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- 2016年03月15日 07:03
「ニュースの商社としてスピーディーに動きたい」 産経デジタル・鳥居洋介社長インタビュー
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鳥居洋介・産経デジタル社長兼CEO
■「東海岸」の中に「西海岸」の風が入ってくる
―鳥居さんは昨年6月に産経デジタルの社長に就任したわけですが、その前は産経新聞の大阪編集局長でした。もともとは夕刊フジの記者出身で、その後も基本的には「紙の世界」で仕事をしてきたと思います。「デジタルの世界」に入って、戸惑いはありませんでしたか?鳥居:こちらにきたときは「びっくりぽん」でした(笑)。会議で何をしゃべっているのか分からなかった。DMPとか、SEOとか、アルファベット3文字の言葉ばかりで。会議中は分かったふりをして、うなずいているけれど、こっそりメモをとって後で調べるという感じでしたね。
―そんなところからスタートして、約9カ月がたちました。産経デジタルの社長という立場でネットに接してみて、どのように感じていますか?
鳥居:夕刊フジと産経新聞で30数年間、「紙の世界」にどっぷりつかったあと「デジタルの世界」に来てみて感じたのは、明らかにカルチャーが違うということですね。いわゆるオールドメディアとニューメディアは、真逆に近いくらい文化が違う。(経済ニュースアプリの)NewsPicks編集長・佐々木紀彦さんから聞いた言葉ですが、(アメリカの)「東海岸」と「西海岸」になぞらえた言い方がありますよね。古くからの大企業が集まる大手町や丸の内は、東京の中の「東海岸」で、新しいネット企業が集中している渋谷や六本木は「西海岸」だ、と。
東海岸の人が尊敬するのは、三菱商事、ローソンを経てサントリーの社長になった新浪剛史さんみたいな人だけど、西海岸の人が尊敬するのは、ホリエモン。東海岸の人はスーツを着ているけど、西海岸の人はジーパンでラフな格好をしている。考え方も、東海岸は保守的で、西海岸は革新的と違いがある、と。
そういう意味でいうと、大手町にある産経新聞は「東海岸」のどまんなかに存在しているんだけど、同じビルの13階にある産経デジタルは「東海岸の中に西海岸がある」という感じ。それが、うちの持ち味ではないかと感じています。
―産経デジタルができたのは、約10年前ですね。
鳥居:産経デジタルは2005年11月の設立です。そのとき、産経新聞の100%子会社にはしなかった。産経新聞の出資は80%で、残り20%はチームラボとトランスコスモスが出資したチームラボビジネスディベロップメント。出資だけでなく、人もトランスコスモスを中心にどんどん入ってきています。そういうIT系の企業が入っていることによって、彼らのカルチャーが入ってくるんですよね。「東海岸」の中に、「西海岸」の風が入ってくる。
―社員の人数と構成はどんな感じですか?
鳥居:産経デジタルの社員は約140人。そのうち、産経新聞からの出向組が30人余り。それに対して、産経デジタル育ちのプロパー社員が50人以上います。あとは、トランスコスモスからの出向が20人くらい、グループ会社などからの出向もあります。全体で一番多いのは、産経デジタルのプロパー社員です。
―つまり、産経デジタルプロパーの社員のほか、産経新聞やトランスコスモスから出向してきた社員もいる「混成部隊」ということですね。
鳥居:モザイクですね。産経デジタルの社長に就任することになったとき、ある人から「あそこは難しいよ」と言われたんですが、うまく融合すれば、他にはないパワーを生み出せると思うんです。
―「東海岸」と「西海岸」ではカルチャーが全然違うということですが、最も違うのはなんでしょうか?
