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【読書感想】プロ棋士の思考術

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プロ棋士の思考術 (PHP新書)


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プロ棋士の思考術 大局観と判断力 (PHP新書)

内容紹介

トップ囲碁棋士のなかでも、とくに優れた大局観をもつ著者が、プロとして勝ち続けるために必要な、ものの見方、考え方を明快に説く。布石、定石、手筋といった知識・技術の先にある囲碁の極意とは? 幼少期から劣等生で、意志が弱く、誘惑に勝てなかった著者が、いかにして最強の囲碁棋士となったのか? 「捨石の発想」「悪手が好手になるとき」「強さと弱さは同居する」「負けには理由が必ずある」――物事の本質を見抜く勝負師の言葉は、ビジネスにも人生にも通じる普遍性をもつ。

◎第1章 「正しいか」より「新しいか」でものを見る

◎第2章 不安な手イコールだめな手とは限らない

◎第3章 「どうあっても!」は知恵の宝庫である

◎第4章 希望に向かう船にはどんな風も順風に働く

◎第5章 最悪の状況で「最善の布石」

◎第6章 自分を進めることは世界を少し進めること

 トップ囲碁棋士、依田紀基さんによる、「プロの勝負師として生き抜いていくための思考術」。

 2008年に新書が出て、2014年の10月に電子書籍化されたものです。

 政治に関する話題などは「今、なぜこの話を?」などと思いながら読んでいたのですが、読み終えたところで、紙の本はずっと前に出ていたことを知りました。

 古いから役に立たない、ということはないのですが、Amazonの電子書籍は、検索しなおさなくても、紙の本がいつ出たかわかるようにしておいてほしい……

 本題とは関係ない前置きはさておき、タイトルをみて、なんだかすごくロジカルな話が続いていくのかと思いきや、この新書の内容の半分くらいは「囲碁の対局での考え方」ではなくて、著者の半生についてとか、いまの社会への想い、とかなんですよね。

 ですから、「そこそこ囲碁が強い人が、もっと強くなるために読む」には、あまり適していないかもしれません。

 ものすごく強い人が壁にぶち当たったときのためのヒント、あるいは、囲碁のルールとかはよく知らないけれど、自分の生き方が見えない人、そのいずれかの人には、有用なのではないかなあ。

 囲碁や将棋の「棋士」というのは、故・米長邦雄名人の「兄貴は頭が悪いから東大に行った」という名言にもあるように、「ものすごく頭が良い人が就く仕事」だと僕は思っていました。

 もちろん、今でもそう思ってはいるのですけど。

 ですから、この新書で、依田さんの少年時代の話を読んで、すごく驚いてしまったのです。

 私を優等生と考える人は皆無だろう。いまでこそ少しおとなしくなったが、十年ほど前までは、はちゃめちゃなことばかりしていた。

 もともとが、学校が大嫌いな子どもだった。多くのプロ棋士の方々は学校の成績もよかったと聞くが、私はまったく逆だ。小中学校の学業成績は、オール1である。絵に描いたような劣等生だ。

 だから、コンプレックスのかたまりだった。

 北海道の田舎育ちで、勉強ができない。あのまま世の中に出ていたら、どういうことになったか。幼な心に「オレは生きていけないのかもしれない」というくらい、つらく情けない気持ちをたっぷりと味わった。

 幸いなことに碁の勉強だけは好きだったので、国語や算数の代わりに碁石と親しんで少年時代を過ごした。

 プロになってからは、新宿で遊びまくった。マージャン、酒、バカラ賭博、そして女性。十代後半から二十代は、遊びの合い間に碁を打っていたといっていい。

 だが、いま思い返すと、そうしたどん底生活の中で、勝つためには何が欠かせないのかをつかみ取ってきたように思う。大局観もまた、あの七転八倒の中で養ってきたのだとわかる。

 僕は囲碁にはあまり詳しくないのですが、近年の将棋の世界では、パソコンやネットによって、情報がどんどん集まってくるので、トップ棋士たちは常に研究に余念がない、というか、優等生でないと長く活躍していけない、というイメージがあります。

 渡辺明さんの競馬好きは有名で、ひと昔前の棋士には、さまざなま「豪遊伝説」みたいなのもあるんですけどね。

 依田さんも仰っているように、基本的には「勝負事大好き」の人たちのようですし。

 それにしても、依田さんのように囲碁界のトップに君臨している人の学校での成績が「オール1」(本当は、「体育だけは2」だったそうです。それはそれでリアルだ……)で、それでも、囲碁にハマり、脇目もふらずに打ち続けたおかげで、これほど強くなったというのは、けっこう衝撃的でした。

