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日銀初マイナス金利政策の行方

長期デフレからの脱却、景気回復と今後の経済成長軌道への転換を目指そうとするアベノミックスに歩調を合わせ、あくまでも政権とは一線を画する中立的で良識の機関であるべき日本銀行が、これまで異例の大胆な無制限の超金融緩和政策を採ってきたので、もうこれ以上の打つべき手はないのではないかと思われていたが、その総仕上げを後押しするために、もう一段の金融緩和政策を強めようと本年2月16日から、日銀史上前例がなく、これまでは「禁じ手」とされてきたマイナス金利政策を初めて実施すると突如発表した。

 前触れのない突然の政策発表に関しては、諸般に利害を及ぼすお金に関する重大な施策の決定なので、特定者だけがその内容を前もって知り得て対策を講じられないよう公正・公平を期すために、その直前まで当事為政者が、極秘裏に検討を進め、いつから、どんなことをするのかを事前に一般に予告・公表しないで秘匿し、白を切り通し、嘘をつくことさえ許される唯一の行為であり、過去の公定歩合の変更の場合でもそうであったように、通常は市中銀行が営業していない休日の前に抜き打ち的に発表・実施することが多いので、その事態をここでとやかく言うことはない。

 しかし、マイナス金利政策は、近年になり、欧州のスウェーデン、デンマーク、スイス、欧州中央銀行などで既に実施されたことではあるが、まだその功罪や成果を評価し得る段階にはないことであるし、我が国としては、前記したように日銀史上で前例のない初めての試み、もちろん一般企業や個人としては未体験のことであるから、今後の行方は予測し難く、やってみないと解らないというのが正直なところで、当初は戸惑い、不安や不満、株式・為替相場など金融市場で混乱が生じるであろうことは仕方がなく、これに投資市場がどのように反応し、一般預金者がどのような対応行動を取るかを暫くは注意深く見守る必要があろう。

 しかし中央銀行日銀の金融政策には自ずと、民間の自由闊達な経済活動には積極的・直接的な過干渉は出来ないという限界があり、アナウンスメント効果、心理的効果に期待するのが主体であり、実体経済への影響力は少ないものである。

 日銀としては当然、この辺りのことは十分に読み込み、想定した対策も考慮しての決断であったろうと思料する。

 そこで今回のマイナス金利の導入実施に際しては、数日前に予告するといった異例の配慮を示したようだが、米国や中国の経済先行き不安などといった要素が加わったこともあり、案の定、株価や為替相場が乱高下し、差し当たりは、一旦は模様眺めやリスク回避の対応か、ちょっと日銀の予測や思惑とは異なった反応を示し、期待するこの政策に連動した株価や景気への好影響、市中貸出金利低下の効果より、株価の連日下落、円高・ドル安、一般庶民の預金金利引き下げだけが先行しているようである。

 マイナス金利政策の行方を云々する前に、先ず正しい認識・判断のために、日本銀行の役割や金融政策、金利の概念などにつき、念のため改めて簡単に説明しておこう。

 日本銀行は、日本銀行法という特別法に基づき明治15年(1882年)に設立された、わが国で唯一の「中央銀行」であり、法で、それを統括する総裁は国会の承認を得て総理から任命されるが、その運営に関しては、政府機構の傘下ではない中立性と独自性が認められ、そのためには資本構成も官・民ほぼ半々といった特殊な存在であり、「金融政策の面から国家経済や国民生活の発展に資することを目的」とする公共性の強い良識の機関、国家経済・金融の中枢を担う機関であり、その特性から、金融の円滑化、健全な景気と物価の安定維持のための番人、通貨の権威護持者などとも言われ、我々国民個々人や企業が日常取引で利用する市中に存在する民間銀行を統括する①銀行の親分的な銀行(日銀の預金・貸金取引客は銀行に限られ、銀行の余剰資金を預かったり、不足金を貸付け、公定歩合とはこの場合の貸付け金利のことで、これに連動して市中金利が形成させれる)、②通貨の発行権を付与され、その権威を護持する唯一の銀行、③政府関係の税収など国庫資金の出納管理を委託された銀行、④公定歩合の設定などの金融政策を決定する最高意思決定と遂行機関という「4大機能」を有している。

