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機運高まる憲法改正論

自民党は結党以来、「憲法の自主的改正」を党の使命に掲げ、これまでも憲法改正に向けた多くの提言を発表してきました。

 わが国が主権を回復したサンフランシスコ講和条約から60年経った2012年4月、自民党は「日本国憲法改正草案」を発表しました。民主党はじめ、野党のいずれの政党を見渡しても、憲法問題を正面から、しかも体系的に取り扱っているところは見当たりません。責任与党として、憲法論議から逃げてはならないという姿勢を明確にしました。

 「日本国憲法改正草案」は、前文から補則まで現行憲法の全ての条項を見直し、全体で11章、 110カ条の構成となっています。現行憲法は補足も含めて11章、103カ条です。前文の全てを書き換え、日本の歴史や文化、和を尊び家族や社会が互いに助け合って国家が成り立っていることなどを述べています。

 その他主要な改正点については、国旗・国歌の規定、自衛権の明記や緊急事態条項の新設、家族の尊重、環境保全の責務、財政の健全性の確保、憲法改正発議要件の緩和など、時代の要請や新しい課題に対応しています。

今なぜ憲法改正か

 「今なぜ、憲法改正が必要か」との声もよく聞きます。しかし、わが国を取り巻く厳しい国際情勢を考えたとき、「国を守る」ということに国民がもっと関心を持たなければなりません。そして、世界の中でリーダーシップをとることも、国際社会の中で求められてきます。

 そうした中で、現行憲法のままでよいのかどうか、わが国の置かれた立場も考えたとき、今こそ改正が必要との機運が高まってきたのではないかと思っています。

 「押しつけ憲法だから」という意見もあります。今の日本国憲法は、第二次世界大戦で日本が負けたことによってできました。1945年8月、日本が降伏すると、アメリカ軍を中心にした連合軍が日本を占領し、ダグラス・マッカーサー最高司令官は10月、幣原喜重郎首相に対して、「憲法の自由主義化」を求めました。天皇に絶対的な権力を認めていた大日本帝国憲法、すなわち明治憲法の改正を求めたのです。

 この求めに応じて、幣原内閣は「憲法問題調査委員会」(委員長:松本烝治国務大臣・元東大教授)を作り、「憲法改正要綱」、いわゆる「松本試案」を策定しましたが、その中身は天皇が絶対的な権限を持っていた明治憲法の基本を維持した内容でした。

 明治憲法で「天皇は神聖にして侵すべからず」となっていた部分が、「天皇は至尊にして侵すべからず」と言い換える程度で、国民のことも、「臣民」という表現のまま残すつもりでした。「臣民は、法律によらなければ自由と権利を侵されることはない」という意味の条文もありました。つまり、国民の自由や権利を侵す法律を作ることも認められていたのです。

 この政府内の検討状況の一部を、1946年2月1日、毎日新聞がスクープしました。明治憲法と大差ない憲法を検討していることを知ったマッカーサーは激怒。ならばアメリカが原案を用意しよう、ということになりました。

マッカーサー草案

 直ちに連合軍総司令部(GHQ)の民政局の下に、憲法草案の起草のため、立法権、行政権などの8つの分野ごとに分かれた委員会と、全体の監督と調整を担当する運営委員会とが設置されました。

 メンバーは民政局のホイットニー局長以下25人で構成されました。アメリカ軍の将校が中心でしたが、民間人も加わっていました。彼らは政府の役人、政治学者、ジャーナリストなどの仕事も経験しており、ホイットニー局長を含む4人には弁護士経験がありました。

 しかし、憲法学を専攻した者は一人もいなかったため、日本の民間憲法草案や、世界各国の憲法が参考にされました。特に、社会運動家の高野岩三氏や憲法学者の鈴木安蔵氏、経済学者の森戸辰男氏など学者の集まりである「憲法研究会」が1945年12月27日に発表した「憲法草案要綱」を強く意識していました。

 この要綱では「日本国の統治権は日本国民より発す」となっていて、「国民主権」の原則を打ち出していました。天皇については政治に関与せず、国政の最高責任者は内閣と定めています。

