記事

暴言王トランプ氏が米国大統領に?/一体何が起きているのか

2/2

節操のない転身と首尾一貫しない主張

トランプ氏の公約や主張は共和党の主流派のそれと異なるのみならず、全体として首尾一貫せず、相互の整合性が取れているとは言い難い。その場限り、との印象が強い。それもそのはず、彼の転身の履歴もおよそ常識はずれというしかない。

2000年にはそれまでの共和党支持から鞍替えして、改革党から大統領選挙に出馬(落選)し、2001年には一転、民主党に参加している。ところが、2009年になると共和党に再参加したと思えば、2011年には無所属になって大統領選に備えている(不出馬)。そのあげくに、2012年に共和党に戻っている。

主張は首尾一貫していて、それを通すために、政党を変えているのかと思えば、それも違う。数年前には、国民皆保険制度を支持していたはずが、今はオバマ政権の医療保険制度改革を非難しているし、かつては不法移民の恩赦に賛成したが、今回は恩赦反対を主張している。このような、日和見的な、国民の人気を得るために主義主張を変えることを厭わない政治信条をなんと呼べばよいかと言えば、やはり『ポピュリズム』しか思い浮かばない。ポピュリズムの核心は、政治共同体内部の『エリート』批判や彼らの『既得権益』独占を非難するような『反エリート主義』にあるから、まさにトランプ氏の立ち位置こそ、ポピュリズムの『ど真ん中』とも言える。繰り返すが、今の米国には、常軌を逸した暴言を連発し、節操のない転身を繰り返してきたトランプ氏であっても、それよりも社会の一部の支配者の特権を突き崩そうとしているように見える姿に喝采してしまうような、大量の有権者がいるということになる。

ポピュリズム

米国のポピュリズムは過去何度も、その危険な相貌を表に晒してきた。古くは、共産主義者狩りで全土が熱狂したマッカーシズムがそうだし、レーガン革命と言われたレーガン元大統領の経済改革(レーガン・エコノミクス)も、国民の過剰なほどの熱狂的な支持に支えられていた。9.11の後のブッシュ元大統領の反撃の叫びに熱狂する米国民の姿は一面、トランプのような鬼っ子を産んでしまう今日を予感させるに足るものだった。

最近で言えば、米国市場における、トヨタの自動車のアクセルの不調等に伴う過剰なほどのトヨタたたきも、ポピュリズムの怪物がぬっと現れたような戦慄を感じさせるものがあった。確かに、リコールに相当する不良品を出したトヨタ側の問題もあったとはいえ、最終的には死亡事故につながるような電子制御システムの不調はなかったことが証明された。それなのに、トヨタ車が止まらなくなって死にそうになったというユーザーの(事実誤認としか考えようのない)苦情が大量に寄せられ、それにメディアが扇情的な報道を被せて煽りに煽る。米国を代表する自動車会社であるGMが経営危機に陥り、破産法からの脱却に成功したとはいえ弱体化は否めず、今にも米国のシェア首位の座がGMからトヨタに移ろうとしている最中だったこともあり、よそ者のトヨタへの米国民の潜在的な嫌悪感が背景にあったのではないかとも思われるが、ブランドイメージが大きく傷つき、販売にも多大なダメージをくらったトヨタ側はたまったものではない。ただ、あらためて、このようなポピュリズムが火を噴く可能性を持った米国市場の難しさを関係者は噛み締めたことだろう。

ポピュリズムは世界の潮流?

ただ、こうしたポピュリズムは、昨今では一人米国だけの問題ではなく、世界的な潮流というべきだろう。トランプ氏が大統領候補として出てきた時、私がとっさに思い出したのは、イタリアのベルルスコーニ元首相だった。ベルルスコーニ氏も実業界出身で、メディア王といわれていた。その経験からか、国民の喜ぶことをよく知っていて、国民の人気を背景にイタリアでは戦後最長政権となった。しかしながら、その結果として、財政規律は緩み、債務は絶望的な規模に膨れ上がり、イタリア経済はそのくびきから抜け出せなくなり呻吟している。

ポピュリズムという点ではフランスのサルコジ元大統領もそうだろうし、また、日本なら小泉元首相が典型例と言える。最近では、橋下元大阪市長が登場した時の熱狂も同系列といわざるを得ない。どこも、社会が大きく変化の波にあらわれ、従来の政治家や官僚の政治を国民が信頼できなくなり、やりきれない感情が鬱積し、改革者というより旧体制の破壊者を求める空気が蔓延すると、その声に答え、矛盾を物ともせず、一点突破主義で、その一点が実現すれば全ての問題が解決するがごとくの幻想的な期待を抱かせるようなポピュリストが出現する。中には、レーガン革命のような成功事例もあり、リーダーの資質によっては良い意味での改革が進むこともないとは言えないが、多くの場合、結局それまでよりもっと大きな混乱を後に残してしまう事例が多く、まして、トランプ氏のような怪物的な人物が大統領に選ばれてしまったら、その国のみならず世界に回復不能なほどの深い爪痕を残すだろう。

危機の本質を理解して備えるべき時

今、世界は本当に危機的な状態にある。中東でも、欧州でも、ロシアでも、中国でも、ちょっと火がついたら大きく燃え広がりかねない。一方で、トランプ氏同様の怪物がどこでもかしこでも現れそうな、大変物騒な雰囲気に満ち溢れている。こんな時に、世界で一番影響力の大きな元首である米国大統領に、トランプ氏のような、火を自らつけたがっているような人が就任すれば、本当に恐ろしいことになる。チョムスキー名誉教授は、貧困にあえぐアメリカ人にとって、彼らの絶望や怒りは、彼らの生命を脅かす制度を解体しようとするのではなく、もっと多くの犠牲を払うような方向へと向いていて、ヨーロッパでファシズムが興った時と状況は似ているという。これが世界に波及することを真面目に心配する必要が出てきていると言える。

米国の大統領選挙については、他国のことであり、日本人が直接できることがあるわけではないが、せめて、この現象がどのような帰結をもたらす恐れがあるか歴史をよく勉強して、少しでも日本がその後を追わないように、この事象を基調な他山の石として備えておきたいものだ。ただでさえ、日本でも今後所得格差は広がり、中間層がますます薄くなり、貧困層が増大していくと考えられる。他山の石ではすまなくなる怖れも十二分にあることを忘れてはいけない。

あわせて読みたい

「アメリカ大統領選」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    布マスク費用への批判は大間違い

    青山まさゆき

  2. 2

    日本の補償は本当に「渋チン」か

    城繁幸

  3. 3

    タバコで新型コロナ重篤化の恐れ

    BLOGOS編集部

  4. 4

    反権力は正義か マスコミに疑問

    BLOGOS編集部

  5. 5

    現金給付案に自民議員からも批判

    山田賢司

  6. 6

    高学歴女性がグラビア進出する訳

    NEWSポストセブン

  7. 7

    辻元氏「ピント外れの補正予算」

    辻元清美

  8. 8

    米 議員にZoomの使用禁止通達か

    ロイター

  9. 9

    安倍嫌いでも協力を 医師が訴え

    中村ゆきつぐ

  10. 10

    政治を動かした医学専門家の責任

    篠田 英朗

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。