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もっと深い議論が必要だろう

医師会、異状死の届け出義務を明確化 医師法改正案公表
2016年2月25日朝日新聞

 医師に異状死の届け出を義務づけた「医師法21条」について、日本医師会は24日、届け出義務の対象について、医師が「犯罪と関係があると認めたとき」と明示する改正案を公表した。現在は対象があいまいで、医療現場が混乱しているなどの指摘を受けたという。

 改正案ではこのほか、医師の倫理に基づいて報告するのが基本理念とし、届け出義務に違反したときの罰則規定(50万円以下の罰金)を削除する、とした。

 医師法21条は、死体や、妊娠4カ月以上の死産児を検案して異常を認めたときには、24時間以内に警察に届け出ることを医師に義務付けている。福島県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性が死亡した事故では、手術した医師が業務上過失致死と医師法21条違反の疑いで逮捕され、その後無罪判決を受けた。医師からは、異状死の範囲を明確にするよう求める声があがっていた。

 医師会は改正案を盛り込んだ提言のなかで、医師法21条は本来、殺人や傷害致死など重大な刑事犯罪の捜査の端緒を得やすくするために定められた、などとしている。

 昨年10月に始まった医療事故調査制度は、医師が「予期せぬ死」と判断すれば、第三者機関に届け出ることを求めている。医療界には医師法21条の届け出義務との整理を求める声もあり、今年6月までに、医師法21条のあり方も含め、制度を見直すことになっている。(武田耕太)
診療関連死に関連し、一般に臨床医としては医療事故事例を警察に届け出たくないという気持ちが強い。そのせいで、異状死の定義を変えたいということになるのだが、果たして思惑通りなるのだろうか。

まずは医療事故に限定した観点から考えてみる。

仮に、異状死を「犯罪と関係があると認めたとき」と定義する。外表に異常がある場合でかつその異常が犯罪と関係があると認めたときという意味だと主張する者も一部いるが、過去の判例から考えても現段階でそれが多くの裁判官を含めた法律家や国民に受け入れられているとは思えない。血液型の違う血液を輸血することで死亡した事例や、広尾病院事件のように消毒薬を誤って点滴し死亡させた事例などは、日本の過去の判例では、業務上過失致死という「犯罪」になってしまうので、外表に異常がある・ない関係なく、そうした疑いの生じるような情報を聞き知り、「犯罪と関係があると認めた」時点で、警察に届け出なければ、隠蔽と判断され、より厳しく処罰されるということになりかねない。結局は何も変わらないということになる。医療事故に着目すると、どうしても異状死の定義という狭い議論にばかり気を取られるようだが、それはあまり本質的ではなく、むしろ問題なのは日本の法律や制度全体なのではないかと思う。航空機事故や海難事故でも同様の問題が出ているので、シンポジウムを開くなどしてそれら他の問題と連携しつつ根本的に制度を変えることがむしろ求められているように思う。

一方、医療事故とは関係ない点から考慮すると、異状死を報道に書いてあるような「犯罪と関係があると認めたとき」と定義する話は、全く論外な話になる。医師は一体何の権限で、目の前の死体について、「犯罪と関係がある」と認めることができるのだろう。

一般に医師は病名がつけば犯罪ではないと考えがちであるが、社会的には決してそうではない。例えば、どんな病気でも治すことができると主張する霊媒師が、重症の糖尿病の子供をインスリンを使わずに「治療」したところ、糖尿病性昏睡で死亡し、殺人容疑で捜査されたという事例が過去にあった。医学的な死因として糖尿病性昏睡という立派な病名がつく場合でも、死に方次第では殺人や業務上過失致死などの犯罪になりうるのだ。それは死因が医学的に確実に診断されたはずの肺炎であっても心筋梗塞であっても変わらない。最終的な死因(直接死因)が病死に見えても死亡までの経緯次第でいくらでも犯罪になる。

死亡までの経緯については、医師に捜査権限をあたえるなどしなければ、知りようがないので、今のようにそのような権限のない医師に「犯罪と関係がある」死亡事例だけ届け出るようにしてしまうと、犯罪は見逃し放題になってしまうだろう。

ましてや近親者による毒物を用いた殺害事例が、心肺停止状態で病院へ搬送され死亡するということが十分想定されるわけで、そのような事例をどうするのかを議論されなけば、国民にとっては危険極まりない話となってしまう。

それにしても医師側が考える「犯罪」と、そうでない者(特に法律家)が考える「犯罪」の意味合いが微妙に異なっているように思える。医師側がそのあたりをしっかり理解せずに話が進むと、気づいてみたら逆方向に行っていたというようなことになりかねない。本来は国民の安全安心といった広い観点から法律や制度が作られるべきであるし、医療事故の観点にとらわれるばかりに拙速な議論にならないことを祈るばかりだ。

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