 その金融政策面からの景気調整策としては、①市中に出回るお金の貸借をする場合の金利の上・下で、お金を借り易くしたり借り難くして景気を刺激したり引き締めるなどの調整する「公定歩合操作」と、②そのマネーの量の多少を緩和・緊縮させることで、いわば水道栓の蛇口を緩めたり閉めたりで景気を調整する「支払い準備率操作」(市中銀行にその健全性を維持させるために支払準備金という一種の積立預金をさせているが、景気刺激のためには、この預金を開放して市中銀行の手元資金を豊かにし、一般企業への貸し出しを積極化させ、景気引き締めにはこの逆で、預金を積み増しさせることで貸し出し抑制を図る)と、③市場に出回るお金の供給量(マネーサプライ)を、通貨発行量の多少や、市中銀行が保有する債権の買取や国債の売りつけでコントロールして景気を刺激する「公開市場操作」という3つの方法があり、さらにその前段階として、日銀の市中銀行に対する示唆や警告というべき「窓口行政指導」がある。

 アベノミクスでは、ゼロ金利や無制限の国債発行・通貨発行など、これら質・量共の全ての調節手段をこれまで既に採用し、景気刺激と経済回復を図るという前代未聞の超金融緩和策をとるように日銀に迫り実行させたが、その資金が実体経済面に流れず、投資経済のマネーゲームに向けられており、一部の分野を除き、もう一つ具体的な景気回復・経済成長に結びつかず、投資市場経済、表面的国家経済規模の数値と実体経済の実態や庶民生活実感との乖離、貧富格差の増大が顕著になっているのが我が国の現状である。

 金融関連ニュースでよく用いられる「金利」という言葉には、資金を一定期間貸借したことに対する貸借料、お金の借り手が負担する、貸し手に対する「謝礼金(利息)」、といった「貸付金利」と、お金の貸し手(預金者)が、借り手から受け取る「報奨金(利子)」といった「預金金利」を意味する場合とがあるので、ややこしく混乱させられるが、そのニュースの内容から、どちらの金利を意味しているかを判断する必要があるし、それ次第で、立場によりメリットやデメリットが全く逆に異なってくる。

 その金融元金に対する割合のことを「金利率とか利率」といい、通常は年率で何%と表現される。

 公定歩合の金利という場合は、日銀が市中銀行に資金を貸し付ける場合の短期の「貸付金利」、ゼロ金利政策といった場合は、「貸付金利」と、これに連動する「預金金利」との両面、今回のマイナス金利の場合は、日銀が市中銀行から当座預金として預かる時の「預金金利」がマイナスになる、つまり預金をすると逆に利息が取られ運用元金が目減りするので損をするということになる。

 市中銀行の場合、当座預金は決裁資金の短期的プールで手数もかかるので預金金利がつかないが、日銀の当座預金には、これまで預金金利がつけられていたのであり、それがこの際のマイナス金利の導入でなくなり、逆に手数料のように徴求されるようになる。

 だから銀行は、当座預金で金利を稼げなくなるので、余裕金を日銀預金で保管せず積極的な企業への貸付や国債などの債券投資に資金を回すようにさせ、大量発行で利回りが低下した国債を買い取らせようとの魂胆が秘められた政策である。

 国債の利回りは、長期金利設定の目安とされるので、その低下は主に長期貸出金利の低下となるので、企業の設備投資や住宅ローンの利用者には好都合なこと、公定歩合の方は、主に短期金融の金利に影響し、市中銀行の貸出金利も下げられるが、そうなると銀行は利鞘の圧迫、収益減少を避けるため、当然、それに連動し即時に預金金利も下げるので、純預金者にとっては、「預金金利の低下」となるので歓迎できないこととなる。

 これまでの例でも、貸出金利の低下は、借り入れ顧客との折衝などもあって時期が遅れがち、預金金利はすぐに低下し先行する。逆に引き上げの場合は、市中貸出金利の引き上げは素早いが、預金金利の引き上げは、やや遅れがちになる。

