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イスラエルが対IS戦に加わらない理由 - 岡崎研究所

ワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスが、イスラエルでの対イスラム国戦のシミュレーションを見聞し、1月26日付同紙に「イスラエルはなぜイスラム国について慎重なのか」との論説を書いています。論旨は次の通り。

 イスラエル国家安全保障研究所(INSS)は、「ISがシリア国境でイスラエル軍偵察隊を攻撃、4人を殺害、ヨルダンの国境検問所も襲撃し、シリア南部のダアラ地域を占拠した」との想定で、米、ヨルダン、イスラエルの代表も参加した戦争シミュレーションを行った。

IS攻撃に慎重なイスラエル

 イスラエルとヨルダンの代表は、報復はしつつも、テロリストに対する激しい戦闘を回避し、米国のリーダーシップを見守る方針を取った。ISとの紛争には、米国が関与を強めても、イスラエルとヨルダンはシリアの混乱した内戦に引きずり込まれないように慎重さと自制心をもって行動する、との結果が出た。

 イスラエル・チームを率いたAssaf Orion退役将校(イスラエル軍の元計画立案スタッフ)は、「我々はイスラエルを紛争から遠ざけておくことが重要と信じている」と言った。戦争シミュレーションでは、イスラエルは兵士殺害への報復はしたが、大規模な軍事作戦は避けた。ヨルダンもエスカレーションの回避を望んだ。ヨルダンの代表は、シリアに自国の軍を送ることは避け、難民と国内のテロリストの秘密細胞について懸念を示した。そして、ロシアとシリア政権の合同軍がISをシリア南部の拠点から駆逐することを望んだ。

 米国の代表John Allen将軍(最近まで米主導の有志連合のISに対する戦略を調整していた)は、「米国はイスラエルとヨルダンの安全保障を重要な国益と見ており、同盟国への如何なる攻撃に対しても報復のため戦闘機を派遣する」と言った。米軍の関与は、シミュレーションでも現実でも増大している。

イスラエルが本気を出せばISは3~4時間で駆逐可能

 このシミュレーションの結果に満足できないとすれば、現実に対してはなおさらであろう。ISが地域や国際秩序に対する重大な脅威であるとのコンセンサスは高まっている。しかし、イスラエルもヨルダンも、戦いの大部分を行っている米国を頼りにしている。

 イスラエルの軍司令部を訪問して、シミュレーションはイスラエル軍指導者の紛争への見方を正確に反映している、と確信した。あるイスラエル軍高官は、「イスラエルは、北及び東の国境沿いのIS軍を攻撃するのではなく、抑止、封じ込め、ひそかな接触さえ望んでいる」と言い、「イスラエルがシリア南部とシナイ半島のIS軍への総攻撃をすれば、3、4時間で駆逐できるだろうが、その後事態は悪化するので、我々は抑止に努めている」と述べた。

 「イスラエルはISへの対応で蜂の巣をつつくようなことをしたくないが、米国は超大国であり、地域でのリーダーシップを維持したければISを押し戻す戦いを率いなければならない」と殆どのイスラエル当局者が言っている。

 INSSの会議では、中東ではゲームのルールが変わりつつあるということが言われた。国家は分裂し、自称カリフ国はシリアとイラクに深く根を張り、世界中の多くの国にプレゼンスを拡大、今もって革命的なイランはアラブの殆ど全ての国を不安定化すべく代理戦争をやっている。ムバラク、アサド、カダフィの世俗王朝に体現される旧秩序は粉砕されている。

 イスラエル人は、中東では国家システムが壊れ、それは長年続きそうであると考えており、どのように戦争をするのか、注意深く考えなければならないとしている。

出典:David Ignatius,‘Why is Israel so cautious on the Islamic State?’(Washington Post, January 26, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/in-the-middle-east-a-serious-game-of-war/2016/01/26/30c3cfac-c466-11e5-a4aa-f25866ba0dc6_story.html

*   *   *

イスラエルの対IS戦参戦はあり得るのか

 この論説はイスラエルの考え方を適切に説明しています。もともとイスラエルはアサド政権が倒れることを歓迎していたわけではありません。よく知っている悪魔の方が混乱の中から生まれてくるよくわからない悪魔よりましだと考えていたフシがあります。

 しかし、シリア内戦が今の状況になった中で、アサドの方がましということは言えないし、言っても仕方がないと考えています。ISとの戦いにイスラエルが今乗り出していく気はありません。ロシア、アサド、米国などがISと戦っており、その帰趨を見守っている方が現段階では適切と考えていると思われます。

 しかし、状況は極めて流動的であり、状況に応じてイスラエルも対応せざるをえなくなる可能性があります。シリア南部のダアラ地域には「ヤルムーク殉教者旅団」があり、これはISに忠誠を誓っています。イスラエル南部はシナイ半島に接していますが、そこにはISの「シナイ地方」を名乗っているグループがあります。その上、ISがパレスチナやイスラエルのアラブ市民にシンパを獲得する可能性があります。イスラエルはISとの戦いやシリア内戦に巻き込まれることを極力避けようとするでしょうが、そうはいかない状況もありうるでしょう。

 「イスラエルが総攻撃すれば、南部シリアやシナイ半島のISを数時間で駆逐しうる、しかしそのあとが心配だ」とイスラエル軍高官が述べたのは、大きな示唆を与えています。今のイスラム国を掃討するのには、何十年もかかるなどと言うのは間違っています。西側の能力よりやる気の問題が大きいと言えます。

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