 国民は平等であり、差別は許されないことや、健康にして文化的な生活をする権利を持っていることなど、現在の日本国憲法に盛り込まれている条項が含まれていました。アメリカ側は、この憲法研究会の要綱を入手し、彼らの憲法草案に多くの部分を反映しました。

 また、誕生したばかりの国連の国連憲章やフランス人権宣言など、世界各国の憲法も参考にしました。このように日本国憲法の草案はGHQ主導で作られたものですが、その内容は日本の学者グループの改正案を参考にした部分も多々あります。

 1946年2月12日、民政局での昼夜を徹した作業により、わずか一週間余りで「マッカーサー草案」が完成し、翌日日本政府に示されました。

 日本政府としては、GHQの起草作業を全く知らず、既にGHQに提出していた、日本政府の「憲法改正要綱」、いわゆる「松本試案」に対する返答が来ると思っていましたため、非常に驚きました。

 2月18日に松本試案の補足説明資料をGHQに提出し、再考するよう求めましたが、ホイットニー民政局長は拒絶。マッカーサー草案の受け入れにつき、48時間以内の回答を迫りました。こうなっては敗戦国として拒否できません。

 2月21日に幣原首相がマッカーサーと会見し、マッカーサー草案の意向について確認。2月26日の閣議で、マッカーサー草案に基づく日本政府案の起草を決定し、作業を開始し、3月6日、「憲法改正草案要綱」が正式に発表されました。

 日米双方で議論をし、日本側の要求も一部受け容れられていることを考えると、必ずしも全てが押し付けであるとも言えない側面もあります。しかしアメリカが作った草案がベースになっており、敗戦国であったため拒絶できないやり取りが一部あったことも事実です。

 また、世界の国々は、時代の要請に即した形で憲法を改正しています。主要国を見ても、戦後の改正回数は、アメリカが6 回、フランスが27 回、イタリアは16 回、ドイツに至っては59 回も憲法改正を行っています(平成25 年1 月現在)。しかし、日本は戦後一度として改正していません。

 そうした状況を踏まえれば、戦後70年の節目で、憲法改正論に真正面から取り組むのは、国会第一党、責任与党の責務ではないかと考えます。

安全保障について

 9条については、現行憲法通り日本は戦争を放棄します。戦争はしない、戦力は持たない、交戦権は認めないということは変わりません。しかし、国家には自国を守る権利「自衛権」が備わっているということ、そしてその「自衛権」には国連憲章が認めている個別的自衛権や集団的自衛権が含まれているということが、国際社会の常識、良識として認められています。

 他国から攻められた時は、敵を断固排除するという国家の決意を明確にする必要があります。「戦争はしないが国家には自衛権があり、外敵に侵された場合、自衛権の発動がありうる」ということを示すことが重要です。9条2 項では「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と規定し、集団的自衛権に関するわが国の立場も明確にしています。

 更に自民党の憲法改正草案には、「国防軍」の規定が置かれています。具体的には、「わが国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」と規定しています。

 世界中を見ても、都市国家のようなものを除き、一定規模以上の人口を有する国で、防衛力を保持していない国はありません。独立国家が、その独立と平和を保ち、国民の安全を確保するため、国防のための軍隊を保有することは、現代の世界では常識です。

徴兵制を行なわない

 また、「領土等の保全等」についても規定を置きました。領土は、主権国家の存立の基盤・基礎であり、それゆえ国家が領土を守るのは当然のことです。しかし党内での議論の中では、「国民の『国を守る義務』について規定すべきではないか」という意見も多く出されました。

 しかし、仮にそうした規定を置いた場合、「国を守る義務」の具体的な内容として、徴兵制について問われることになります。現在の政府解釈は、徴兵制を違憲とし、その論拠の一つとして憲法18 条を挙げていますが、これは、徴兵制度が現行憲法18 条後段の「その意に反する苦役」に当たると考えているからです。「その意に反する苦役」という文言は、自民党の憲法改正草案でも、そのままの形で維持しています。文言が変わらない以上、今後も徴兵制が行なわれることは絶対にありません。

