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「イスラム国」はどのように誕生したのか?ー設立から振り返る

Posted By: 原貫太

昨年1月に起きたイスラム国(IS)による後藤健二さん・湯川遥菜さん拘束・殺害事件は、私たち日本人に深い悲しみと恐怖をもたらした。その後もエジプト東部シナイ半島でのロシア旅客機墜落事件、フランス・パリでの同時多発テロ事件など、多くのテロ行為や未遂事件でISやその一派、またISの主義・主張へ共鳴する者がその関係性を疑われており、日本に生きる我々もこの「国」に対して無関心でいる事は出来なくなっただろう。IS誕生の過程を振り返る。

ザルカーウィーの台頭と「イラクのアルカイダ」(al-Qaeda in Iraq)誕生

IS誕生の起源は、ヨルダン人イスラム主義活動家・テロリストであるアブー・ムスアブ・アッ=ザルカーウィー(Abu Musab al-Zarqawi)の台頭まで遡る。

2003年、アメリカ合衆国ジョージ・W・ブッシュ政権がイラク攻撃に踏み切り、アメリカ軍主体の有志連合軍がイラクに侵攻、イスラム教スンニ*¹派であるサダム=フセインを大統領の座から引き下ろした。その一年後である2004年、ザルカーウィーはウサーマ・ビン・ラーディン率いる国際テロ組織アルカイダ*²への忠誠を誓い、イラクのアル=カイダ(al-Qaeda in Iraq )を設立、地域一帯への西洋諸国の介入に反する意思を表した。同組織は2004年10月に香田証生さんを殺害、初めて日本の民間人が犠牲となったことなどから、日本全土に衝撃が走った。

イラク・イスラム国(Islamic State of Iraq)

2006年、アメリカ軍の空爆によりイラク首都バグダッドから65km北へ離れたバアクーバ近郊でザルカーウィーは死亡するも、イラクのアルカイダは他武装組織と合併し、イラク・イスラム国(Islamic State of Iraq :ISI)を名乗り始めた。しかし、その後はイラクでのアメリカ軍増派や彼らの残虐性を否定するスンニ派アラブ部族によるグループSahwa(覚醒)協議会により、弱体化の傾向をたどった(関連記事:「イスラム国」と対抗するために必要な部族対策とは)。

2010年、現イスラム国の指導者とされるアブー・バクル・アル=バグダーディーがイラク・イスラム国の指導者になり、体制の立て直しが行われた。2011年にシリア内戦が始まると、イラク・イスラム国は反政府組織*³を支援、スンニ派過激派組織であるアル=ヌスラ戦線の結成を支援した。結成後アル=ヌスラ戦線はシリア首都ダマスカスでの爆弾テロ実行など活動を活発化させ、現在は概ねの反政府組織と共闘しアサド政権打倒を目指している。アメリカ軍率いる有志連合軍はアル=ヌスラ戦線をテロ組織として爆撃の対象にしているが、同組織は他の反政府組織から見ればアサド政権打倒においては有力な戦力と言えるだろう。自由シリア軍(Free Syrian Army)を始め、一部の反政府組織をアメリカ軍が支援していることを考えると、如何にシリア内戦が複雑怪奇なものかが実感できるだろう(関連記事:ヒラリー・クリントンによって対IS戦略はどう変わるのか?)。

イラク・レバントのイスラム国(Islamic State in Iraq and the Levant)誕生

イラク・イスラム国の残虐行為は反政府組織や他武装組織からの非難を買い、アルカイダもその関係性を否定するようになった。その後、イラク・シリアにおけるバグダーディーの傘下を巻き込み、名前をイラク・レバントのイスラム国(Islamic State in Iraq and the Levant)に改めて活動を展開するようになる。

その一方、2011年にアメリカ軍はイラクから撤退。2003年から始まったイラク戦争はアメリカ兵約4500人と少なくとも6万人のイラク人が犠牲になるも、イラク・レバントのイスラム国の登場によりイラクの治安は更なる悪化をたどった。