鳥居:一番は、スピードですね。会社の規模が小さいというのもありますけど、組織がフラットで、意思決定がスピーディーにできる。たとえば、若い社員から何か面白い企画が出てきたときに、「じゃあ、明日、やろう」と言うことができる。それが産経新聞みたいな大きな組織になってしまうと、部長の決済を経て、役員の決裁を経て、さらに、社長の決済という感じで、どうしても時間がかかってしまう。
僕自身も、前職の編集局長時代は庶務担当の女性がいて、毎日、その日の予定を読み上げてくれたりしていたんです。でも、産経デジタルの社長になったら、ほとんど自分でやらないといけない。まさに中小企業で、大変な部分もあるけど、逆に面白いなという感じがしますね。
■他の新聞社より「ウェブファースト」の意識が強い
―産経新聞は約10年前に産経デジタルを設立して、新聞社の中では、いち早く「ネット化」に取り組んできたと思います。他の新聞社との違いという意味では、どんな特徴があるんでしょうか。鳥居:産経新聞と産経デジタルという2つの会社をたとえると、産経新聞はニュースコンテンツの「メーカー」で、産経デジタルはその「商社」。そのメーカーと商社の距離が近くて、関係が非常にうまくいっていると思います。
ただ、設立当時の社長は「ウェブファースト」ということで、他社はもちろん、紙よりも先にデジタルに原稿を書くんだと言ったわけですが、新聞の現場にいる人間からは反発する声もありました。「新聞を作るために精一杯やっているのに、なぜ、デジタルにまで書かないといけないのか」と。僕は紙の現場が長かったので、その空気はよくわかります。でも、他の新聞社の実情はともかく、ウェブファーストという意識をもっている社員の数は非常に多いと思います。
―産経新聞が他紙よりもさきがけでネットに進出していったのは、なぜでしょうか?
鳥居:一つの理由としてあるのは、五大紙といわれる全国紙の中で、部数がもっとも少ないという現実ですね。ABC調査で、うちは160万部だけど、トップの読売さんは900万部もあって、相当な開きがある。紙の世界でエッジの利いた新聞を作ってはいますが、絶対的な部数が少ないと言うのは否めない。でも、それだからこそ、デジタルに打って出ることができたという面がありますね。記者たちも「他の新聞社より人数が少ないけど、がんばらなきゃいけないんだ」「デジタルの世界で勝ち抜くんだ」という切り替えが、よそに比べてスムーズにいったのではないかと思いますね。

『産経ニュース』より
鳥居:最初は「デジタルならではのオリジナルコンテンツって何だろう」と模索している時代があり、そんな中で「法廷ライブ」というのが始まりました。たとえば、法廷の傍聴席で産経新聞の割り当てが2席だとすれば、そのうちの1つは裁判担当の司法記者がずっと座って取材するんですが、もう1つの席には、7、8人の記者が入れ替わり立ち替わり座って、交代で法廷の様子をライブレポートしていく。今では他の新聞もやっていますが、当時は斬新だった。
裁判というのは公開されているけど、注目事件の場合は一般の人が傍聴しようと思っても、抽選で一部の人しか入れない。それならば、傍聴する権利を与えられているメディアの役割として、法廷で起きたことを全て伝える必要がある、と。初めは間違いも多かったし、ただ情報を垂れ流すだけだったんですけど、途中から、記者の視点やちょっとした雑感を入れたりするようにしたり、法廷の発言も伝え方を工夫したりして、「記者の技」というのがどんどん洗練されていきました。
―新しいジャーナリズム、新しい報道の形が、ウェブだからこそできているという側面もあるんでしょうか?
鳥居:「法廷ライブ」は、取材の手法や見せ方が新しいとは思います。また、紙だと記事の分量がどうしても限られてしまいますが、ネットの世界では圧倒的な量で見せることができる。それを「新しいジャーナリズム」というかどうかはともかく、ネットの特性をうまくとらえているとはいえるでしょうね。
「法廷ライブ」以外では「衝撃事件の核心」というニュースの深掘りコンテンツがあります。これも非常に人気があって、よく読まれています。ただ、こちらは新しい手法というわけではなくて、もともと週刊誌や夕刊紙の記者がやってきたことを新聞記者がやっているわけです。新聞記者は日ごろからそれぞれの持ち場を回って取材しているので、圧倒的な情報に接している。そこに週刊誌的な足腰が身につけば、より深い記事が書けるようになる。今まで記者クラブで休憩していた時間を使って、ネットのために記事を書いて出してもらい、会社もそれを評価するようにするということをやってきました。



