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現物石油価格決定の裏事情 相場崩落の原因は供給サイドにあり?

原油価格が30ドル近辺をフラフラ。石雄太郎は、波乱万丈の石油・エネルギーの世界を「価格の決め方、決まり方」という切り口からご案内しています。筆者はここに、ほんとうに長く住んでいるものだから、この世界の基本的な構造が見える。

石油供給者の連鎖

 表題のとおり「石油価格は供給側が決める」という基本中の基本、についてお話ししたい。ただし、現物石油価格の場合です。

 ここ数カ月の相場の崩落は、いろいろに解説される。OPECカルテルが力を失った、北米のシェール原油生産者たちがしぶとく生き残っている、アメリカの原油在庫水準は”ジャブジャブ”で、貯油能力の限界だ、イラン経済制裁が解除されて生産を回復させるだろう。いや、ISのテロが原油生産・出荷設備に向かえば、突然の供給トラブルが起こるかも、サウジ・イラン間の緊張……。

 ご覧のように、これらの説明ぶりは供給サイドの事情を取り上げたものだ。いや、中国経済の減速による中国国内石油需要の低迷が原因だ、という話があるではないか……。そうですね、中国国内に石油製品を供給している中国の製油所が、短中期的な需要低迷を見越して原油購入を手控えている、という観察はあります。でも、このお話も石油製品を供給する精製企業にかかわる話ですね。

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 つまり石油の世界は、石油の供給者たちの世界と、石油製品を使う最終需要家たちの世界とが、きっぱりと分かれている。供給者とは、世界市場に原油を供給する産油国と、原油を精製処理し世界市場に石油製品を供給する精製企業、そして、石油製品を国内供給する流通企業に分かれる。最終需要家に石油製品を販売するのが流通企業である。これが石油のバリューチェーン。

 原油と石油製品とを総称して「石油」といいます。そして、現物の石油価格は市場で上述の供給者たちが決めている。最終需要家は価格決定に関与するチャンスは、ほぼ無い。なぜか?

石油製品の世界

 最終需要家に石油製品を販売する国内流通企業のビジネスを見てみよう。
精製企業が原油を製油所で精製すると、大まかに以下の図の工程で、石油製品ができる。LPガス(LPG)、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料、軽油、重油やアスファルト。精製企業は流通企業に石油製品を卸し、流通企業が最終需要家に小売販売をする。

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 さて、これら石油製品のなかには、電気、都市ガス、石炭などの他のエネルギー製品と利用用途で競合するものがある。つまりLPGは、台所で都市ガスやIH調理器と競争する。居間を暖房する灯油は、ガスストーブやエアコンと。重油は発電所でLNGや石炭やソーラーやらと。ガソリンや軽油だって、電気自動車やLPGや天然ガスを燃料にして走る自動車と競争するのだ。

 だから最終需要家としては、石油製品の価格と電気や都市ガスの価格とを比較して、賢く選んで買い、石油製品市況を牽制できるのではないか。

価格変化と需要変化

 が、すこし考えてみればわかるだろう。

 ガソリンスタンドに入ってガソリンを買うドライバーは、このところ(2016年2月)「おぉ、リッター100円! 半年前は140円だったのに、ずいぶん安くなったものだ」と、感慨深い。けれども普通のドライバーは、それじゃひとつ遠回りして長距離ドライブをしよう、とは思わない。ガソリンが高いときも乗り控えることはなかった。つまり、ガソリンの消費は価格レベルに感応しないのだ。

 という筆者の説明に対して、するどい反撃がとどいた。「アメリカの場合だと、ガソリン価格が安い際には大型車が売れるといったこともあり、ガソリンの消費が価格レベルに感応しないとも言い切れないでしょう!」

 ……なるほど。大排気量エンジンで燃費が悪いゴツい大型車(ピックアップトラック)が、売れ行き好調なんですね。でも、もう少し考えてほしい。合衆国には2億5000万台の自動車があって、毎年1600万台新車が売れる。平均すれば15年で買い換える。道路上に走っているすべての車(新車から30年落ちまで)の走行距離と燃費を全体で平均すると、ガソリン価格の短期変動はアメリカ国内全体の需要に感応しないんです。

実際、日本国内のガソリン需要予測はこのように作る。まず国内の自動車保有台数を想定し、それから全部の自動車が1年間に走る「総走行距離」を想定する(この想定は経済活動と相関させている)。「総走行距離」に自動車の「平均燃費」を掛け算すると、来年の国内ガソリン消費量が得られるだろう。すなわち、ガソリン店頭価格が高いか安いかのシナリオは、需要予測手法に取り込まない。将来価格がわからないから取り込まないのではなく、高かろうと安かろうとクルマたちは走るためにガソリンを欲するのだ。

大転換点

 最終需要家のエネルギー製品の選択は、保有する機器で決まる、ということ、了解されましたでしょうか。ガソリン車のドライバーはクルマで移動するために、燃料が必要だ。だからガソリンを買う。

 これはつまり、このドライバーが、将来のある日、電気自動車に買い換えると、もうガソリンには戻ってこない。もしや100円ガソリンが、ガソリンに賦課しているリッター60円の税負担が、突然、ゼロになったもので、スタンドで、40円! で売り出されても(これは、絵空事ではない。アメリカのテキサスのスタンドでは、現在1ガロン1ドル、リッター32円! で売っている)、電気自動車のドライバーは無関心だろう。世の中の自動車の動力システムの大勢が変わってしまえば、ガソリンは不要になる。事情は軽油トラックでも同じ。電気で走るトラックが一般化したら、軽油は不要になる。だだし、航空機のジェット燃料を電気で代替するには、重い巨大なバッテリーを積まなければならないから、難しいだろう。

 なお暖房用灯油は、家庭の居間で、電気、都市ガスとの相乗りが可能である。機器や設備費が安いため、そして燃料費が比較しやすいためである。筆者はこの冬、灯油が安いものでエアコン暖房を控える。

 本題に戻ると、最終需要家はエネルギー製品の間で、随時の選択ができない故、日々の現物石油価格の相場形成には出番がないことが、お分かりいただけたと思う。

 だから、供給者の間の市場シェア獲得争いで、現物の石油相場は決まる。そして国際原油市場で、産油国と価格交渉をする買い手とは、石油製品を生産・供給している世界の精製企業たち。日々の現物石油価格(原油と石油製品の両方です)は、原油供給プレイヤーたちと、原油を購入して石油製品を生産するプレイヤーたちとの間の、市場を介した綱引きで決まるのだ。

 産油国が生産しすぎると原油は余る。国際市場には最終需要家保護を旨とする独禁法なんか簡単に持ち込めるはずもないから、サウジもイランも、ベネズエラやナイジェリアも、シェール生産者たちも、ロシアやブラジルなんかも「一堂に会して」「話し合って」、需給を調整すればよろしい。それがうまくいかないので、供給過剰に陥り、原油価格が上がらない。

 以上、たいへんよくできた解説に聞こえるでしょう……。

 で、改めて、なぜ今、原油相場が30ドルなのか? 産油国・精製企業間の価格交渉に、世界の現物石油需給の動向が反映されて、今の30ドル相場があるのだろうか。

 実は、そうではない。筆者は、もともとこの話をしたいのでした。筆者の考え方は、この連載の第1回「石油価格の決まり方:4種類の価格形成情報」に書きました。

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