 銀行は、預金者から預かったお金をまとめ、それを個々のお客様に代わって企業などに貸し付けてその利鞘を稼ぐ金融の仲介業であり、預金者は銀行へのお金の貸し手(預金資産)、銀行は借り手(預金負債)、借り入れ客は銀行の債務者、銀行は融資先の債権者という関係になる。だから預金者は、銀行にとって大切な神様であり、「おカネ様」であり、預金客も借り入れ客も、いずれも銀行の大事なお客様なのだ。

 「利回り」は利益配当又は利息の、金融元本金に対する割合で、金融の元本が銀行預金のように運用期間中に一定で不変で保障されている場合には、「金利」と「利回り」は一致し同義語となる。

 しかし「金利」と「利回り」とは異なり、投資信託預金や株式投資のように、運用期間中に運用元本が変動する運用手法の金融商品の場合は、運用当初の元本価額とその現在の市場価額に変動が生じる場合には、その状況と運用期間の長短との関係で、運用差益又は差損が生じ、予想通りの確定金利が得られず変動する「利回り」となる。

 利回り(年率%)=『運用期間中の受取り利息額÷(金融元本額×運用期間)』

 金利(年率%)=『金融収益÷金融元本額』


 利息(利子ともいう)とは、利息の「息」は殖えるの意味だから、他人に金銭の使用をさせる者が一定の割合で受ける報酬、運用元金を銀行に預けるだけで、自ら苦労しなくても運用収益を稼ぐ「孝行息子」といえ、通常貸し手(預金者)側からの表現としては「利息」が、借り手側が負担するのを「金利」と称されることが多い。

 金融資産の運用方法により、固定金利や変動金利、確定金利や変動予想利回り、単利と福利運用(元利自動継続的預金のように利息にも利息がつくもの)などと多様で、戦後の経済・産業復興期で貯蓄奨励がされ、高い預金金利で企業の資金需要に応えようとした金融政策の古きよき時代には、預入期間1年間の銀行定期預金の固定金利は年率5%といった時代もあり、この頃には、親が残した古い複利の郵便定期預金証書がみつかり、元利継続をしたら、複利運用だったので10年間で元利合計が約2倍になったということもあったものだが、現行の1年定期預金の年率0.025%で複利運用して元利が2倍になるに要する期間は2,880年、0.02%になると3,600年も必要といった超低金利の時代では、元本保証で堅実な銀行預金より、多少リスキーでも株式投資運用でとなって、お金が銀行から投資市場へと流れるのも止むを得ず当然のことといえよう。

 先述したよう日銀は銀行から余裕資金を預かる銀行の銀行であり、銀行は一定の支払い準備金を経営安全性のため当座勘定でプールすることが義務付けられ、その金額は約40兆円、その他自主的に余裕金を預けている分まで含めると、その総現在残高は約260兆円と推計されている。

 金融は経済活動の血液循環であり、その円滑な運用が経済に及ぼす影響は大きく、故に健全な貯蓄は大切なこと、美徳であり、その貯蓄が銀行を通じて必要な分野に再投資されることは必要不可欠な重要なことである。

 日本の急追を妬んだアメリカの情報謀略で、「貯蓄は悪徳、消費は美徳」などといわれたこともあったが、この行き過ぎた借金による消費を重ねた結果が、日本のバブル経済やアメリカのリーマンショック、現在の経済の不安定さを招いたのであり、何事も程ほどの限度を理解することとバランス感覚は大切であろう。

 従って、確かにこの余剰金を市場に放出させれば相当な景気刺激、経済発展にもなるはずだが、これがリスキーな投機的市場や非生産的な浪費、赤字国債の買い支え、一時的な株価の買い支えでの見せ掛け景気回復の演出など、不純な要素への投入であれば、それは劇薬投与による対症療法でしかなく、それを繰り返せば副作用が甚大になるばかりで、決して根本的な健康な体質への改善とはならない。