 領土等を守ることは、単に地理的な国土を保全することだけでなく、わが国の主権と独立を守ること、さらには国民一人ひとりの生命と財産を守ることにもつながるものなのです。

 この規定は、軍事的な行動を規定しているのではありません。国が、国境離島において、避難港や灯台などの公共施設を整備することも領土・領海等の保全ですし、海上で資源探査を行うことも考えられます。加えて、「国民との協力」に関連して言えば、国境離島において、生産活動を行う民間の行動も、わが国の安全保障に大きく寄与することになります。

 更に緊急事態条項を新たに設けました。特に東日本大震災で、緊急事態下におけるわが国の危機対応能力の限界が明らかになりました。緊急事態には大きく二つの種類があり、一つは東日本大震災のような自然大災害。もう一つは、ミサイルの着弾などの武力攻撃です。このような事態が発生した場合には、誰かに権限を一時的に集中させなければ迅速な対応がとれません。具体的には内閣総理大臣にその権限を集中させます。

 国民の生命、身体、財産の保護は、平常時のみならず、緊急時においても国家の最も重要な役割です。このような規定は、外国の憲法でも、ほとんどの国で盛り込まれているところです。

 緊急事態の宣言の手続について最も議論されたのは、「宣言を発するのに閣議にかける暇はないのではないか」ということでした。しかし、内閣総理大臣の専権とするには余りに強大な権限であること、また、宣言の効果は1分1 秒を争うほどの緊急性を要するものではないことから、閣議にかけることとなりました。

 また、国会による民主的統制の確保の観点から、緊急事態の宣言には、事前又は事後に国会の承認が必要であることも規定されました。

公益と人権について

 また、「公共の福祉」という言葉を「公益及び公の秩序」に変えた点についても、意見が多く出されました。元々「公共の福祉」という表現は、その意味が曖昧で、分かりにくいものだと法学の世界でもされてきました。

 そのため、一部では「公共の福祉は、人権相互の衝突の場合に限って、その権利行使を制約するものであって、個々の人権を超えた『公益』による直接的な権利制約を正当化するものではない」などという解釈が主張されたこともあります。しかし街の美観や性道徳の維持などといった問題は、人権相互の衝突という点だけで規制できないはずですが、多数の人はそうした規制が必要だと考えています。

 今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及
び公の秩序」と改正することにより、その曖昧さの解消を図るとともに、憲法によって
保障される基本的人権の制約は、必ずしも人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。

 わが国も批准している国際人権規約でも、「国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」といった人権制約原理が明示されているところです。「公の秩序」とは「社会秩序」のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。個人が人権を主張する場合に、人々の社会生活に迷惑を掛けてはならないのは、当然のことです。

 そのことをより明示的に規定しただけであり、これにより人権が大きく制約されるものではありません。国民の憲法尊重義務を規定したのも、同様の問題意識からです。

 地方自治については、これまで「地方自治の本旨」という文言の定義や意味が曖昧だったため、明確化をしました。すなわち「地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う」とし、「住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う」と記載することになりました。また、「地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する」と規定し、外国人に地方選挙権を認めないことも明確にしました。

国民が創る日本国憲法

 以上が自民党の憲法改正草案の主な内容ですが、憲法改正のための手続法として「日本国憲法の改正手続に関する法律」いわゆる国民投票法が2010年5 月に施行されました。提出者のほか、衆議院では100 人以上、参議院では50 人以上の賛成者で、憲法改正の国会発議が可能となりました。自民党の「日本国憲法改正草案」は、いずれ憲法改正原案として国会に提出することになると考えています。

 しかし、国民に対する憲法改正の発議要件が両院の3 分の2以上の賛成が必要であることを鑑みれば、自民党の案のまま国民に諮るということは、とても考えられません。まず、各党間でおおむねの了解を得られる事項について、部分的に憲法改正を行うことになるものと考えます。

 いずれにしても、憲法改正は国民の意思でできるということを早く国民に実感してもらうことが必要です。与野党の協力の下、憲法改正の一致点を見いだす努力をすることが重要だと考えます。

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