- 2016年03月02日 09:59
人手不足時代の企業経営~2015年度下期ニッセイ景況アンケートから~ - 櫨浩一
日本生命保険(相)とニッセイ・リース(株)は、取引先企業を対象に「ニッセイ景況アンケート調査 2015 年度下期調査」を実施し、(株)ニッセイ基礎研究所が集計・分析を行った。調査は定例の景況感に関する調査と、時々の企業経営の課題に関する特別調査から成っており、今回は「人手不足時代の企業経営」を取り上げた。
今回の特別調査では、多くの企業が現在人手不足を感じていることが確認され、スキル・職種別の過不足状況は業種によって大きな差があること、省力化投資に関る課題が製造業と非製造業では大きく異なること、などが分かった。
■目次
1――はじめに
2――調査の背景
3――調査結果 1|各過半数の企業が人手不足を感じている
2|パート・アルバイトの不足に悩む飲食業
3|処遇改善の中心は賃金の引き上げ
4|省力化の障害
5|海外人材の登用
6|中小企業の人手不足
4――おわりに
1――はじめに
日本生命保険(相)とニッセイ・リース(株)は、取引先企業を対象に「ニッセイ景況アンケート調査 2015 年度下期調査(2016 年1月実施、回答企業数3994社)」を実施し、(株)ニッセイ基礎研究所が集計・分析を行った。調査は定例の景況感に関する調査と、時々の企業経営の課題に関する特別調査から成っている。今回の特別調査は「人手不足時代の企業経営」を取り上げ、企業における人員の過不足状況や今後の対応方針について調査している。定例調査項目を含む調査全体については、「ニッセイ景況アンケート調査結果-2015年度下期調査」を御覧いただきたい。
以下では特別調査の概要をご紹介する。調査では、多くの企業が現在人手不足を感じており、将来も同じような状況が続くと考えていることが確認され、スキル・職種別の過不足状況は業種によって大きな差があること、省力化投資に関る課題が製造業と非製造業では大きく異なること、などがわかった。
2――調査の背景
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1990年代初頭にバブル景気が崩壊した後、日本経済は低迷が続き、企業は人員の過剰に悩まされてきた。しかし、ここ数年で状況は大きく変わっている。失業率は2016年1月には3.2%に低下、有効求人倍率は1.28倍に上昇して1991年12月の1.31倍以来24年ぶりの高い水準となった(図表1)。雇用情勢が改善したのは、景気回復が大きな要因だが、日本の人口構造影響も大きい。このため、これから長期にわたって働く世代の人口の減少が続くことが予想されており、人手不足が続きやすい状況にある。
3――調査結果
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1|各過半数の企業が人手不足を感じている
自社の人員の過不足状況について、現状は「全体に不足している」と回答した企業は11.9%で、「一部の人材・職種で不足」と回答した企業は40.7%だった(図表2)。人手不足を感じている企業の割合(「全体に不足」と「一部の人材・職種で不足」の合計)は52.6%で半数以上だった。一方「全体に過剰である」と回答した企業は1.1%で、「一部の人材・職種で過剰」と回答した企業の4.8%と合わせても、人員の過剰を感じている企業は5.9%に過ぎない。人手不足を感じている企業の割合は、製造業の47.7%に対し、非製造業では55.8%で非製造業の方が人手不足を感じている企業の割合が高い。
3~5年後の見通しについての回答は、現状についての回答と大きな差は見られない。全体的に無回答の割合が若干高まる中で、過剰という回答が減少し、不足の中で「一部の人材・職種で不足」が減少して「全体に不足」が増える傾向が見られる。企業は現在の人手不足の状況が一時的なものではなく、持続的なものと考えていることがうかがえる。
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スキルや職種別で不足感の強いのは、「新卒など若手」と「中堅人材」だった(図表3)。「ベテラン」は不足と感じている企業と過剰と感じている企業があり、相対的には人材の余裕がある。「パート・アルバイト」の過剰感は「ベテラン」の過剰感に比べてはるかに少ないが、不足感はほぼ同じ程度である。この点については、次で詳しく述べる。
