- 2016年03月04日 08:53
「あっ、グリーニーを忘れた!」 練習前に叫んだ投手 - 赤坂英一
清原和博容疑者が覚醒剤取締法違反で逮捕されて以来、巨人でチームメートだった野村貴仁氏の言動が注目を集めている。野村氏の言うように、清原容疑者が巨人時代から覚醒剤を使うようになったのかどうかは、私にはわからない。ただ、野村氏が巨人に在籍していた1998~2001年、グリーニーという興奮剤を常用していたことならよく知っている。
これを使うたら違うぞ
ふだん眠っとるパワーが出てくるんや
グリーニーとはアンフェタミン系の興奮剤で、日本の厚生労働省には医薬品として指定されていない。野村氏はこのグリーニーを釣りの道具箱のような小さなバッグに入れ、大きなショルダーバッグの中に忍ばせて持ち歩いていた。こっそりと使っていたわけではなく、結構大っぴらに選手や関係者の前でグリーニーを服用していたという。
宮崎キャンプでのこと、投げ込みをしようとブルペンに入った野村氏が突然、「あっ、グリーニーを忘れた! おれのバッグ取ってきてくれ!」と言い出し、後輩の若手に使い走りをさせた。その若手が野村氏のバッグの中味を見たところ、グリーニー以外にも筋肉増強剤のアナボリック・ステロイドなど様々な薬物がきれいに整理されて入っており、根深い〝中毒ぶり〟が感じられたという。グリーニーはオリックス時代、元大リーガーの外国人選手から勧められ、その選手のルートを通じて入手していた。「これを使うたら違うぞ。ふだん眠っとるパワーが出てくるんや」という野村氏に感化され、グリーニーに手を出した巨人の選手も何人かいる。私と親しい選手は「すぐやめた」と言っていたが。
巨人や野村氏に限った話ではない。05年夏には週刊朝日が、ボビー・バレンタイン監督率いるロッテの選手10人近くがグリーニーを常用していると報道し、球界全体を揺るがす問題に発展した。ロッテが終始一貫、強硬に否定したことで騒動は収束したものの、球団は週刊朝日を名誉毀損で訴えておらず、灰色決着に終わったという印象は否めない。
あいつのナニは馬並みだ
私はそのころ、ある球団の通訳兼渉外担当から、外国人選手たちのクスリの乱用ぶりを聞いていた。パワーヒッターで鳴らしていた複数の大物がグリーニーやステロイドを常用していて、その通訳は実際に目の前で彼らが注射を打つ場面も見たという。元大リーガーの間では経口薬のグリーニーだけではなく、競走馬が出走前に打たれる興奮剤が流行していた。「あいつのナニは馬並みだ」という下世話なジョークを地でいく話だ(失礼!)。
メジャーリーグにおけるグリーニーの歴史は古い。元ニューヨーク・ヤンキース投手のジム・バウトンが執筆、1970年に出版されたMLB史上初の暴露本と言われる『ボール・フォア/大リーグ衝撃の内幕』(邦訳は1978年出版、現在絶版)には、大勢の大リーガーたちがまるで現代のレッドブルのようにグリーニーを服用している実態が赤裸々に描かれている。バウトンはボストン・レッドソックスのトレーナーから入手し、「レッドソックスは主力選手のほとんどがこのクスリをやっている」と書いてある
誰もが容易に手を染めてしまいかねない環境
いまの日本プロ野球がそこまで薬物に汚染されているとは思わないが、誰もが容易に手を染めてしまいかねない環境にあるのも確かだ。NPBや各球団のトップは清原容疑者や野村氏の個人的な背後関係ばかりに目を取られていないで、秘かにどのような薬物が流行し、選手たちの手に渡っているかを洗い直すべきだ。清原容疑者や野村氏以前にも、現役引退後に覚醒剤で逮捕された野球人の大物がいた。現状のままではいつ第二、第三の清原や野村氏が出てきてもおかしくはない。
ちなみに、『ボール・フォア』の著者バウトンは出版から8年後の1978年、39歳にしてアトランタ・ブレーブスと契約し、まさかのメジャー復帰を実現。5試合に登板して1勝を挙げている。これほど見事なカムバックはクスリに頼るだけではできないだろう。
【訂正と追記(2016年3月7日15時35分)】 記事中に事実誤認、及び誤解を与える表現がありました。グリーニーを「覚醒剤の範疇に属するれっきとした違法薬物」という一文を削除したほか、一部訂正しました。また、以下のように追記を書き加えます。
興奮剤グリーニー(正式名称クロベンゾレックス)がNPB(日本野球機構)に禁止薬物に指定されたのは、選手のドーピング検査が導入された2007年からである。野村氏や巨人の選手たちが使用していた1998~2001年は、使ってもルール違反にはならなかった。
その後、2004年、グリーニーはWADA(世界アンチ・ドーピング機構)によって禁止薬物に指定される。このため、翌05年にロッテで複数の選手が常用していると報じられたときは社会的な問題にまで発展した。
また、日本の厚労省はグリーニーを医薬品にも禁止薬物にも指定しておらず、「未承認医薬品」と説明。公式HPでは「医師の適切な指導のもとに使用されなければ健康被害のおそれがある」として注意を促している。
ジム・バウトンの著書『ボール・フォア』はMLBで大反響を巻き起こし、当時のコミッショナー、ボウイ・キューンは薬物の乱用を問題視。コミッショナー名義で『ベースボールvsドラッグ』という公式パンフレットを全球団に配布するという措置を取り、薬物汚染に歯止めをかけるきっかけとなった
- WEDGE Infinity
- 月刊誌「Wedge」のウェブ版



