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議員報酬増額問題の核心

 名古屋市議会は8日、議員報酬を800万円から1455万円に引き上げる条例案を可決しました。5年前に河村たかし市長が主導して実現させた「報酬半減」からの大転換となります。全国的にも非常に注目が高まっているので、3つのポイントを解説します。

 これまでの経緯は次の通り。 2009年に初当選した河村市長は市民税の減税や市議会議員の報酬半減を提案し、議会と対立。事態を打開するため、市議会の解散要求、いわゆるリコール運動を展開し、住民投票を経て議会の解散を実現させました。

 その後に行われた名古屋市議選では地域政党「減税日本」を設立し、「減税ブーム」を巻き起こして議会第一党に躍進。その勢いで議員報酬の半減を実現させました。

 名古屋市の本来の議員報酬は月額99万円で、期末手当(ボーナス)を含む年収は1633万円。河村市長はこれを「市民並みに引き下げる」として月額50万円、年収ベースで800万円に減らしたのです。

 ただ、この時の条例案は「暫定措置」との位置づけでした。河村市長は元々、報酬を恒久的に減らす考えでしたが、これには自民、民主などが反対。減税日本が議会の半数に満たなかったため、妥協案として「当分の間の措置」として報酬半減を実現させました。

【これまでの経緯】

2009年4月 河村市長が初当選

2010年12月 市議会解散のリコールが成立

2011年1月 河村市長が辞職

2011年2月 愛知県知事選、名古屋市長選、住民投票の“トリプル選”。河村市長が再選

2011年3月 名古屋市議選で減税日本が第一党に躍進

2011年4月 議員報酬を暫定的に半減させる条例案を可決

2013年4月 名古屋市長選で河村市長が3選

2015年4月 名古屋市議選で自民党が第一党に復帰

2016年3月 議員報酬の引き上げと定数削減の条例案を可決

 第一のポイントは、報酬半減条例が「全会一致」で決まったことです。今回、引き上げ条例を提案した自民党も公明党も民主党も、2011年の時点では報酬半減に賛成しています。それが一転して650万円も引き上げなければならないのはなぜなのでしょうか。

 議員報酬等について検討する「議会改革推進協議会」では、引き上げの根拠として「他都市と比べて報酬額が低すぎる」とか「生活が苦しい」といった議論が出ていました。しかし、その状況は5年前と変わりません。今になって引き上げる根拠とはいえません。

 さらに、協議会では引き上げ後の報酬水準として、主要都市の中で最も削減率の高い大阪市を引き合いに出し、大阪市より少し削減率が高い水準にしようという発言が出ています。その結果が1455万円ということのようですが、報酬額の決め方としてはいくらなんでも乱暴ではないでしょうか。

  第二のポイントは「定数を削減して身を切るんだから、報酬を増やしたっていいだろう」という理屈の妥当性です。今回、定数を削減する7つの区の直近の選挙結果を見ると、最下位当選は共産党4区、減税日本2区、自民党1区となっています。

 つまり、削減後の次回選挙で最も厳しい選挙となるのは共産党と減税日本ばかりで、自民は一人だけ割を食うものの、公明と民主は安泰なのです。これで「身を切った」といえるかどうか、これは議論のあるところです。

 第三のポイントは手続きの問題です。今回、引き上げ派は委員会審議もなしに、直接本会議に提出して「数の力」で強行採決しました。市民の税金から支給される報酬の650万円引き上げをまともな議論もなく通していいのでしょうか。疑問があります。

 また、報酬の半減は選挙を通じた「民意」の後押しで決まりましたが、その後の選挙で引き上げ派は「報酬の大幅な増額」を主張したかというとそうではありません。支持者にそうした主張をした議員もいたかもしれませんが、選挙の争点として堂々と掲げたわけではありません。市長はせめてアンケート等で市民の意見を吸い上げるべきだとしています。

 市長は拒否権を発動するようですが、結論は覆りそうにありません。市民がこの動きに対してどんな反応を示すのか。今後も注目したいと思います。

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