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アップルとFBIの対立、中国に影響も

米連邦捜査局(FBI)は、カリフォルニア州サンバーナディーノで銃乱射事件を起こした容疑者が使っていたiPhone(アイフォーン)のロック解除への協力をアップルに要請しているが、同社はそれを拒否している。

 この問題は、アップルの本国である米国のみならず、同社最大の海外市場でも熱い話題になっている。それは中国だ。中国人のなかには、この動きがアップルのマーケティングスタント(派手な宣伝活動)ではないかとみる人がいる一方で、政府に立ち向かうアップルを応援する人たちもいる。それは中国企業だったら想像できないことだからだ。

 また、一部にはこう問い掛ける人もいる。「中国政府がアップルに同じことを要求したら、どうだろう。アップルは『ノー』と言えるだろうか」と。

 この問い掛けは、現在FBIと対立しているアップルにとって重要な問題を浮き彫りにする。アップルがサンバーナディーノ銃乱射事件容疑者のアイフォーンでFBIのロック解除要求に従えば、中国をはじめとする抑圧的な政府からの携帯電話アクセス要求を拒否することがはるかに困難になり得る。

 例えば、民主化運動の活動家やその他の反対分子などの使っている携帯電話へのアクセスだ。これはアップルにとってとりわけ大切な関心事だ。売り上げの大半を米国外で上げているからだ。同社は売り上げのざっと25%を大中華圏(中国本土、香港、マカオと台湾を含む)から得ている。

 アップルは、中国を名指しないままでこの問題に言及した。同社は先週、カリフォルニア州の連邦地裁に提出した文書の中で、アイフォーンに「バックドア(裏口)」を組み込むことの危険を警告し、「わが国の政府のために開発すれば、外国の政府が同じツールを要求してくるのは時間の問題だ」と述べた。

 法律事務所ローブ&ローブ北京オフィスのパートナー、ベンジャミン・チウ氏は、アップルが仮にFBIとの訴訟で負けることがあれば、中国政府が同じような要請をすると考えるのが当然だと述べる。「中国政府に比べれば、FBIなど御しやすい相手だ」と同氏は述べる。

 インターネットを規制する中国の国家インターネット情報弁公室にコメントを要請したが、回答は今のところない。

 アップルは同社サイトのプライバシーに関するページで、同社は「当社のあらゆる製品ないしサービスについて、どの国のどの政府機関にも『バックドア』組み込みで協力したことはない」と述べている。

 これに対し中国のハイテク企業は、自国政府の要求受け入れに既に慣れている。幹部らによれば、企業は政府が要求するいかなるユーザー情報も差し出す義務があるほか、検閲対象とされるコンテンツの頻繁なアップデート(更新版)を順守しなければならない。ある中国のインターネット企業の幹部は、「政府が『飛べ』と言ったら、『どのくらいの高さですか』と聞き返すことが期待されている」と話す。

 中国当局は、西側のハイテク企業を国内企業と同じような手法で規制しようとする動きを強めている。来週施行予定の新たなインターネット規則は、外国企業が事前の承認なしに中国でネット上にコンテンツを載せることを禁じる。

 また現在精査中のサイバーセキュリティー法草案は、インターネットの通信事業者に対し、国家安全保障と犯罪捜査のため技術的支援および援助を当局に提供するよう義務付ける内容だ。これについて、人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナルは、企業を検閲・監視下に置くのが一層容易になりかねないと指摘している。

 香港大学の趙雲教授(法学)は、「中国は個人情報保護より国家安全保障を重視しているため、ハイテク企業も当局の命令に従わなければならないだろう」と話す。

 西側のハイテク企業はこれまで、中国政府の要求を比較的うまくかわすことができた。本国での法的な制限や政治的な反響を理由に挙げたからだ。しかし、エドワード・スノーデン氏による数年前の暴露騒ぎをきっかけに、中国で外国企業に対する恐怖感が増大した。米国政府が海外の電子機器に侵入して他国の政府をスパイしていることを同氏が暴露した一件だ。その結果、多くの米国企業は中国という決定的に重要な市場でシェアを失った。

 アップルの業績は、中国に進出する多国籍ハイテク企業の中では珍しく好調だ。2015年度(9月終了)の中国での売上高は前年度比84%増の587億ドル(約6兆6000億円)に上った。中国を除く他の世界の売上高の伸びは16%だった。

 しかし、アップルも他社と同様、中国政府および国営メディアからの厳しい目と圧力にさらされている。2014年には、中国国営テレビがアイフォーンを「国家安全保障上のリスク」だとやり玉に挙げたことを受け、アップルは中国の顧客データを海外から中国国内の施設に移した。国営企業の中国電信が運営する施設だ。一部の専門家からはこの動きにより、アップル製品の安全性が損なわれる恐れがあるとの声が挙がった。

 アップルは当時、このデータ移動の結果、中国の顧客向けのパフォーマンスが向上するだろうと述べ、データは暗号化されており、中国電信からはアクセス不能だと説明していた。アップルのソフトウエアのセキュリティーについて研究しているJonathan Zdziarski氏はツイッターの投稿で、アップルは中国電信にiCloud(アイクラウド)のデータを保管しているが、暗号の鍵は国外にあると指摘し、「これは理にかなっているし、データ漏えいのリスクを低下させている」と述べていた。

 どの米国のハイテク企業も、中国人ジャーナリストの師濤氏の件で米ヤフーが陥ったような立場になることを恐れているに違いない。ヤフーは04年に中国政府の要請を受け、師氏のヤフーの電子メールアカウントの情報を提供した。中国当局はその情報を利用し、政府の秘密指令を海外のウェブサイトに公表した容疑で師氏を有罪とした。師氏は10年の禁錮刑を言い渡された。07年に開かれたこの件に関する米下院の公聴会で、ある議員がヤフーの幹部たちを「道義のかけらもない小者だ」と糾弾し、ヤフー関係者が謝罪する場面もあった。

By LI YUAN

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