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医師が処方を誤ったらどうする?潔く諦めますか?

「薬剤師って一体、何の役に立っているの?」

処方箋を薬局に提出して薬剤師から薬を受け取る時、すでに処方の内容は決まっています。
薬剤師は色々と質問してきますが、この段階で今さら薬剤師に何か話をする必要はあるのでしょうか?

薬剤師はこう説明します。
「先生の処方に問題がないか、私たちがチェックしています。また患者様が納得して医薬品を使用できるよう、処方意図を踏まえた説明を致します。」

…イヤイヤ(怒)、医者でもないアンタに何が分かるのよ。説明なんてして貰わなくても説明書を見りゃ分かるし、詳しい説明もネットで十分。薬剤師なんていらないでしょ。

薬剤師は食い下がります。
「いえいえ、薬剤師法には、『疑義照会』という規定があってですね。薬剤師は処方箋に疑わしい点があれば、先生に問い合わせて、確かめずに調剤してはいけない、っていう決まりがあるんですよ。
日本薬剤師会が行った調査によれば、処方箋の5.4%に疑義照会が発生し、そのうち70%が実際に変更されているんです。」

…だ・か・ら!
医者は優秀なんだから、そもそもほとんど間違えることなんてないし、数%のミスはコンピュータでチェックすりゃいいでしょ。去年、イギリスだったか有名な大学の研究で、今後多くの職業がコンピュータに置き換えられるって言ってたけど、薬剤師なんて、その筆頭じゃないの!(怒)
はい、論破!
薬剤師なんて、消えてなくなってしまえっっ!!

インターネット上では時々見かけるこういった意見、実際のところ、私自身は、ほとんど耳にしたことがありません。いわゆるノイジーマイノリティー(少数派だが、頻繁に、強い口調で主張するため実際より多数派にみえる)と呼ばれる人々なのでしょうか。それとも薬局で接する際、妙に無口な患者さんは単に内向的なのではなく、口には出さないけれども、心の中でそう思っているのかなあ等と、時々考えてみることがあります。

今回は、そのお話です。

前回は、お薬手帳の料金改定についてお話ししました。
その際に言及したように、お薬手帳は現在使用中の薬品名の他、過去の服用歴、アレルギー・副作用歴を医師や薬剤師などに伝えるためのものです。もちろん何らかの疾患や事故で意識不明になったとき、あるいは地震など災害時の医薬品の供給に役立つという側面もありますが、それだけの存在です。

お薬手帳の話題が注目を集めるのは、分かりやすい存在であること、また毎度の改定で有料・無料を繰り返す、料金に関わる「お得情報」だからでしょうか。

しかしながら、医療を考えるとき、また医薬品の使用を考慮する際に最も重要なのは、「安全かつ有効かどうか、健康維持や生活の質の向上、寿命の伸長に役立つかどうか」です。ここをすっ飛ばして枝葉の議論に終始する訳にはいきません。
しかも、今年の4月には「かかりつけ薬剤師」制度がスタートします。この制度を理解する上でも、土台になる話題ですので、少々長い文章ですが、どうぞお付き合いください。

■「医療者の責任」って何なの?

「病気がよくなった。お医者さんのおかげだ。」 「医者にかかったのに痛みが治まらない。ヤブ医者だ。」という声を聞くことがあります。ただ、医師は魔法使いではありませんので、当然治せない症状や病気もあります。

どんなケースであれば責任を問うべきか、またどういった状況なら仕方ない(医師は悪くない)とすべきか、これは社会通念に従って判断するのが妥当です。これを現状、最もよく反映しているのが司法の判断です。(法曹は医療の専門家ではなく、誤った判断も少なくないとの意見もありますが)

司法の場では治療に問題があったかどうか、つまり過失の有無を、その際の状況等を踏まえた上、その時代の医療水準に照らして判断しています。
現代の医師であれば、この程度の知識や技術、判断力を持っているべきであり、助けられなかったことに過失がある。あるいは、悪い結果になったのは不幸だけれども、医師は現代医療において必要とされる治療を迅速に実施した。結果は仕方ないことであり、医師に過失はない。といった具合です。

■薬剤師の責務って?

薬剤師は薬の専門家として、「適切な薬物治療の実施」について責任を負っています。
例えば冒頭で挙げた「疑義照会の義務」は、薬剤師法第24条に定められています。

『薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師、又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。』

薬剤師は、その時代ごとに要求される水準の知識や判断力によって処方せんを確認し(処方監査)、疑義があれば医師に照会しなければなりません。
医薬品を患者に交付する際には、必要な注意喚起や指導を行わなければなりませんし、調剤せず他医への受診等を勧めるべきかについても(「調剤拒否」と呼ばれます)、適切に判断しなければならないという訳です。もちろん、それを怠り患者に被害が生じた場合には、その責任を負うことになります。

■医師が間違えることなんてある?

