買った名簿でのテレアポは危険!?
営業秘密を保護する不正競争防止法が改正され、2016年1月1日から施行された。改正内容は多岐にわたるが、影響が大きいのは、営業秘密のうち製造技術上の秘密を使ってつくられたものを、第三者が譲渡したり輸出入したりする行為が禁じられたことだ。
具体例で説明しよう。12年に新日鉄住金は、電磁鋼板に関する営業秘密を不正に取得したとして韓国鉄鋼大手ポスコを提訴した(15年9月に和解)。当時、新日鉄住金が提訴できるのは、電磁鋼板の技術情報を不正に盗んで使ったポスコまでだった。しかし改正後は、盗んだ技術でつくった電磁鋼を譲渡したり輸入したりした業者も提訴できる。
知的財産に詳しい小倉秀夫弁護士は、次のように解説する。
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「これまで当該製品を仕入れて転売していた中間業者はセーフでした。しかし今後は権利を侵害された会社から損害の賠償を請求されるおそれがあります。当該製品が営業秘密侵害によってつくられたものだと重過失なくして知らなければ違法になりませんが、ポスコのケースのように広く報道されていれば、知らないで済ますのは難しいでしょう」
ポイントがもう1つある。営業秘密には、顧客名簿のような情報も含まれる。従来から、不正に取得された営業秘密を使ったり開示する行為は犯罪だった。ただ、これまで処罰対象は一次・二次取得者に限られていたが、今回の改正でその制限がなくなった。
つまり今後は顧客名簿を盗んだ人や、盗んだ人から名簿を買った名簿業者だけでなく、違法なものだと知りながら業者から名簿を買って使った人も罪に問われる。第三者から入手した名簿を使ってテレアポしている会社は、要注意だ。
なぜ警察は動かないのか
今回の改正では、処罰対象を広げたことに加え、罰金額の上限引き上げや非親告罪化など、営業秘密侵害に対する抑止効果を狙った改正点が目立つ。ただ、その効果について小倉弁護士は懐疑的だ。
「これまで営業秘密が侵害されても、警察が捜査して立件までいくケースはそれほど多くありませんでした。法律を整備することも大切ですが、そもそも警察が積極的に動いてくれないと事態は改善されないでしょう」
警察が積極的に動かない背景には、営業秘密を盗まれた被害企業が告訴や民事訴訟に消極的だという事情がある。告訴や民事訴訟を起こすには、被害の実態について企業側が資料を集める必要があり、そのコストを担えずに泣き寝入りする中小企業が多いのだ。
「営業秘密侵害を防ぎたければ、法整備をする一方で、国が訴訟費用を無利子で貸すなど、何らかの支援策を打ち出したほうがいいでしょう。また、企業側も営業秘密の流出を予防するために、営業秘密を扱っている社員の処遇を改善すべきです。会社の処遇に不満な中高年社員が転職して、営業秘密を漏らすケースが現実には多いからです。給料を上げたり、定年を延長するといった対応が望まれます」