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「国土強靭化」について今一度考えてみるー復興や災害対策はインフラの復興や強化から

東日本大震災発災から5年が経過した。発災の年、平成23年に閣議決定された「東日本大震災からの復興の基本方針」においては、平成23年度から27年度の5ヶ年度が集中復興期間と位置付けられた。これが本年度で終了することから、平成28年度からの向こう5ヶ年度については「復興・創生期間」と位置付けられ、復興の「総仕上げ」が行われることとされている。(なお、「復興・創生期間」と位置付けたのは今回の基本方針ではなく、昨年6月に東日本大震災復興対策本部において決定された「平成28年度以降の復旧・復興事業について」である。)

 さて、この基本方針、概して、①インフラの復興、②産業の再生、③原子力災害からの復興の3つの要素から構成されていると考えることができる。③については、毛色が異なる特殊な事項であるので、別枠で考えることとするが、①及び②については、概観するに、同じ基本方針の中にありながら異なる方向を向いているように見受けられる。

 端的に言えば、①がインフラの復興を通じて被災地を守り育てる内容であるのに対して、②は震災を奇貨として被災地をゼロベースで変えてしまおう(例えば農地の大区画化等)というものである。正反対を向いた内容で、呉越同舟とでも言うべきであろうか。震災以降、どうも①が無駄だ何だと軽んじられ、②に過剰に力点が置かれてきたように感じる。筆者が見てきた限りにおいて、②のために①が遅れ、全体としての震災復興が遅れてしまったのではないかと思われてならない。

  また、②に関連することとして、被災地の産品を積極的に購入することは、産業や生活の復興に向けた金銭的な基盤を作ることには資するものだが、それはあくまでも緊急避難的な性格のものであって、未来永劫「被災地」であることをさもブランドのように使っていけるものではない。まして新商品開発をすれば復興につながるといった発想は愚の骨頂である。藁をもつかむ思いで新商品の開発といった方向に突っ走った被災地の方々もいたようであるが、結局のところ被災地以外の人間の自己浄化、自己満足の世界のための入れ知恵にすぎなかったように思う。「○○で復興」という言葉はよく聞かれたが、そうして本当に復興できた地域がどの程度あったのか、これから検証と総括が必要であろう。(少なくとも「強靭化」にはつながっていないと思われるが。一方で、地震に限らず、豪雨被害等の被災地に対する緊急避難的な支援を行うことに力点を置いた活動も、震災を機会に生まれている。こうした取組は政府の施策の「穴」を埋める機能を果たしているものと考えられ、もっと評価されてしかるべきであろう。)

 さて、インフラは生活を支え、安心・安全を確保し、災害にあってはその被害を最小限に食い止めるに不可欠なものである。我が国の発展もインフラの整備・充実とともにあった。江戸時代であっても幕府や各藩がもっとも腐心したのは治山治水である。なぜなら、治山治水の確保は、民百姓が不自由なく暮らし、生活の基盤である食料の生産が安定的にできるようにするに不可欠だからである。

  震災の発災から既に5年が経過し、震災復興といえば被災地の産品を買って応援しよう程度のことしか想起されない程に、多くの一般国民の震災の記憶や問題意識、発災当時高まった防災意識が薄れてきてしまっているように思われるが、震災復興は被災地住民の生活の復興であり、生活の糧を得るための産業の復興であり、それら全てを支えるインフラの復興であることをここで再認識する必要があろう。

  東日本大震災を機に、「国土強靭化」という概念が登場した。既存のインフラを災害に耐えられるものに強化することのみならず、災害時の人や物の円滑な移動・輸送のための複数の経路の確保、いわゆるリダンダンシーの確保といったものまで幅広く含むものである。震災を機に、国土全体を災害に強い、「強靭」なものにしようということである。確かにその幅広さゆえに、およそ「国土強靭化」とは無関係な公共工事にまで関係予算が配分されるという由々しき事態も起こったようだが、だからといって「国土強靭化」=無駄な公共事業の大義名分というレッテルを貼っていいものではない。(一方で、「国土強靭化」に名を借りた無駄遣いにはしっかりと目を光らせておかなければならない。被災地にあっても、使い切れないお金が積み上がっているという。それに当たっての会計検査院等の関係行政機関の役割は重要であろう。)

 つまり、「国土強靭化」は過大投資である必要はないが、過少投資であってはいけない。国民、そしてその生活の安全や安心の確保を効率性や経済性のみで考えてはいけないということ十二分に踏まえた上で、「国土強靭化」は適正規模なものなければならないのである。

 遅きに失するようではあるが、「国土強靭化」に賛成か反対かといった短絡的な二元論ではなく、どうすれば適正規模な「国土強靭化」ができるのか、そのためのインフラの復旧や整備ができるのかについて、東日本大震災からの復興に限らず、本腰を入れた議論を与野党問わず行っていく必要があろう。(ちなみに、言わずもがなだが、3月11日に当たっての談話等で「強靭」という言葉を使っているのは、安倍総理だけである。その意図するところは不明ではあるが。)

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