- 2016年03月13日 09:05
オバマが目論む核戦力更新計画 - 岡崎研究所
核兵器廃絶を掲げてきたオバマ政権だが、1兆ドルの核戦力の更新を計画している、と1月23-29日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は、以下の通りです。
LRSOが核使用の敷居を低める
オバマ政権は今後30年かけて米国の核戦力を更新しようとしている。その一環である新型長距離巡航ミサイルLRSOの開発に対し、核軍縮派のペリー元国防長官らが異を唱えている。LRSOは米国の空爆作戦を牽引してきた核攻撃型巡航ミサイル、トマホークの後継だ。敵は核巡航ミサイルで攻撃されても、それが通常弾頭だったのか、核弾頭だったのかわからない、LRSOがなくても米国の核抑止力は損なわれないというのがペリーらの言い分である。
他方、オハイオ級原子力潜水艦や地上発射ミサイル、大陸間弾道ミサイル(ミニットマンIII)の後継の開発については、反対はほとんどない。ロシアが新START条約の許す限度の700基のミサイルと爆撃機を保有している現在、やはり必要というのが大方の見方だ。
そこで、議論の焦点はLRSOや自由落下核爆弾B61-12の開発になるが、これらは、主として次期爆撃機B-3に搭載されることになっている。既にノースロップ・グラマン社が開発を請け負い、2025年には就役する。
実は、この新型爆撃機の登場が、LRSOの正当性を主張する立場を弱くしている。加えて、B-3に搭載される新型爆弾が、核威力の拡大と縮小(広島型の3倍~2%)が可能で、命中精度も30メートル内と、これまでのミサイルよりはるかに高性能である。反対論者たちは、命中精度が高く、核威力を非常に小さくできるために、司令官たちがミサイル発射に踏み切る敷居が低くなる、と主張する。
一方、支持者たちは、反対論者は過去に囚われている、イランとは核合意が成立したが、複数のならず者国家が核を獲得する可能性がある今、同盟国に提供する抑止力に信頼性を持たせるには、小型で標的識別能力のある核爆弾が必要だと主張する。それにロシアも米国の通常戦力の優位を相殺すべく低威力の核兵器に力を入れている。要するに、国防総省の懸念は、使えるミサイルが全て大型で強力だと、米国は敵からの限定核攻撃への対応を「自己規制」してしまうのではないかということだ。
反対論を抑えて新型ミサイル・核は開発されるだろうと思える理由は他にもある。専門家は、核戦力の更新を約束していなければ、オバマ大統領は2010年に上院を説得して新START条約を批准させることはできなかっただろう、と指摘する。また、ロシアが同様の戦力を持てる状況にあって、LRSOも小型の通常弾頭ミサイルも搭載可能な次期爆撃機の開発を米国大統領が見送るとは思えない。
コストも大きな問題にはならないだろう。専門家は、歳出強制削減は今やほぼ放棄され、さらに、2027年の支出ピーク時でも核近代化計画は国防予算の5%を占めるだけだと言う。
出 典:Economist ‘Cruise control’(January 23-29, 2016)
http://www.economist.com/news/united-states/21688862-barack-obamas-administration-which-began-vision-get-rid-nuclear-weapons-has
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限定戦争エスカレートさせる懸念
オバマ政権による核戦力更新計画の中で、空中発射型巡航ミサイルの後継の空中発射長距離スタンドオフ・ミサイル(LRSO)の開発が論議を呼んでいます。
米国の洋上発射型巡航ミサイルからはすでに核弾頭がすべて取り除かれていますが、空中発射型にはいまだ核・非核の双方が配備されています。したがって相手は攻撃されても、それが通常弾頭なのか、核弾頭なのか分からないので、状況を不安定化させる恐れがあり、危険であるというのが反対論です。
これは、冷戦期の核戦略理論の中での柔軟反応戦略、限定核戦争に通じるもので、エスカレーション・コントロールが難しく、限定戦争がエスカレートする危険が大きいとするものです。
LRSOの他に、B61-12という新型核爆弾の開発も含まれています。B61-12は、核能力を広島型の3倍からわずか2%と、拡大縮小することが可能で、命中精度も30メートル以内と、極めて高性能であると言われます。このように核能力を極めて低くできると、核の敷居が低くなり、核が使われやすくなる懸念があります。
支持論は、ならず者国家が核を獲得するかもしれず、ロシアが米国の通常戦力の優位に対抗するため小型核爆弾の開発に力を入れているので、限定核攻撃の可能性に備える必要があると言います。特に同盟国の拡大抑止に信頼を持たせるために、小型の核爆弾が必要であると考えます。
限定核攻撃の可能性高まる中、米国はどうすべきか
つまり論点は、限定核戦争の危険を排除すべきか、相手による限定核攻撃に備える必要があるか、です。確かにLRSOやB61-12の開発は、限定核戦争の危険をはらみますが、米国が自制しても相手が限定核戦争を仕掛けてくることには、備えなければなりません。
ペリーらは、LRSOが無くても米国の核抑止力は損なわれないと言っていますが、限定的核攻撃に対する抑止力まで含めて言っているのかは疑問です。
ペリーらはまた今後開発される次世代ステルス爆撃機LRS-Bで、敵の防空網を掻い潜って攻撃することが可能なはずであるから、これまでのような空中発射型巡航ミサイルは要らないと言っていますが、各国でステルス機を探知する「カウンター・ステルス」能力を追求しているなど、未開発のLRS-Bに過度に依存するリスクは高いです。
現在の世界では、イランの核合意は成立したとはいえ、核拡散への動きが広まり、限定的核攻撃の可能性が無視できなくなっています。したがって米国が核を含めたエスカレーション・コントロールの柔軟性を追求し続けるのが賢明です。とくに拡大抑止の信頼性と関連してくれば、日本としてもオバマの核戦力更新計画を支持すべきです。
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