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江戸時代はなぜ「イクメンが普通」だったか - 男と女の絶対法則【育児分担編】

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太田素子 瀬地山角 編集=渡辺一朗 構成=奥田由意

職住接近が可能にした江戸の父親の育児

──江戸時代は封建制。男に育児のイメージはないだろう。しかし父親が育児を担う合理的な背景があった。

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武士の父親は皆教育パパだった
 「幼童遊戯早学問手紙用文はんじ物」(歌川芳員、文久2年)。父が幼い子どもたちに、読み書きの大切さを教えている場面。江戸時代、読み書き算盤を教えるのは、家長たる父親の役目だった。男子は武士の競争社会を生き抜き、女子は良家に嫁がせる(あるいは婿取り)ためにも、教養が必要だった。(公文教育研究会所蔵)


近世の人々にとって、家を豊かにし後代に伝えることが自分や家族の命運を握る鍵でした。それはとりもなおさず、子どもに学を与え、賢く育てて家督を譲ることを意味しました。家だけが自分を守る盾であった時代、教育に熱心であることは美徳であり、差し迫った課題だったのです。

武士の場合、父親はまず、子に学問を教える「教育パパ」でした。上級武士と下級武士の垣根はあったものの、それを乗り越えて勘定方の地位を得るなど、能力次第でエリートへの道も拓けたからです。

林子平の『父兄訓』が象徴するように、育児の監督責任は父親にあり、父親向けの心得を説くことが、育児書でも一般的でした。

そればかりでなく、陣屋という見張り小屋での宿直に、父親が日常的に子どもを連れて泊まったとの記録があります。また、公事という裁判を覗きに行った子どもが、公事方である父親の姿を誇らしく見ていたという日記もあります。

花見などの行事や子どもの遊びに父親が関わるのもしごく普通のことでした。職住接近だからこそ、可能であったことでもあります。

子育てしない父親は無能者のそしり

──「児孫のために美田を買わず」と言うが、美田を遺し、それを守る子どもを育てることが父親の役目だった。

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職場にも子どもの姿があった
 「名誉 36合戦 源二綱」(一勇斎國芳、嘉永頃)。木下藤吉郎が福島正則と出会った場面を描きながら、幼児の才能発掘と人材育成の大切さを教えている。桶職人が幼子を石臼に括り付け作業に集中している様子からは、江戸時代の父親が仕事の傍ら子守をしていた実情も垣間見ることができる。(公文教育研究会所蔵)


農家でも父親の子育ては重要でした。作物を工夫し、土地を富ませ、それを次代に譲ることが人生の一大事。村で出来高の少ない家が出れば、一蓮托生で村全体の責任になるため、落ちこぼれを出してはならなかったのです。

18世紀初頭、会津の篤農家は、子どもをよく教え育てることが大切で、うまく育てられないのは親の恥であるという和歌を残しています。

農村では、父親が農作業で培った知恵や技術を、子育てを通じて子に教え伝える構造が確立していました。賢い子どもを育てることのできる父親が、すなわち仕事ができる、能力のある人間である、という価値観がゆきわたっていたのです。

しかし、明治以降、日本が西欧に追いつこうと邁進する中で、職場と家庭は分離し、子育てにおける父親の役割も次第に消失していきました。

──今、父親がもっと育児に関わるべきとする「イクメン」がブームだ。北欧など福祉国家をお手本とするのもいいが、我々には江戸の風習からも学ぶべきところがあるかもしれない。

画像を見る 太田素子(おおた・もとこ)
1948年生まれ。和光大学教授。東京学芸大学卒。お茶の水女子大学大学院教育学修士課程修了。専門は教育学、教育思想史。主著に『江戸の親子 父親が子どもを育てた時代』『子宝と子返し 近世農村の家族生活と子育て』など。


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