテンツの「商社」としての産経デジタルの重要性が増していきそうですね。
鳥居:「メーカー」と密にコミュニケーションをとって、「これがトレンドだよ」「こういう商品がほしいよ」と要望していく。産経新聞と産経デジタルという関係性の中で、我々の側は、スマホで読まれるコンテンツや広告はなんなのかということを考えて、取り入れていくということですね。
スマホはいろいろルールが変わるので、ボーッとしていたらついていけない。だから、スピード感が必要になる。そうなると、何千人も社員がいる新聞社では対応が難しいのではないかなと思いますね。新聞社に代わって、産経デジタルというベンチャーの子会社が新しいものをどんどん提供していく。そういうところが我々の役割じゃないかなと思います。
―最後に、産経デジタルの社長として心掛けていることを教えてください。
鳥居:一つは、スピード感を持って動けるフラットな組織を作るということです。デジタルは、人材育成も新聞社とは異なります。新聞社では10年、20年かけて人を育てるということをしてきたが、そういうわけにはいかない。いい人材を外からヘッドハンティングで引っ張ってくることも必要です。ビジネスの進め方としては、我々よりも小さなベンチャーと手を結んだりしてチャレンジしていくことが重要だと思っています。
チャレンジとスピード。そして、新聞社と違って、トライアンドエラーを許容するような形にしていきたい。まだ、そこまで至ってはいませんが、そういう心構えでいきたいな、と。あとは、「一緒に働いていて面白いよね」と思ってもらえるような会社にしたい。人の出入りはあると思うんですが、あとで振り返ったときに「あの数年間は一番自分が輝いていたよね」と言えるような仕事をしてもらいたい。そういう集団であれば、人がどんどん入れ替わっていっても「強い集団」になれるのではないかと思いますね。




