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貧者だけが担う死のリスク 国防人材絶やさぬため“必要”なこと 『経済的徴兵制』布施祐仁氏インタビュー - 本多カツヒロ 

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昨年7月に衆議院本会議で可決された安全保障関連法案は、今後の日本がどのように平和と向き合うべきかを考えさせられた。またこれにより、集団的自衛権の行使やPKO活動での駆けつけ警護などが可能になった。しかし、実際に現場に従事する自衛隊や隊員がどのような現状であるのかは中々伝わってこない。そこで『
『経済的徴兵制
』(集英社新書)を上梓したジャーナリストの布施祐仁氏に、自衛隊員の現状や隊員の確保などを中心に話を聞いた。

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経済的徴兵制』布施祐仁著(集英社新書)

ーー「経済的徴兵制」と呼ばれるような貧しい家庭で育ち、大学進学の奨学金を手に入れるために、軍に入隊するというアメリカの若者の話はよく耳にします。同じようなことが日本でも起きていると。

布施 イラク戦争時、現地から帰還したアメリカ海兵隊員を取材する機会がありました。彼は母子家庭出身で家が貧しく、大学進学が経済的に難しかったので、軍の奨学金がほしくて入隊したそうです。何もイラクの人達が憎いと思ったわけでも、戦争がしたかったわけでもありません。

 彼はリクルーターの経験もあり「貧しい者を軍に入隊させるのは簡単だ。なぜなら貧しい人達には選択肢がないからだ」と話していました。その時、戦争を起こすのは国でも、そのリスクは国民が平等に負うわけではなく、貧困層が集中的に負わされる社会構造があると認識しました。その後、そういう社会構造がアメリカで「経済的徴兵制」と呼ばれていることを、堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で知りました。

 同時期、日本では「構造改革」と称して様々な規制緩和が進められ、とりわけ労働法制の改正によって非正規雇用が急速に拡大していきました。日本では高度経済成長期以降、「1億総中流」などと言われていましたが、当時話題になった「ネットカフェ難民」を始め、この頃を境にそれまで目立たなかった貧困や格差が社会問題化し始めた。

 同時に、自衛隊をまだ戦闘が続くイラクに派遣し、海外派遣をそれまでの「付随的任務」から「本来任務」に格上げするなど、自衛隊を海外の紛争地に出していく流れも強まりました。このままアメリカの後を追うように格差社会が進み、自衛隊もどんどん海外に出されるようになれば、直に日本でもアメリカのような経済的徴兵制が始まってしまうのではないかと思い、取材を始めました。

取材してみると、家が貧しかったので大学進学を諦め、衣食住に困らない自衛隊に入隊したとか、逆に、自衛隊に行けば奨学金を借りなくても仕事をしながら大学に通えると知って志願したというような話をたくさん聞きました。さらに調べてみると、就職先の少ない東北地方の農家の二男三男が食べていくために自衛隊に志願するなど、「経済的徴兵制」のような構造は自衛隊が発足した当初からあったことがわかりました。これから起こる将来の話ではなく、昔からすでに存在していたのです。

現在も7割しかない自衛隊充足率

ーー発足当初からそのような中で自衛隊は人員を確保していたわけですが、自衛隊の人員確保の考え方はどのようなものでしょうか?

布施 アジア太平洋戦争の敗戦で、日本はポツダム宣言に基づき連合国に武装解除されました。しかし、アメリカは戦後まもなく、ソ連との冷戦に日本の戦力を活用しようと日本に再軍備を求めるようになります。最初は国内の治安を維持するという建前で警察予備隊がつくられ、保安隊を経て、国防を目的とする自衛隊が1954年に発足します。

 自衛隊をつくる時、アメリカは当初、32万5000人の陸上兵力を要求しました。しかし、当時の吉田内閣は経済成長を優先する政策を取っていたため、交渉の末、最終的には18万人に落ち着きました。

 当時の考え方として、あくまで専守防衛の自衛隊の戦場となるのは日本国内になるので、輸送や補給などの後方支援は民間の会社にアウトソーシングすることを想定していました。もう一つは、部隊を指揮する将校と兵隊を率いる下士官さえしっかり集め、平時から訓練しておけば、末端の兵隊はいざ有事になってから緊急募集で集めても戦えるという考え方です。兵隊は上官の命令に従って駒のように動けばいいので、訓練はそれほど必要ないという理屈です。こういう考えに基づき、陸上兵力を18万人まで絞り込んだのです。

ーーその常に訓練する必要がないという兵隊はどうやって集めるつもりだったんですか?

