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軍事費から見た中国経済の低迷 - 澁谷司

2016年3月5日、中国全国人民代表大会で今年の軍事費(9543億元=約16.7兆円)が前年比7.6%増と発表された。この数字は注目に値する。

 中国は、1989年(「天安門事件」が起きた年)以来、毎年、軍事費を2桁成長させてきた。GDPの伸長に伴い、国防予算も増大したのである。

 ところが、2010年(3月)、7.5%増(前年比約半分)という1桁の伸びにとどまった。実は、その約1年半前の2008年9月、世界を揺るがす「リーマン・ショック」が起きている。そのため、中国経済も大打撃を受けたのである。さすがの中国でさえ、国防費の削減が迫られたと思われる。

 さて、今年の軍事費の伸長も1桁台にとどまった。1989年来、2度目である。なぜか。

 中国国家統計局の発表では、2014年のGDPは63.6兆元(約1113兆円)で前年比7.3%増である。他方、今回、全人代の政治報告で、李克強首相は2015年のGDPは67.7兆元(約1185兆円)で、前年比6.9%伸長したと説明している(ちなみに、今年1月、国家統計局が同一の数値を発表済み)。

 仮に、中国政府が発表するGDPの数値が正しいとしよう。2014年のGDPは前年比7.3%増である。そして、翌15年は同6.9%増へと下落した。両年でわずか0.4ポイント下降したに過ぎず、6.9%は“立派”な数字である。

 一方、2015年の軍事費は前年比10.1%伸長している。ところが、今年は前年比7.6%と2.5ポイントも下落した。不思議ではないか。

 1989年以来、中国の軍事費2桁伸長は、いわば“ならわし”となっている。前述の通り、唯一の例外は2010年だけだったのが、今年もである。

 周知の如く、習近平政権は「積極的防衛政策」を採り、特に東シナ海・南シナ海へ“膨張”している。したがって、万が一、中国経済が本当に6.9%と好調ならば、国防予算も2桁の伸びであっても不思議ではないだろう。

 けれども、同国のGDPの伸長は、良くても2~3%前後と推察される(マイナス成長との説もある)。そこで、逆に、人民解放軍は国防費だけはしっかり予算を確保したとも言えよう(軍の強い要求が通ったのかもしれない)。あるいは、習近平体制が解放軍を懐柔するため、防衛費を大幅に削減できなかったとも考えられる。そうでなければ、軍事費1桁台という低伸長の説明がつかない。

 普通の国ならば、景気を知るためにはGDPを見れば良い。だが、北京政府はしばしば数字を捏造する傾向があるので、中国のGDPは鵜呑みにできない。

 そこで、我々が以前から主張しているように、中国経済のトレンドはその“公定歩合”(中央銀行から一般銀行への預金・貸出金利)を見れば一目瞭然である。

 2008年9月15日の「リーマン・ショック」直後、胡錦濤政権は、その翌日から同年12月下旬までに5回も公定歩合を引き下げた。胡政権の危機感が如実に現れていよう。

 一例として、「1年から3年モノの貸出金利」が、その3ヵ月あまりで、7.29%から5.40%まで急降下している。

 その後、約2年近く経て、2010年10月、胡錦濤政権はようやく「1年から3年モノの貸出金利」を5.60%へ引き上げた。景気が回復した証左である。

 他方、習近平政権は2014年11月以降、翌15年10月まで5回にわたり「1年から5年モノの貸出金利」6.0%から4.75%へと徐々に引き下げた。現在、1990年来、最低の貸出金利となっている。つまり中国の景気は、「リーマン・ショック」後よりも更に悪いということである。

 その結果、たとえ人民解放軍の中でいかに不満が生じようと、今年の軍事費が、2010年並みの7.6%まで抑制されたのはやむを得ないだろう。

 話は変わるが、一部の日本人エコノミストは、中国政府がある程度の財政出動をすれば、景気が良くなると言う。だが、北京が簡単に財政出動できないほど、中央の赤字が累積していることを忘れてはならない。

 胡政権が巨額の財政支出(最低でも4兆元。一説には40兆元)で、経済不況を乗り切った。だが、その際に作った莫大な財政赤字で、今の習近平政権は首が回らない状態に陥っている。だからこそ、習近平政権は多額の財政支出に二の足を踏んでいるのだろう。

 北京が財政出動(内需)できないとすれば、あとは「一帯一路」(外需)に活路を求めるしかあるまい。すなわち、習近平主席がトップセールスを行い、諸外国での原発や高速鉄道等を諸外国へ売り込むしか他に方法はないだろう。ただし、内需と違って何分にも相手があるので、“頓挫”しているインドネシア高速鉄道のような事態も生じかねない。

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