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南シナ海 さらなる軍事化を防げるか ウッディ島にミサイル、戦闘機を配備 - 小谷哲男

中国が南シナ海で実効支配する拠点の軍事化を進めている。米メディアによって、パラセル(西沙)諸島最大のウッディ(永興)島にHQ-9地対空ミサイルが配備された衛星写真が公開され、世界の注目を集めている。同ミサイルはロシアのS-300のコピーだが、射程距離は100キロほどとみられ、近くを飛行する航空機には脅威となる。米軍によれば、ウッディ島には、HQ-9の他、監視レーダーや最新鋭のJ-11戦闘機やJH-7戦闘爆撃機の配備も確認されている。中国はパラセル諸島を拠点に南シナ海北部の防空能力を高め、これによって戦略ミサイル原子力潜水艦の基地がある海南島の防衛を固めようとしているのだろう。

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15年9月3日の軍事パレードでの「HQ-9」地対空ミサイル

南シナ海を「中国の湖」とする

 また、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)はアジア海洋情勢透明化プログラム(AMTI)のウェブサイトで、中国がスプラトリー(南沙)諸島で造成中の人工島に高周波レーダーらしきものを設置している衛星写真を公開した。中国はすでに人工島に建設した3000メートルの滑走路で民間機のテスト飛行を行っており、いずれは軍用機の運用や対空ミサイルの配備も開始するとみられる。スプラトリー諸島に軍事拠点を持つことで、中国は南シナ海南部の防空能力を高めることができる。

 中国がこのままパラセル・スプラトリー諸島で軍事化を進め、制空権を固めれば、南シナ海上空に防空識別圏を設定し、アメリカ海軍が行っている空からの偵察活動を妨害するだろう。その上で、南シナ海を「中国の湖」とするために、外国艦船の航行の権利を制限し、独自のルールを押しつけると考えられる。民間の船舶や航空機の運航にも影響が出るだろう。

 米国は中国が南シナ海を軍事化していると非難したが、中国は米国が「航行の自由作戦」によって南シナ海問題を「軍事化」していると反論し、ミサイルの配備は「自衛」措置であり、「軍事化」ではないと自らの立場を正当化している。米太平洋軍のハリス司令官は、中国が南シナ海で軍事拠点を拡大していることに対抗するため、今後「航行の自由作戦」をより強化すると述べているが、中国はこれを逆手にとってさらに軍事化を進めると考えられる。

 一方、中国の周辺諸国では南シナ海の軍事化に対する足並みがそろっていない。パラセル諸島へのミサイルの配備は、米国がアジア重視政策の一環として、初めて東南アジア諸国連合(ASEAN)との首脳会議を主催するタイミングを見計らうように行われた。

中国の一方的な現状変更に対するコストを高める

 オバマ大統領は、会議で南シナ海における中国の活動を牽制することを提起したとみられる。しかし、同会議の共同声明文では「航行の自由」や「非軍事化と自制を促す」という表現は明記されたが、肝心の「南シナ海」への言及はなかった。非公式にカンボジアやラオスなど中国と緊密な関係にある国々の抵抗があったからだろう。その後ラオスで開かれたASEAN外相会議では、議長声明で南シナ海情勢への懸念が表明されたが、「中国」への言及はやはりなかった。

 現状では、中国が南シナ海の軍事拠点化をあきらめる見込みは少ない。国際社会は、外交、軍事など様々な手段を講じて、中国の一方的な現状変更に対するコストを高めなければならない。

 そのためには、フィリピンが進めてきた南シナ海問題の仲裁裁判の結果をどのように有効活用するか検討すべきだ。フィリピンは、2013年に始めた仲裁手続きで、九段線に基づく中国の南シナ海での主張と国連海洋法条約の整合性の有無と、中国が占拠する岩礁の法的な地位の明確化などを求めてきた。中国は、裁判所に管轄権はないと仲裁手続きへの参加を拒否しているが、岩礁の法的な地位について仲裁裁判所が今年の6月にも最終判断を下す見込みだ。

 中国が占拠し、人工島を建設している岩礁が、満潮時に水没する低潮高地だと裁判所が判断すれば、中国の南シナ海での行動は法的根拠を失う。低潮高地は国際法上領有が認められないからだ。領有もできない岩礁の上に人工島を造成し、それを軍事拠点とすることは国際法違反ということになる。

 この仲裁裁判の結果は法廷拘束力を持つが、中国にそれを受け入れさせる強制手段はないため、中国は裁判の結果を受け入れることはないだろう。しかし、このような法的な手段が中国の行動に変化を与えないわけではない。たとえば、仲裁裁判所が岩礁の法的地位についての検討を始めた後に開かれた東アジアサミットで、中国の李国強首相は九段線に基づいて中国の主張を正当化しなかった。

 また、インドネシア政府が同国領であるナトゥナ島付近での中国船の活動をやめさせるために国際裁判を検討していることが明らかになると、中国外交部は同島の主権がインドネシアにあることを確認する異例の声明を出した。司法的な手段によって、中国の行動に一定の影響をもたらすことは可能だ。

国際社会はさらなる法廷手段を検討するべき

 中国の行動を改めさせるため、国際社会はさらなる法廷手段を検討するべきだ。特に、中国による岩礁の埋め立てと人工島の建設は、南シナ海の海洋環境を破壊している。国連海洋法条約の下で、中国には海洋環境を保護する義務を負っているため、海洋環境の保護を中国に求めるとともに、司法手続きを検討することで中国による南シナ海の軍事化を牽制することができるだろう。 

 2003年に、マレーシアはシンガポールが両国の海洋境界付近で行っていた埋め立てが、航行の安全や海洋環境への悪影響を与えている、と国際海洋法裁判所に埋め立ての中止と環境に関する情報の提供を求めて提訴し、裁判所が一部の埋め立ての中止を命令したという前例もある。

 加えて、国際裁判所が中国の行っている人工島の建設に法的根拠がないとう結論を下せば、米軍が行っている「航行の自由作戦」に日豪なども参加し、国際的な活動にするのが望ましい。仲裁裁判の判決の受け入れを中国に受け入れさる強制手段はないため、各国の軍が中国の人工島周辺に敢えて入り、そこで訓練や演習、偵察活動を行うことで、国際裁判所の判決を軍事的に裏づけることが必要だ。

 国際法を通じて中国の行動を返すには、国際社会が十分連携する必要がある。日米や豪州、ヨーロッパ諸国はフィリピンによる仲裁手続きを平和的手段として歓迎しているが、ASEANの中にはまだこれを支持していない国がある。このため、ASEANが一丸となってフィリピンの平和的な解決を目指す努力を支持するよう、2国間や多国間の協議を通じて働きかける必要がある。

 ただし、この仲裁裁判の結論は、日本にとって諸刃の剣となる可能性がある。国際司法の場で岩に関する判断基準ができれば、沖ノ鳥島の法的地位についてもその基準が当てはまるかもしれない。中韓は沖ノ鳥島が排他的経済水域や大陸棚の基点になり得る島ではなく、岩であると主張している。このため、日本は沖ノ鳥島の法的地位を守るための理論武装を一層行う必要がある。

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