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「トランプ・リスク」、市場はどう見る?

 好き嫌いはさておき、ドナルド・トランプ氏を無視できる人はいない。

 投資家を除いては。

 保護主義を振りかざし、米国にとって第3位の貿易相手国であるメキシコと険悪な関係にある人物が大統領に選出される可能性について、市場は今のところ一切、心配していないようだ。

 なぜトレーダーは「トランプ大統領」誕生の可能性が増しても落ち着いていられるのか。その理由を探れば、市場がどのように政治リスクを評価しているのかが見えてくる。

 まず、トランプ氏が大統領に当選する可能性について見てみよう。オンラインブックメーカーのベットフェアによると、トランプ氏が大統領に当選する確率は現在24%。英国が6月の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択する確率(27%)とほとんど変わらない。

 ところが、市場は英国のEU離脱の可能性に大きく反応する一方で、トランプ氏勝利の可能性には一切反応していない。

 市場が「トランプ・リスク」に反応しないのはなぜか。ざっくり言ってしまえば、トランプ氏に勝ち目があると考えている大手のファンドマネジャーがほとんどいないからということになるが、もっとまじめに答えれば、米国の大統領選は11月と先の話だが、英国の国民投票は6月に迫っているからだ。

 トレーダーは目先の出来事しか見ていないことが多く、大統領選の投票日が来るまでに心配しなくてはならないことは他に山ほどある。市場の近視眼的なところを皮肉っているように思うかもしれないが、評価が難しい政治リスクをいよいよ目をそむけることができなくなるまで完全に無視することは、トレーダーにはよくあることだ。

 最近の例で言えば、2011年の米国の債務上限危機が起きたときは、議会採決が行われる数日前になってはじめて株式市場が反応した。2014年のスコットランド独立をめぐる住民投票は投票日が数週間後に迫るまで市場から無視された。

 マクロ・リスク・アドバイザーズ(本社:ニューヨーク)のデリバティブストラテジスト、プラビット・チンタワンバニック氏がトランプ・リスクについて顧客に尋ねたところ、「先のことすぎて考えられない」という答えが返ってきたという。

 トランプ・リスク自体、評価が難しいという理由もある。トランプ氏はメキシコとの国境沿いに壁を建設し、イスラム教徒の外国人の米国入国を禁止すると約束しているが、経済政策はほとんど明言していない。

 ヘッジファンド、SLJ・マクロ・パートナーズの創業者であるスティーブン・ジェン氏は、この違いについて「個性の問題と制度の問題の違い」を指摘する。英国がEUから離脱するということは法的、政治的な枠組みの変更だ。一方、トランプ氏は政策より個性を売り物にしているが、大統領に就任すれば、歴代大統領と同じように大統領執務室に収まり、議会や最高裁判所に手足を縛られることになる。

 ジェン氏は「先進国の市場には非常に強力な枠組みがあり、個性はそれほど重要ではない。だが、新興市場ではその逆だ」と語った。

 トランプ氏の勝利を恐れる投資家にとって一番気になるのは「トランプ大統領」から投資資産を守る方法だ。これには金買いやドル売りのほか、選挙前後に株式市場のボラティリティーが上昇すると見込んで投資するなどの方法が提案されている。

 問題は市場が条件反射してしまうことだ。投資家は不安になるとドル買いに走る傾向にある。2011年7月末に米国政府がデフォルト(債務不履行)の危機に直面したときもそうだった。奇妙なことだが、パニックに陥った投資家は米国債に殺到し、ドルが上昇する一方で、金相場は2週間で1オンス当たり200ドル超も値下がりした。

 ドル買いに走るより市場のボラティリティー上昇に賭けるほうがましな選択かもしれないが、これができるのは専門家だけだ。選挙前に懸念が高まれば利益を挙げることができる。

 チンタワンバニック氏によると、夏から年末にかけてS&P500オプションの予想変動率は基本的に横ばいだ。トランプ・リスクに懸念が高まることを見込んで投資するなら、選挙の前と後に期限を迎えるオプションのスプレッドを利用すればいい。中国や欧州の銀行、景気後退などをめぐる懸念が後退した場合のヘッジにもなる。

By JAMES MACKINTOSH

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