布施 有事になれば、祖国を守るために戦おうという愛国心にあふれた若者が多数志願するはずだという考え方です。実は、末端の兵士の不足分は緊急募集で集めればいいという考え方は、いまだに変わっていません。

ーーということは現在も兵隊に関してはそういう考え方なんでしょうか?

布施 現在でも、陸上自衛隊の「士」階級の充足率は7割ちょっとです。自衛隊では、日本の防衛に必要な最低限の人数を定員として定めていますが、定員分の予算は100%は計上されておらず、実際には、実員と言われる定員より少ない人数の予算のみです。充足率というのは、この定員のうち実際の隊員のパーセンテージを表し、現在は幹部と下士官では9割以上ですが、兵隊は7割ほどです。足りない分は、有事の緊急募集で埋めようという方針です。

隊員確保危ぶまれる中始まった高校生への戸別訪問

ーー自衛隊自身は今後の隊員の確保についてどう考えているのでしょうか?

布施 必要な数と質の隊員を集められなくなるという危機感を非常に強く持っています。これは防衛白書にも書かれていますが、このまま少子化が進み、大学進学などの高学歴化が進めば、人員を確保できなくなると。だから、10年以上前から、そのための対策を練っています。

 自衛隊は「組織的募集の強化」と呼んでいますが、つまり自衛隊だけでは隊員確保できなくなるから、地方自治体や学校など部外の組織におおいに協力してもらおうということをやっています。たとえば、高校の校内で自衛隊の説明会を開いてもらったり、生徒に自衛隊の仕事に興味を持ってもらうために小中高での「総合的な学習」や「キャリア教育」の一環として体験入隊の受け入れに力を入れています。

 ただ、現状では自衛官募集に積極的に協力してくれる学校は限られているので、募集の目標が達成できなければ、やはり自衛隊自身が駆けずり回ってリクルートするしかありません。今年度はかなり志願者が減っているので、これまで自粛していた高校生の自宅へ直接、広報官が訪問する戸別訪問を再開しました。自粛していたのは、民間企業は高校生への戸別訪問での求人活動は禁じられているからです。確かに、法律上は、公務員である自衛隊は職業安定法の適用外ではありますが、民間企業が禁止されているのに政府機関がやるのはいかがなものかと思いますね。

ーー高校は大学進学率や就職率が低い地域を中心にまわっているのでしょうか?

布施 アメリカの場合は、広報官の数も限られていますし、ただ闇雲にまわっても効率が悪いので、地域ごとに経済状況を含めたデータベースをつくって勧誘しているそうです。

 日本では今のところ、そこまではしていませんが、大学進学率が高い高校よりも、就職を希望する生徒が多い高校を優先的にまわっています。進学希望が多い高校では大学合格実績が評価のひとつとなるのと同じように、就職する生徒が多い高校ではどれだけ就職したかが学校の評価基準になります。就職実績を上げるために、生徒に積極的に自衛隊を薦める高校もあります。自衛隊の方も、毎年多くの志願者を出している高校を「重点校」に指定し、卒業生の若い隊員を「ハイスクールリクルーター」に指定して母校を訪問させるなど力を入れています。

 あと、学校との関係強化を重視しているのは、学校を通じて生徒の個人情報を手に入れようというねらいもあります。やはり、「数撃てば当たる」でやみくもに勧誘するよりも、自衛隊に肯定的な生徒や公務員志望の生徒など「入りやすい生徒」に絞って勧誘した方が効率がいいからです。その情報の中には、生徒の家庭環境、たとえば進学を望んでいるが経済的に厳しいといった情報も入ってきます。

ーー昔はボン引きのような街頭募集をしていて問題になったこともあるようですが、現在でも街で勧誘を行っているのでしょうか?

布施 自衛隊の広報官には、隊の中で唯一民間企業の営業のようなノルマがあるんです。最近聞いた話では、ハローワークに仕事を探しに行ったら、建物に入る前に駐車場で自衛隊の広報官に声を掛けられたと。今年は民間の雇用情勢も多少よくなったのに加え、安保法制の影響で志願者が大きく減っていて、広報官もそうせざるを得ない状況のようです。

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