 だからこそ社会の公器たる金融機関には、経済のホイッスル・ブロウワーとしての見識と、保守的な慎重さ、信用第一、堅実経営、「お金を貸すにも良識、貸さないにも良識」が要求されるのである。

 にもかかわらず、その模範を示すべき、物価や為替相場の番人、国民生活の安全と安定、国家経済の健全な発展に資するべき日本銀行が、この度は率先して無制限な超金融緩和策から、更に歩を進めて、一段と大胆なマイナス金利にまで踏み込むという大きな博打に打って出たものであり、緊急の策であり、恒常化は好ましくない。

 これで市中銀行も日銀に見習い、一定額以下の小口預金からは手数料徴収ということにもなりかねない。

 マイナス金利政策導入の狙いは、日銀が目標に掲げた物価の2%上昇率達成とデフレ脱却を達成するためとしている。

 確かにこれに呼応して市中銀行は、企業向け長期貸付や住宅ローン金利の引き下げを表明し、早速に連動する預金金利の引き下げを先行させることにはなった。

 にもかかわらず、日銀や、それを圧力をかけて後ろで操る安倍政権の思惑通りとはならず、マイナス金利政策導入の発表後も、株価は値上がりするどころか連日下落が続き、ついに1万4千円台にまで落ち込み、為替相場は円高ドル安に進み、経済は安定せず、企業の前向きな国内D設備投資意欲も燃え上がらず、経済は安定せず、先行きの不透明感は払拭できるどころか一層深まるばかり、その上に、中国経済の失速と世界一斉同時不況の進行、主要産油国の政情不安、イスラム諸国とキリスト教国との対立とテロ活動頻発などの気がかりである。

 従ってマイナス金利政策の結果を現時点で予見するのは早計・困難であり、もう少し今後の動向を慎重に見極める必要があろう。

 ただ今回の事態でよりはっきりしたことは、安倍首相が、美辞麗句で不都合なことをまやかし表現し、法案を通す策略に長け、意外に狡猾になったこと、巧妙にマスコミ、日銀、財界を取り込み、これらを操って情報謀略を仕組み、独断専行政治色を強めたこと、自民党単独での衆参両院過半数完全制覇、一強多弱の数の力に頼った国会運営で、長期政権を目指していること、選挙向け人気取り優先の政治姿勢であり、国家の将来ビジョンや、そのための抜本的構造改革には無関心なこと、あくまでもアメリカ一辺倒の姿勢で軍事防衛力を強め、それを後ろ盾に、経済支援のバラ撒き外交を進めていること、財界や富裕層に重点を置き、投資市場経済で景気回復の順調さとアベノミクスの成果を演出しようとしており、中小企業や庶民、社会的弱者には冷淡、それは上層部の好況のおこぼれによる下部浸透に待つという姿勢が明確になったことだけである。

 しかしこういった悪足掻きの小手先対応ともいえる人為的操作による株価の吊り上げや金融対策の効果の持続性を、日本のみならず世界中の常識的な大多数の民衆は信用しなくなり、行き過ぎた自由主義経済や投機的市場経済で一発千金を狙うより、競争・制覇より協調と平和、過欲な背伸びの量的拡大成長より着実な実体経済の質的充実と安定的発展、健全な自己生活防衛を望むようになってきた。

 だから金融資産保有状況調査においても、超低預金金利下でも、確実な元本保証の預貯金比率が依然として65%程度を維持し、元金価額変動リスクがある有価証券比率は20%以下という状況は変わらずに続き、企業の国内投資は不活発のままである。

 経済は生き物といわれるので、人体生理に当てはめて考えるとわかり易いが、現在の診断は、美食願望が強すぎた結果の「代謝疾患の糖尿病」が主因で万病を併発させている。こういった現代の過欲なる困窮の混迷状態からの脱却を図るには、やはり全世界的に、好ましい政治・経済の原点に立ち返り、人類の真の平和や豊かさの理念や尺度を根本的に改め、自然の摂理に従って謙虚に生きる、摂生と節度、バランスの良い食事と生活態様に努めることが肝要である。

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