人手不足への対応方針としては、「業務の見直しによる効率化」(46.0%)をあげた企業が最も多く、次いで「求人活動の強化」(35.7%)、「処遇の改善」(27.6%)と続いている。
2|パート・アルバイトの不足に悩む飲食業
毎月勤労統計調査で見ると、フルタイムの一般労働者に比べてパートタイム労働者の賃金の上昇が顕著であるなど、マスコミ報道などでは、いわゆる正社員にくらべてパートやアルバイトなどの非正規職員の逼迫が伝えられている。しかし本調査では、「パート・アルバイト」の不足感は高くない。このような結果が得られたのは、パートやアルバイトへの依存度が業種によって大きく違うことが原因とみられる。
業種別にみると、パート・アルバイトの不足を感じている企業の割合は、非製造業では(図表4)「飲食」が74.2%、「小売」が47.7%、製造業では「食品」が64.8%となっており、一部に非常にパート・アルバイト人材の不足感の強い業種がある。現在の人員の過不足状況についても、「飲食」では70.9%「小売」も63.6%、が不足を感じている。「建設・設備工事」でも66.1%が人手不足と感じているが、パート・アルバイトの不足を感じている企業は少ない。建設・設備では特殊な技能を持った人材の不足が人手不足の原因であるためと見られる。労働力調査の業種分類は本調査とは少し異なっているが、「飲食店」「小売業」「食料品製造業」では、雇用者の中でパート・アルバイトなどの「非正規の職員・従業員」が「正規の職員・従業員」を上回っている。パートやアルバイトを大量に雇用している企業では、採用が困難になっていて賃金上昇につながっているものと見られる。
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3|処遇改善の中心は賃金の引き上げ
人手不足対策として処遇改善を行なう場合の具体策としては、「給与引き上げ」をあげた企業が53.3%で、「働き方の多様化・柔軟化」が49.6%、次いで「教育・研修の充実」37.8%となっている。一見この3つの具体策に対する企業の対応は大きな差が無いように見えるが、実際の重要性にはかなりの差があるとみられる(図表5)。
人手不足への主な対応方針として「処遇の改善」をあげた企業だけを取り出してみると、賃金の引き上げは81.4%となっていて、調査企業全体での回答割合53.3%を大きく上回っている。処遇の改善を主要な対応方針として回答した企業では、具体的な手段の全てで回答率が調査企業全体の回答率を上回っている。しかし、その差は給与の引き上げ以外は5%ポイント未満であり、給与引き上げが28.1%ポイントもの差がある点で突出している。処遇改善の対応策は多様だが、人手不足対策として効果が期待できる方法を具体的に検討すると、やはり給与の引き上げが中心的な手法となるということを意味しているのではないだろうか。
近年の日本経済では、人手不足が叫ばれるようになったにも関わらず、賃金の上昇は非常に緩やかで、労働需給のひっ迫が賃上げに結び付き難くなっていることは確かだ。しかし、人手不足が長期に続いていけば、より多くの企業が賃金の引き上げによって人手を確保しようとする可能性が高いことを示唆していると考える。
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4|省力化の障害
人手不足への対応として「省力化」の重要性は、製造業と非製造業で大きな違いが見える。対応方針として「省力化」をあげた企業は、製造業では28.5%と高いが、非製造業では15.9%に過ぎない。この原因は、非製造業では機械化などによって必要な人員の削減を行うことが難しい場合が多いことが原因とみられる。省力化を進める際の障害として、非製造業では「顧客サービスの低下」を41.7%の企業があげているのに対して、製造業では21.2%に過ぎない(図表6)。非製造業では、対応方針として「省力化」をあげた企業だけをとってみても、「顧客サービスの低下」を障害として指摘した企業は46.1%にのぼっており、非製造業ではサービスの質を落とさずに省力化を行うことが難しいと感じられているようだ。
非製造業に比べて省力化投資に前向きな製造業では、省力化を進める際の障害として、「効果が不確実である」、「専門的な人材の不足」をあげる企業が多い。また非製造業では15.5%に過ぎない「省力化投資の資金負担」が28.1%という高い割合となっている。製造業で、対応方針として「省力化」をあげた企業だけでは40.9%が「資金負担」を障害として指摘しており、企業の経済的な負担が大きいことを物語っている。定例調査では企業から見た金融機関の貸出態度を調査しているが、これによると企業は金融機関の貸出態度は極めて積極的と判断しており、借入れの難易ではなく省力化投資の費用対効果の問題であると考えられる。