 これほど集中して囲碁をやれる人だからこそ、遊びにハマってしまうと、徹底的に遊んでしまう、という面もあるのでしょう。

 名人になってすぐの防衛戦のころも、ファミコンにはまっていた。

 挑戦者が決まるのは対局二カ月前だ。決まったら棋譜を調べたり、心身の調整に入るのが通例なのだが、テレビの前を離れられない。ファミコン漬けである。「1時間だけ」と決めて始めるのだが、意志が弱いから、とても1時間ではすまない。延々とかじりつく。それが一日、二日……と続く。

 さすがに、これでは名人位を取られてしまうと危機感を抱いた。ファミコンで名人位を失うのではみっともないな、と反省した。

 でも、目の前にファミコンがあると、つい手が出てしまう。

 追い詰められて「捨てるしかない」と心を決めた。ある日、ファミコンのソフトを全部袋に入れて、家から遠い場所まで運んで、袋ごと捨ててしまった。

 こうして、ようやく碁盤の前に戻ることができた。

 ファミコンは、こんなことを都合4回くらいやっている。対戦が終わると、またファミコンをしたくなる。そのつど新しいソフトを買っているのである。

 この新書を読んでいると、依田さんの「大事な対局の前日に、テレビゲーム『三国志』にハマってしまっていた」などという告白が、なんだかとても愛おしくなってくるんですよ。

 ああ、こういう「ダメ人間」でも、プロ棋士としてやっていけるんだ、と。

 ビジネス書にあるような「折り目正しい、効率の良い生き方をしている成功者」の話を読んでいると、絶望的な気分になってしまうのだけれども、こういう「ダメなところを抱えつつも、前に進んでいこうとする人の話」には、勇気づけられるのです。

 僕も「ダメ人間」だし、「ついゲームにハマってしまう気持ち」は、わかりすぎるほど、よくわかる。

 もちろん、依田さんと僕とでは、才能に差がありすぎるのですが、それでも、「ダメ人間には、ダメ人間なりの生存戦略みたいなものがあるのだ」という考え方は、読んでいて嬉しくなってくるのです。

 いま、世の中は理屈っぽくなっていて、感情の重大さを見逃しがちな気がする。だが、自分、相手、周囲それぞれの感情が一体となって大きな作用をもたらすことを忘れてはならない。

 ただ、いかにもまずそうな手は、打ったことがない。「まずそうに打とう」と思っても、心にブレーキがかかってしまう。

 はっきりしているのは、悪い手を打っているから負けるとはかぎらないことである。悪手が悪手を呼ぶということもある。しまった、ひどい手を打ってしまった」と心の中で激しく後悔しているとき、釣られるように相手がもっと悪い手を打つこともある。

 あとで悪手を打ったほうが不利になる。すると、こちらの悪手がよい手になってしまったりするのだ。

 碁は感情の戦い、感情の交換でもあるのだと、つくづく思う。

 コンピューター将棋が「終盤に強い」というのも、終局に向けて、選択肢が狭まって読みやすくなるのと同時に、こういう「感情でのブレがない」からなんですよね。

 逆に言えば、人間は「勝ち」を意識すると、普段はやらないようなミスを、してしまうことがあるのです。

 「悪手」を打って、しまった……と思っていたら、相手も同じように、あるいはもっと酷いミスをして、勝ちが転がり込んでくる、というのは、スポーツの世界でもよくみられます。

「確実に勝てるはずの勝負を、きちんと勝つ」というのは、本当に難しい。

 バカラで大借金をつくった。返済しなければならない。棋戦でがんばった。そして、二つの大きな棋戦で優勝した。借金も完済できた。

 この経験も、プラス思考から見ると、いろいろと分析できる。

 もし大借金をつくらなかったら、二つの棋戦で、あれほどまで必死には、なれなかったかもしれない。借金してまでバカラにのめりこんだのは、いかにも馬鹿だし、常識はずれだが、それが私の力を引き出す原動力になったのだ。

 こう考えれば、馬鹿になって、どん底に落ちるのも、あながち悪いことではなくなる。

 いやそれは、結果的にうまくいったからなのでは……とも思うんですよ。

 ただ、こういうプラス思考の人だからこそ、うまくやれたのかな、という気もします。

 少なくとも、バカラで大借金をつくったりしているわけでもないのに、あまりにもマイナス思考になっていることには、何のメリットもなさそうではあるんですよね。

 真似できるような生き方ではないのですが、世の中にはこんな人がいるんだなあ、というだけで、少しだけ元気が出る、そんな新書です。

 依田さん、こういう新書より、自叙伝を書いたほうが面白いんじゃないかなあ。

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