カリフ制イスラム国家(Caliphate)*⁴の設立宣言、イスラム国(Islamic State)誕生

2014年6月にはイラク西部を大規模に制圧し、北部・東部へと更に侵攻を続けた。そして同月末にカリフ制イスラム国家(Caliphate)*⁴の設立を宣言、イスラム国(Islamic State)へその名前を改めた。

リンク先を見る

ISが5年後までに支配下に置くとした範囲
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2674736/ISIS-militants-declare-formation-caliphate-Syria-Iraq-demand-Muslims-world-swear-allegiance.html

一部の学者やジャーナリストは、2003年のアメリカ軍による侵攻以来長引き過ぎたイラク戦争、また2011年のシリア内戦勃発以来国際社会が十分に介入してこなかった事が、過激派テロ組織誕生の土壌を産み出したと主張している(関連記事:迷走するアメリカのシリア政策)。

イラク国内では少数派であるスンニ派のフセイン政権がアメリカ軍により崩落させられ、その後シーア派が力を手に入れたことがスンニ派の社会的疎外に通じ、IS誕生の一因を担ったとも言えるかもしれない(関連記事:イスラム教対イスラム教)。

また、シーア派との宗教対立の構図から、厳格なスンニ派が主導権を握るサウジアラビアが同じくスンニ派を主張するイスラム国を支援しているという説、また石油産出国として大事な「パートナー」であるサウジアラビアの同行為を、西洋諸国が黙認しているという説も浮上している(関連記事:サウジ・イラン対立に、シーア派・スンニ派の宗派対立はどう関わってきたのか?)。

弱体化するイスラム国

しかし、最近では昨年からの空爆強化や経済的制裁によって確実に勢力が弱まっている。

今週にはISの化学兵器工場を空爆で破壊し、化学兵器研究・開発部門のトップが拘束されている。また、ISの構成員2万2000人分の名簿がIS治安警察から持ちだされ、英テレビ局スカイニュースに持ち込まれた。この名簿を盗み出したのはISの構成員で「ISが故サダム・フセイン元イラク大統領のバース党兵士に乗っ取られたことに幻滅した」、「ISはもうイスラム主義者の組織ではなくなった。ISはアサド政権とシリアで活動するクルド人の政党・クルド民主統一党の軍事部門『人民防衛隊(YPG)』と隊列を組んで、シリアの反政府勢力と戦っている」と述べている。

原油などによる収入源は大幅に減り、兵士の報酬は半減、ソーシャルメディアのアカウント封鎖によって外国人兵士のリクルートも困難になりつつある。一方で、残された構成員の不満や不安は高まり、テロ行為も過激化することが予想される。

だが、テロ問題の根本には格差や偏見が存在する。こうした問題を解決しなければ仮にISが崩壊しても次の「IS」が誕生するだろう。そのためにも、ISがなぜ、どのように誕生したのか、理解しておく必要がある。

【註】

1.イスラム教の最大宗派で、イスラム教徒全体の約85%を占める。スンニとは「慣行・規範・先例」という意味を表す。スンニ派は、イスラム教創立者であるムハンマドの死後、アブ・バクル、オマル、オスマン、アリーが後継者となり、4人を最高指導者(カリフ)として認めた。一方シーア派はイスラム教徒全体の約15%を占める。シーア派はムハンマドの娘婿で従弟のアリーだけが正統な後継者であり、その子孫がイスラム共同体の最高指導者を世襲すると主張している。イスラム国はスンニ派を主張している。

2.アフガニスタンに侵攻したソ連軍(1979年)と戦ったアラブの義勇兵など多くの組織が合体し、1990年代にイスラム過激派指導者ウサーマ・ビン・ラーディンによってアフガニスタンで結成された国際テロ組織。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを始め、世界中の多くのテロとの関わりが指摘されている。

3.アサド政権はシリア国内では少数派である、シーア派の一派アラウィー派が主要なポストを占めている。

4.カリフ制イスラム国家とは、イスラム法であるシャリーアに従い、唯一の宗教的・政治的リーダーであるカリフ(アラビア語で後継者を意味する。イスラム教の開祖ムハンマドの死後、イスラム共同体を政治・宗教両面で率いる指導者を選び、カリフと呼称した)によって統治されるイスラム教国家を指す。

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