実際に、医師が「明らかにおかしい処方」をしてしまうことなんてことは、あるのでしょうか?
先日、医師を対象としたアンケート調査が実施されました。

「医師から医師への疑義照会」実態…他医の処方が明らかにおかしい時の対処とは?
http://www.qlifepro.com/special/2015/11/25/survey-of-the-doubt-queries-from-doctor-to-doctor/

このアンケートでは、実に医師の74%が他医の「明らかにおかしい処方内容」を見たことがあるとし、多くの場合、その疑義について照会することはないと回答しています。

そりゃあそうだろうなと、私は思います。医師はセカンドオピニオンとして受診された訳ではなく、その病状に対し責任を負う立場ではありません。患者が病院を変え、自分のところに来たのであればさておき、他医が担当して治療を行っているのですから、横槍は入れにくいものです。
もちろんケースによっては(一見して、直ちに命の危険があると判断される等)、その必要に迫られる場合もあるでしょうが、基本的に、医師から医師へ疑義照会を行う義務はありません。

ただ患者側にとって、困った状況であることは間違いないでしょう。患者自身が医師の処方を「明らかにおかしい」などと判断できるとは限りませんし、だからこそ、その処方内容が他の医師の目に触れているのでしょうから。

■薬剤師って、ちゃんと仕事してるの?

インターネットで、ツイッターやフェイスブックの投稿を眺めていると、こうした不適切処方についての投稿をよく見かけます。「トンデモ処方」、「クソ処方」等との揶揄を伴って、拡散されています。

悪趣味だなあとは自覚しつつ、薬剤師の方に質問してみることがあります。
「処方量の誤りといった明らかなミスではなく、こうしたレベルの低い処方内容のとき、照会しますか?」
こういう答えが返ってきます。
「それは照会しにくいですねぇ。医師には裁量権がありますから。」

悪趣味なので、さらに質問を重ねます。
「そうですよね。難しい局面です。でも患者には伝えますよね?あんまりよくないから、今後は医師とこういう話をした方がいいとか、この症状なら、これからは〇〇医院に行った方がいいですよとか。」
返答はこうです。
「そんなこと言えないでしょう。その薬局にいられなくなりますよ。」

「薬剤師が患者に助言する際には、『医師の機嫌を損ねない限りにおいて』って注釈がいるんですか?それならわざわざ院外に薬局がある意味ないんじゃないですか?」

…この辺りで、やり取りは終了します。「嫌われてしまった。。」と確信する瞬間です。

実際のところ、どの程度の割合で、医師を相手に委縮してしまう薬剤師の方がいるのかは、私には分かりません。キャリアが浅く、自信を持って患者さんに伝えることができないという方もおられるかもしれません。

薬剤師の業務自体は、そう簡単なものではありません。病状はどうか、医師からどのような指導やコメントがあったか、処方内容は適切か…。
単に処方量が多いというだけで不適切と判断できるものでもありません。疑義照会すべきケースか、今後の課題として持ち越すか、ベストと言えなくても状況を考慮すれば仕方ないものなのか。
患者さんの状況も様々であり、各々のケースによって、助言や指導内容は異なります。

ちなみに、冒頭で紹介したイギリスオックスフォード大学のレポート「コンピュータ化によって各職業はどんな影響を受けるか」においては、検討された702職種の中で、薬剤師はコンピュータに代替されにくい職種の54番目に位置しています。 …そりゃそうですよ。自動販売機じゃありません。
http://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

■制度の問題は修正されない

「薬剤師が萎縮する」という意味で、制度の問題は明らかです。
医師は処方箋を発行し、患者は院外の薬局で薬を受け取る。この「医薬分業」と呼ばれる制度は欧米の仕組みを持ち込んだものですが、日本のように処方箋の発行を医師が任意で決める国は他に例がありません。そんなことをすれば、薬局は病院に隣接して開設されることになり、萎縮するのは当然だからです。

ただ、この日本独自の分業制度が今後変わることはないでしょう。医師会と薬剤師会のパワーバランスが逆転するようなことはないでしょうし、世論は薬局バッシングで盛り上がることはあっても、分業制度の不備を糾弾することはありません。

制度をリードすべき厚労省の官僚もまた、天下りポストの確保のため、歪んだ医療制度に手を付ける気はないだろうと指摘されています(2016.2雑誌「選択」)。

■解決策は?

「ではどうするの?」というのが、残された課題です。

「先生を信じる。間違いはない。」という方は少なくありません。「ダメだったら、それを含めて寿命だ。」という方も。「日本人の平均寿命は世界トップクラスなんだから、それで十分。」という意見も聞いたことがあります。
かかりつけの薬剤師を持つ方からすれば、院内調剤の病院で薬を貰ったり、病院を受診する都度、隣接の薬局を利用する行為に危険を感じるでしょう。薬局なんて自動販売機と一緒だと言う方にとっては、わざわざ遠回りして行きつけの薬局に通うなど、クレイジーな行為かもしれません。

「国民の皆様の『自由な選択』を妨げてはいけません。」
厚労省はこう言います。
つまり、どのような行動を選択するかは結局、患者本人に委ねられているんですよね。

ただ医療の良し悪し、薬剤師の良し悪しを判断することは、患者側にとって簡単なことではありません。
「地域でかかりつけの薬剤師を探そうと、色々あたってはみたものの、どの薬剤師も医師に気を遣うばかりでガッカリした。」
という意見にも、私は説得力を感じてしまったのですけれど…。

来週は、「かかりつけ薬剤師」制度についてお話ししたいと思います。

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