- 2016年03月02日 11:00
白戸家のお父さん犬は、厳しい「予算」と「納期」から生まれた
小山田裕哉=構成 遠藤素子=撮影 時事通信フォト=写真
会社を動かすのは誰か。それはあくまでも、現場の社員だろう。では、社員を動かすのは、どんな経営者だろうか。創業者、大株主、カリスマ。そんなものは空疎なレッテルにすぎない。孫正義氏の何が周囲を心酔させるのか。ソフトバンク幹部たちが初めて明かした──。
――シンガタ クリエイティブ・ディレクター 佐々木 宏氏の場合
どう吹っかけてもその上で返してくる
孫正義さんと仕事をご一緒して約10年になります。僕が電通から独立してから1年ほど経ったころ、CIイメージを刷新するために企業名の変更も考えていると相談を受けました。僕は、名前はそのままでいいと思い、ブランドマークとして、孫さんが好きな坂本龍馬の海援隊の2本線の旗印を提案しました。
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一方で、僕はアップルという会社が異常に好きでした。パソコンには全然興味がなかったのに、「iMac」のCMに惚れて飛びついた経験があります。使ってみて、インターネットのすごさがわかった。日本にもスティーブ・ジョブズのような偉大な発明者・経営者が生まれてほしいと思っていました。
それまで孫さんは、よく「日本のビル・ゲイツ」と呼ばれていました。僕はどちらかというと、孫さんにジョブズになってほしかった。まず最初に「孫さんには、ジョブズとゲイツを足してウォルト・ディズニーで割ったような人物になってほしい」と偉そうに言いました。すると「ジョブズとも、ゲイツとも友人だ。ディズニーの映画は、ほとんど観ている。だからもう、すでにそうなっているぞ!」と返ってきた。相手はさらにとんでもない人だった。笑っちゃいますよね。僕は、日本のリーダーにしたいくらい楽しい人だ。現代の坂本龍馬だ。応援団長をやらせてほしい、と思いました。
最初に手がけた仕事は、アップルのようなカッコイイ広告かなと思いきや、福岡ソフトバンクホークスのユニフォームやグッズです。孫さんは世界一というフレーズが好きで、応援旗にも「めざせ世界一」と書くように言われました。その後、WBCで王貞治監督がチャンピオンになった。孫さんは「やることがクレージーだ」「すごいホラを吹く」と言われましたが、そのうち世の中のほうが、本当にそうなる。近くにいて、何度もそのことを実感しました。
「今週末にCMを流したい」
06年にボーダフォンの買収が決まると、突然呼び出されて、「今週末にCMを流したい」と言われました。通常は1カ月以上はかかります。「業界の常識としてありえません」と説明しました。しかし孫さんは、「さすが元電通、発想が古いな。固定観念に縛られている。ヤフーなら今すぐにでも出せるぞ」と譲らない。僕が「テレビは考査があるので、最低でも5日ほど前には納品する必要があるんです」と言うと、「わかった。じゃあ来週から流せ」と。
そこで手元にあった空撮映像に「明日の新聞をご覧ください」というタイトルが入るCMを徹夜でつくりました。新聞広告を見てもらうためのCMです。これが意外にも話題になりました。1週間でもできた。孫さんにはやられたな、と思いました。
以後、異例の早さでのCM制作が当たり前になりました。新料金プラン「ホワイトプラン」を始めたときにも、タレントをそろえる時間がなかったため、色からの連想で白い犬を起用しました。この機転から生まれたのが「白戸家」のお父さん犬です。厳しい予算と、時間制約があったから、しかたなく生まれた企画です(笑)。
内藤誼人が分析 心理学的なツボ
【選択的接触】都合のいい情報だけを見て、都合の悪い情報を無視する心理傾向を“選択的接触”という。しかし広告業界に無知だった孫さんは、選択的接触の影響を一切受けることなく、大胆な判断を下せた。
シンガタ クリエイティブ・ディレクター 佐々木 宏
1954年生まれ。77年電通入社。2003年シンガタ設立。ソフトバンク「白戸家」、サントリー「BOSS宇宙人ジョーンズ」、トヨタ「企業ReBORNシリーズ」などの作品がある。
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