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認知症徘徊事故、家族が監督義務者の責任を負わないとする画期的な最高裁判決。そして残された課題。

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2007年12月、愛知県大府市のJR共和駅の構内で、認知症の91歳の男性が電車にはねられ死亡した事故で、JR東海は振り替え輸送にかかった費用などの賠償を求める裁判を起こし、1審と2審はいずれも家族に監督義務があるとして賠償を命じていました。

 この場合、亡くなった男性が起こした事故は一種の不法行為であり、JR東海は不法行為の被害者ということになりますから、本来は男性が不法行為責任に基づく損害賠償義務を負います。

民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 ただし、この責任は本人に意思能力(良い悪いの判断がつき、良いことはするし悪いことはしないという行動の制御能力)があることが前提です。よって、高度の認知症など心神喪失状態の加害者には責任を問えないのです。

民法713条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。

 もっとも、これでは被害者がやられ損ということになりますので、この意思無能力者に「監督義務者」がおり、この人に監督義務違反がある 場合には、被害者はこの監督義務者に損害賠償を請求できます。

民法714条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 本事件の最大の論点は、男性と同居していた妻や介護を手伝っていた長男が、この「監督義務者」にあたるかということでした。

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 今回の最高裁判所の判断は、認知症の人や精神的な障害がある人について、妻や実の息子だからといって、それだけで無条件で監督義務を負うものではないと判断しました。

 同居しているかどうかや、日常的な関わりがどの程度か、財産の管理にどう関与しているか、それに介護の実態などをもとに、家族などが監督義務を負うべきかどうかを考慮すべきだと指摘しました。

 そのうえで今回のケースについて検討し、妻は当時85歳で自分自身が介護が必要な状況だったうえ、長男も離れて暮らし、月に3回程度しか実家を訪ねていなかったことなどから、

「認知症の男性を監督することはできなかった」
として賠償責任は認められないと結論づけました。

判決要旨には
民法714条は、責任無能力者が他人に損害を与えた場合、法定の監督義務を負う者に賠償責任があると定めるが、保護者や成年後見人であるというだけでは監督義務者には当たらない。また民法752条は、夫婦の協力や扶助の義務を定めているが、これらは夫婦が互いに負う義務であって、第三者に対して、夫婦いずれかに何らかの義務を負わせるものではない。男性の妻や長男は監督義務者に当たらない。
となっています。

 このように認知症の人が事故を起こした時の家族などの責任について最高裁が判断の基準を示したのは初めてで、高齢化が進む中、認知症などの介護の現場に広く影響を与えそうです。

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浅岡弁護団長。

この最高裁判決は認知症などの病気の家族を持つ方々には朗報ですが、他方、最高裁は
もっとも、法定の監督義務者でなくとも、責任無能力者との関係や日常生活での接触状況から、第三者への加害行為を防ぐため実際に監督しているなど、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合は、監督義務者に準ずる者として民法714条が類推適用され、賠償責任を問えると理解すべきだ。
としましたので、病院や介護施設などの関係者にとっては重い判決です。

最高裁の判断基準で言うと、家族の中で高齢者と密接に関わる人ほど責任を負うリスクが高まり、病院や介護施設なども責任を負うリスクが出てくるわけですから、この判決だけで家族や介護関係者が全面的に救われるわけではありません。

 こういう人たちが安心して認知症患者の介護ができるような、政府の支援や保険の整備が必要でしょう。

 逆に、今回は原告がJR東海ですから、この事情の中でご家族に請求し、裁判までやるのはどうかと思いますが、認知症で徘徊して事故を起こした人の被害者が一市民だった場合にはどうでしょうか。加害者である患者さんの関係者に損害賠償を請求したいというのはやまやまではないでしょうか。

 そもそも、不法行為責任という制度は、社会に起きた損害を誰がどれだけ負担するかという公平を保つための制度です。となると、今回の判決は、被害者がJR東海という社会的強者であったことも関係しているかとも思え、そうなるとなおさら画期的な判決というべきかもしれません。

この事件の場合、同居していた妻が要介護状態ではなく、十分に監督できるような状態だったら、判決はまた違っていたかもしれないということです。

それにしてもそんな状態の妻に請求したJR東海も、請求を認めた一審二審の裁判官は鬼ですな。

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