記事

ホンハイのシャープ買収 台湾の三大経済誌はどう報じたか? - 野嶋 剛 (ジャーナリスト)

交渉の大詰めに入り、今週後半か来週の正式合意も取りざたされている台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)によるシャープの買収問題。そのニュースは、もちろん、日本だけではなく、台湾でも大きく報じられている。なにしろ、この買収は、台湾で過去最大の「台湾企業による外国企業の買収」案件である。台湾では、この買収問題は、ホンハイ(鴻海)とシャープ(夏普)の中国語の頭文字を取って、「鴻夏恋」と呼ばれており、ホンハイはもちろん、シャープの知名度も台湾で高いこともあって、非常に大きな関心を集めている。

台湾の三大経済誌のリアクション

 日本でいえば「週刊東洋経済」「日経ビジネス」「週刊ダイヤモンド」にあたるような台湾の三大経済誌「商業周刊」「今周刊」「天下雑誌」(天下雑誌のみ隔週)は、先週発売された最新号でいずれも、ホンハイのシャープ買収に関する総力特集を組んだ(写真参照)。

画像を見る
台湾の三大経済誌(筆者撮影)

 「天下雑誌」のメインタイトルは「郭台銘(テリー・ゴウ)の野心と計算」。取材団を日本に派遣し、この4年間にわたる買収問題の経緯を総ざらいした。そのなかでは「『鴻夏恋』は、台湾にとっては産業構造の転換のきっかけになるかもしれないが、日本にとっては民族の自尊心が奪われることになる」と書いている。日本では、出井伸之・ソニー元社長にインタビューし、「私は郭会長も知っているが、非常に優秀な経営者であり、これほどいい条件でシャープを買うなんて、ちょっと考えにくい」という言葉も引き出している。

 三誌のなかで最大の発行部数を誇っている「商業周刊」は「狐と狸の戦争」というタイトルを掲げた。ここで狐というのは、ホンハイの郭台銘のことで、中国におけるホンハイの製造会社がフォックスコンという狐を冠した名前であることに引っ掛けている。狸とは、もちろん、シャープの経営陣を指している。シャープの二転三転の対応は、台湾からみれば、ずる賢い狸が、狐を騙そうとしているように見えるのかもしれない。

 「商業周刊」は巻頭のコラムで「伏魔殿」と題して、シャープ経営陣の不透明な意思決定に疑問を呈した。「伏魔殿」が、シャープ社員による本社2Fの歴代社長のオフィスがあるフロアに対する呼び方であることを紹介し、そこに個人の部屋、秘書、車まで付いていることについて、大きな驚きをもって紹介している。そのなかで、第四代社長の町田勝彦が第六代社長の奥田隆司を支え、第五代社長の片山幹雄が第七代で現社長の高橋興三を支えている、という構図で、シャープの内部対立が、ホンハイにとって分かりにくい状況を生み出していると指摘した。

怒りに震えた郭台銘会長?

 また、記事では、4年前にシャープへの出資額が当初670億円だったのが、今回の買収額がその10倍の7000億円と増大したことについて、その理由をいくつかに分けて分析している。それによれば、コストの高い液晶パネル事業に対し、創業者である郭台銘が非常に強いこだわりを過去から持っていること、②iPadやパソコンなどで使われるシャープのIGZO技術は喉から手が出るほど欲しいもので、世界で最もIGZOの量産技術を有し、経験豊富な生産ラインを持っているシャープを傘下に収めることで、今後、さらなる液晶関連の受注の増加を期待できると見ている。

 「今周刊」は、「ホンハイ×シャープ つまずきの交渉 その秘密を解く」と題した特集を組んだ。そこには、突然、シャープから提示された3500億円とも言われる「負債」が、ホンハイ側を驚愕させたことを紹介。この負債の通知が、2月24日の朝、一通のメールの形で、ホンハイの台湾本社に送られてきたが、このメールはまるで「原子爆弾」のように炸裂し、当時、中国に出張していた郭台銘が「怒りに震えた」というエピソードを紹介している。

 「天下雑誌」などと比べて、「今周刊」はシャープの買収については、比較的好意をもって紹介しており、シャープの製品のなかで、利益を生むもの、生まないものを子細に分析した。そのなかで「液晶パネル」「オフィス設備」「家電」などは利益を生むもの、「ロボット」「液晶テレビ」「台所家電」「ソーラーパネル」「ラップトップPC」などは利益を生み出さない問題商品だとしている。

経済問題として冷静にとらえる

 こうして台湾の報道を見ていて感じるのは、総じていえば、台湾側はこのホンハイによるシャープの買収について、一つの経済ニュースとして受け止めているということだ。日本人のシャープという企業に対する時代的な感傷や、シャープの社内事情などには、当然かもしれないが、そこまで強い興味を持っていない。また、海外企業に買収されるということに対する日本人のアレルギー感もあまり気にしていない。

 これは、企業間買収が活発な台湾において、人々が比較的買収という経済行為に慣れていることも関係しているだろう。日本においてシャープ問題は日本人のプライドなど一種の文化的問題も含んでいるニュアンスが目立つが、台湾では経済問題として買収のメリットとデメリット、コストなどについて日本以上に詳しく報道しようという姿勢が強いことが特に印象に残った。

あわせて読みたい

「シャープ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    安倍首相 ヤジの原因は憲法改正?

    メディアゴン

  2. 2

    マスクより品薄? 消毒薬の注意点

    市川衛

  3. 3

    コロナ対応の優先度理解せぬ政府

    川北英隆

  4. 4

    社民と立民の合流話は立ち消えか

    早川忠孝

  5. 5

    コロナ検査 医師が不利益を指摘

    名取宏(なとろむ)

  6. 6

    橋下徹氏「国立大学は甘えすぎ」

    橋下徹

  7. 7

    風俗に母同伴 親子共依存の実態

    AbemaTIMES

  8. 8

    コロナ巡る混乱 抗体ない深刻さ

    essa

  9. 9

    マスクなしで頑張る 森氏に批判

    女性自身

  10. 10

    コロナで観光客減 非正規に危機

    藤田孝典

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。