省力化投資の意欲はあるものの、具体的な計画の策定を社内人材では行うことができず、効果的な投資方法が分からない、投資が十分な効果を生むのかどうか予測できないといったことは、省力化を進める上で大きな障害となっているようだ。設備メーカーや専門家が、投資の費用対効果を試算したり、個々の企業の実情に合った省力化投資のプラン作りを提案したりすることによって、省力化投資を考えている企業のノウハウや人材の不足を補うことが投資促進に役立つ可能性が高いことを示唆していると考えられる。
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「 5|海外人材の登用
日本では今後長期にわたって、総人口の減少と生産年齢人口の減少が続くと予想されることに対して、移民を受け入れるなど海外の人材を活用することも各所で提言されている。しかし、本アンケート調査では、人手不足に対応する方針として、「国内の海外人材登用」は5.7%、「事業の海外移転」は1.4%の企業があげたにすぎず、日本国内にいる外国人材の活用を考えている企業も、労働力を求めて海外に移転することを考えている企業も少ないことが分かる。
大きな原因となっているのは、「言葉の違い」(全産業60.2%)や「文化や習慣の違い」(同59.1%)である(図表7)。法律などによる規制や既存の人事制度との調査といった具体的な問題の回答率は、この二つの要因を大幅に下回る。この傾向は人手不足に対応する方針として、内外の外国人人材の登用を考えて入る企業でもほとんど変わらない。対応方針として「国内の海外人材登用」をあげた企業の中でも、「言葉の違い」を指摘した企業は63.0%、「文化や習慣の違い」は65.6%だった。企業の多くが、海外人材の登用の入り口でのハードルが高いと感じていることを示唆している。
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6|中小企業の人手不足
人員が不足している原因は、全体でみると、「業容が拡大している」、「新卒採用が困難」、「中途採用が困難」という3つの理由が4割弱でほぼ同じ程度だが、企業規模別には3つの理由の相対的な関係はかなり異なっている(図表8)。
大企業は、52.3%が「業容が拡大している」ことを人手不足の原因としてあげていて、「新卒採用が困難」(39.6%)、「中途採用が困難」(33.1%)を大きく上回っている。一方中小企業では、「業容が拡大している」ことを人手不足の理由としてあげたのは33.6%で、「中途採用が困難」の40.0%、「新卒採用が困難」の37.3%を下回っている。従業員数の不足感は企業規模が大きいほど強い傾向があるにも関わらず、スキル・職種別の人材過不足状況では「新卒など若手」の不足感は企業規模が小さいほど強い傾向がある。大企業では、企業規模の拡大や新規事業への進出が、人手不足の大きな原因になっていると見られるのに対して、中小企業では退職者の補充の困難さが増しているものと見られる。
4――おわりに
時2015年の国勢調査では1920年に調査を開始して以来初めて日本の人口が減少したが、今後も人口の減少が続くことが見込まれる。経済活動の中心となる15歳~64歳までの生産年齢人口は、総人口の減少を上回る速度で減少し続けるので、人手不足問題への対応は企業経営の大きな課題として残るだろう。新卒や中途採用は既に困難になってきており、大企業では事業規模を拡大したり、新規事業に進出したりする際には、必要な人材の確保が今後ますます困難になっていくものと予想される。
こうした中で、これまで企業の中で必ずしも十分に能力が発揮されてこなかった、女性や高齢者の活躍推進が今後は大きな課題となっていくだろう。本稿では詳しく触れることができなかったが、業務見直しによって働き方を効率化したり、従業員が抱える子育てや年齢等の多様事情に配慮した多様で柔軟な働き方を提供したりするということが、良質な従業員を確保するために重要性を増していくものと考える。
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