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憲法に「家族条項」の創設を 最大の問題は、日本人の思考だ - 細川珠生(政治ジャーナリスト)

 日本の憲法の問題点は、挙げればきりがないくらいたくさんあるが、私が現憲法を維持することによる最大の問題と考えるのは、憲法に関心がなくても、日々生きていくことができると思っている日本人の思考である。

 いろいろな分野の現場を取材していると、報道から知りうることの大部分は“幻想”だと思うことが多い。実態は、あまりにも違うということだ。あるいは、多くの事象はもっと複雑な要素が絡み合っており、物事を多面的にとらえる思考力や想像力がなければ、事実を正しく理解することはできないということを思い知らされる。

 憲法に当てはめて言うのならば、「平和憲法」というスローガンを掲げてさえいれば、日本は未来永劫、どんな世界の危機にも巻き込まれないという“幻想”は、あまりにも単純な思考と思わざるを得ない。しかし、それがなかなか多くの国民には、実感できないことでもあるのだ。

 安倍総理はこのところ、憲法改正についても、堂々と発言する機会が増えた。「憲法については国民的な論議を起こして欲しい」と国会で答弁することは、今までの政治では考えられなかったことでもある。

 大臣の「憲法順守義務」を盾に、それまで積極的に憲法改正について発言していた政治家でも、大臣になった途端、持論を引っ込めることが、いわば“普通”であった。それを思うと、政治も、社会も変わりつつあることを実感する。

 一方で、国民の政治への関心事では、経済や年金、介護、子育てなど、近視眼的なテーマが常に上位にあり、憲法など国の根幹にかかわることについては、ほとんど関心がない。

 そこで、いかに憲法が近視眼的なテーマになるかということが重要であるのだが、そのためには、今の日本で起こる数々の事件や事象、日本を取り巻く国際社会での出来事が、現憲法にその原因の一端があるということと結びつけて考えるのが重要ではないだろうか。

 頻発する児童虐待についても、私は憲法の行き過ぎた個人主義にその原因の一端があると考えている。心中を含め、児童虐待による子供の死は年間約100人。そのうち0歳児が4割、さらにそのうちの9割は生後1か月以内である。児童相談所への相談件数は、統計を取り始めてから約20年で67倍の7万件以上となった。

 これだけ増加した背景には様々な要因があるが、虐待の7割は若年期や望まない妊娠によるケースが占めている。離婚後の母子家庭による精神的・物理的不安定からくる母親によるもの、同居や交際相手によるものなどがその実態である。恋愛や結婚、妊娠についての価値観の多様化といえば聞こえはいいが、つまりは親の身勝手な行動ゆえに起こっていることと言える。

 私も一児の母として、仕事をしながらの出産・育児の大変さは、人並みには経験してきたつもりである。しかし、家族や周囲の温かさの中で多くの精神的・物理的助けを得ることができたし、また、それ以前に、親として、我が子を大切にしていくのは当然のことであると考えてきた。

 夫婦は、いついかなる時も、子供のために家族のために、努力してその関係を維持する責任を負っているという強い覚悟も、家庭を崩壊させずにこられた理由であったとも思う。それだけ結婚や出産は、大きな責任を伴うものであり、仮に不意のことであったとしても、覚悟を持って受け止めなければいけないのである。

 しかし、現憲法は、第24条で結婚については「相互の努力により維持されなければならない」とはしながらも、「両性の合意にのみ基づく」、つまり当人同士さえよければよいという「自由」を強調しすぎている。このような点に、終戦直後に、それまでの価値観の転換を促す意志が読み取れるが、70年経ってしまうと、それが浸透しすぎて弊害も出てきているというのが、実態ではないのだろうか。

 あるいは、学校教育を考えてみると、外国語や情報、道徳やキャリア教育など、教育内容は増える一方で、学校の負担は相当なものである。先生に求められる能力も多岐にわたり、教員の質的向上は喫緊の課題でもある。

 しかし、現状は、そもそも有能な人材が教育現場に集まらないという深刻な問題がある。

 その背景にあるのが、過剰な保護者によるクレーム、いわゆるモンスターペアレントの増加である。保護者対応に骨を折り、精神疾患も増加が止まらない。虐待とは相反する親の態度ではあるが、「我が子(だけの)可愛さ」が行き過ぎ、学校教育が疲弊、質も低下するのである。

 それも行き過ぎた個人主義、我が子しか見えない個人主義に起因する社会の質的低下と言っていいだろう。教育力が下がれば、国力も下がるのである。

 それらを考えると、親の責任は極めて重要であり、もっと意識をしながら、家庭や親のあり方を健全なものにしていかなければならないのである。憲法改正の箇所は多々ある中で、あえて1つを挙げるとすれば、「家族条項」の創設を主張したい。

 そこでは、親の、子の養育に対する責任と健全な家族を維持する努力を今より強く謳うべきと考える。しかしそれは決して、戦前の家族制度を復活させるものではなく、社会の中ではいかなる立場や境遇であっても、それぞれが健全な社会を形成する責任を負っていることの1つであることとして表現すべきであろう。

 とかく、目の前のことにしか興味を持たない女性の特性に照らし合わせても、憲法と我が子の境遇とを結び付けて考えられれば、自ずと憲法に関心を持たざるを得なくなるはずだ。国民的論議には、そのような“素材提供”が必要と考える。(2016年3月21日号 週刊「世界と日本」第2073号 より )


 《ほそかわ・たまお》 平成3年、聖心女子大学卒。平成7年、『娘のいいぶん~がんこ親父にうまく育てられる法』で、日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。平成7年より「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)に出演中。千葉工業大学理事。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。文部科学省、警察庁、国交省等で有識者会議等委員を務める。元品川区教育委員長。

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