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対中政策の切り札 米国は“台湾カード”を切れ - 岡崎研究所

ボルトン元米国連大使が、1月17日付ウォールストリート・ジャーナル紙にて、中国の地域における覇権追求に対抗するためには、米国は台湾への待遇を段階的に上げていく「台湾カード」を切るべきである、と述べています。要旨は次の通り。

中国経済崩壊の非難をそらす格好の対象となる米台

 米国の消極性、地域の無力を受け、中国は南シナ海の大部分を中国の行政区と宣言し、人工島を建設、空海軍基地を建設している。西側の親中派は、中国の今の経済的苦境は、習近平の側からは台湾の蔡英文政権とのトラブルを惹起する動きをしないことを意味する、と主張するだろうが、必ずしもそうとは言えない。歴史的に、国内的問題に直面した独裁政権は海外の敵に対してナショナリズムを結集することで、国民の目をそらそうとしてきた。中国の経済崩壊の非難をそらすのに、米国や台湾以上に良い対象はない。

 習の挑発に蔡英文次期台湾総統がどう反応するかはまだ分からないが、中国は、台湾政府だけでなく、米大統領も考慮に入れなければならなくなる。中国は、弱く不用意なオバマの任期があと1年しかないことを知っている。ビル・クリントンでさえ1996年の台湾海峡危機で台湾支援のため空母戦闘群を派遣したが、オバマが同じことをすると信じるアメリカ人はほとんどいない。

 中国も同じ結論に達し得る。アジアにおける中国の好戦性に米国が対抗を躊躇することは、2017年1月20日(注:次期米大統領就任日)以前、おそらくは蔡英文の就任以前に中国が行動することを促し得る。

 新米大統領に大胆に行動する意思があれば、中国の東アジアにおける不可逆に見える覇権への行進を止め、逆転させる機会がある。ニクソン政権の「中国カード」は、当時は意味があったが、条件反射的でほとんど中毒的な親中政策は、中国の孤立と後進性が小さくなっている今、賢明でなく、リスクを増している。

 代案は、中国に対して「台湾カード」を切ることである。米国は、中国が領土的貪欲さをやめる(南シナ海の基地の放棄、基地建設による環境的損害の復旧を含む)よう主張すべきである。中国が外交的に領域主張をするのは勝手だが、近隣国と平和的に解決されるまでは、米国と近隣国も全く同様に中国の主張を無視してよい。

中国が引き下がらなければ、外交的梯子の引き上げにより中国に注意を払わせるべきである。新しい米政権は、台湾外交官の国務省への公式招待から始め、台湾の米代表部を民間の組織から公式の外交使節に引き上げ、台湾の総統を公式に訪米に招待、米高官が政府の仕事を遂行するために台湾を訪問することを許可、最終的には、完全な外交的承認を回復し得る。中国指導部は、当然こうしたアプローチに愕然としよう。中国は、南シナ海での領有権主張が、台湾の支配を永遠に失わせる原因となることを理解しなければならない。

 あまりに多くの外国人が、「一つの中国」のもと台湾を統合することが台湾問題の唯一の解決策だという中国の見方に与している。しかし、台湾の自由は厄介事ではなく、良い刺激である。中国にはこの既成事実をよく熟考させなければならない。

出典:John Bolton,‘The U.S. Can Play a ‘Taiwan Card’’(Wall Street Journal, January, 17, 2016)
http://www.wsj.com/articles/the-u-s-can-play-a-taiwan-card-1453053872

*   *   *

「一つの中国政策」に加担してはならない

 このボルトンの論評は、これまで米国内にあった「米国は台湾を放棄することによって中国との関係改善を図れ」というミアシャイマーなどの議論の対極にある内容と言えます。つまり、中国の覇権主義的行動に対抗するために「台湾カード」を切るべし、とするものです。

 このような議論が直ちに米国政府の現実の対中国、対台湾政策に影響を及ぼすとは考え難いですが、この種の議論が、今回の台湾総統選直後に米国内で行われるようになったこと自体が、「台湾放棄論」と同様に、中国の対米認識に一定の影響を及ぼすものと考えられます。

 ボルトンの指摘の中で、今日の時点から台湾新総統の就任までの4か月間に、特にオバマと馬英九の在任がダブった時期に、中国がいかなる行動をとるかわからないとする点は、多くの人々の指摘するところでもあります。ボルトンはその理由として、オバマ政権の弱腰を挙げ、中国がこの好機をのがさないのではないかと推理しています。

 また、ボルトンは「中毒にかかったような親中派」の米国人に対する「ショック療法」として、いくつかの対台湾政策の変更にも言及しています。米国と台湾との外交関係回復という目標に向けて米台関係を段階的に引き上げていく、というアイデアは、実際には「言うは易く行うは難し」でしょう。ただし、これらのアイデアが、米国人の好む一種の「ブレイン・ストーミング」として議論されることは意味があるでしょう。

 蔡英文新総統は「現状維持」政策をとるとの公約を掲げて選出されたので、直ちに米台関係の法的変化まで期待しているとは思えません。とりあえず米国にとって重要なことは、このような台湾の現状維持策を支持、支援しつつ、中国の主張する「一つの中国」政策に加担しないことです。米国としては、「台湾関係法」に基づき、台湾海峡の平和と安全を維持する姿勢を折に触れ鮮明にすることが求められている、と言えるでしょう。

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