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格差縮小のカギは相続税強化にあり AIは人類の敵か味方か? 新しい技術が経済にもたらすインパクトを考える(後編)井上智洋×飯田泰之 - 柳瀬 徹

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これからの技術革新によって起こることをめぐる対談の最終回。階層格差を放置すれば、いつか国全体が衰退していく。では、格差を是正する方法はあるのだろうか。そのために必要なのは「お金」と「文化」の再分配だ――。

衰退国に陥らないための教育の再分配を

飯田 「機械との競争」をここまでは労働者の側から考えてきましたが、経済全体への影響も考えてみたいと思います。人口知能の発達により、就労者一人当たりの生産性は間違いなく上がります。上がらなかったらそもそも導入する意味がありません。ただ、それがマクロの経済成長に結びつくのかどうかということです。

 一人当たりの生産性は上がっても、それを上回るほど技術的失業が発生したら元も子もありません。生産される付加価値の総計が増えなければ、100人で分けていた富を70人で分けることになるので、就労し続けられる人だけが豊かになるという状況になってしまいます。

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飯田氏(左)、井上氏(右)

井上 すべての労働がAIやロボットに代替されてしまうまでの過程では何が起きるのか、考えるべきはそこなのかも知れません。人間の能力の限界が成長の足かせになってきたのであれば、もっと経済成長できるようになるかも知れない。問題は生産性向上に需要の側がついてくるのかどうかですが、ついてくるのであれば需要の増大によって仕事が増えるので、技術的に失業した人が別の仕事に就くこともできると考えられます。

飯田 恐ろしいシナリオは技術的失業や低賃金によって、消費性向の高い中間層の需要が下がり、消費性向の低い富裕層の資産ばかりが増えていくというものですね。需要制約は深刻になりますし、国全体では成長せずに経済格差はどんどん悪化していく。先進国未満で発展途上国以上の経済規模の国が、途上国の追い上げにより輸出競争力を失って停滞する現象を「中進国の罠」といいますが、階層格差を拡大させながら成長力を失う構造はこのシナリオと似ています。

井上 先進国でもアメリカでは1970年代から、格差拡大と成長鈍化が起きています。所得の中央値は停滞するか、もしくは低下しています。日本はアメリカほどにはなっていませんが、近い状況が生まれるかも知れません。

 需要制約を打ち破るものは、基本的には金融政策と財政政策ですが、もうひとつは再分配政策です。再分配は日本では理解を得にくいのですが、「需要制約の打破」のために再分配が必要だ、という正当化はできるのかも知れません。

 階層を問わず、これからもしっかり稼いで幸せに暮らしていくためには、需要制約を打破する必要がある。「努力した人からなぜ奪うんだ」といった再分配への抵抗は根強いものがありますが、親から受け継いだ資産は本人の努力とは関係ありません。相続税を上げる必要を理解してほしいと思ってしまうのですが、実際には抵抗が大きいでしょうね。

飯田 相続税への抵抗はものすごく強くて困ってしまいます。

 近年、消費増税の必要がしきりに叫ばれているのは、「日本の税制は所得課税に傾いている」と問題視されてきたからです。いわゆる直間比率是正論ですね。その一方で、所得課税にはいわゆる「ビルトインスタビライザー」の機能がある。景気の加熱時には税率が高くなり景気を冷まし、低迷時には税率が低くなって景気を浮揚させるので、景気を一定の幅で安定させる働きがあるのですが、税収として見れば安定性に欠けるので、間接税比率を高めて税収を安定させたいということが議論の根幹にあります。

 しかし先進国間で比較すれば、税収における消費税の占める割合では、日本はドイツに次ぐ高さです。本来なら、これから上げるべきは資産課税の方です。

 資産課税は基本的に、毎年徴収する固定資産税か、相続時に徴収する相続税の2パターンです。僕は相続税の方が理解も得やすいし、効率的だと思っていますが、その是非は実務サイドからの意見をもっと聞きたいと思います。

 自分自身の将来のために溜めた資産の収奪を、正当化することは難しい。一方で相続税は、親が持っていた分から引く税であって、子が取られるわけじゃない。どちらが自分の子に優しいかは明白なのですが、高齢者層ほど相続増税は忌避します。

抵抗する「親」たち

井上 生きていた証しになる何かを残したいと思ってしまうんでしょうね。子から孫、またその子へと永遠に家族が続いていくような感覚は、資産家ほどもってしまうものなのかも知れません。

飯田 たとえば相続税が一律20%となれば、税収は約16兆円になり得る。税制問題はそのかなりの部分が助かるわけです。20%は富裕層にとってはむしろ減税で、相続財産が5000万~1億円当たりには増税になってしまいますが。

井上 とにかく相続財産から2割出していただいて、サステイナブルな社会にしませんか、ということですよね。

飯田 その税収を原資に、公教育を充実させることが必要だと思うんです。小中学生に提供される、学校以外の公的な教育の場ですね。そこがもっと充実してもいいんじゃないかな、と。

井上 資本家、つまりキャピタルクラスか、クリエイティブクラスしか生き残れないとするなら、クリエイティブクラスまでには全員を入れるくらいの意気込みが必要ですよね。キャピタルクラスとクリエイティブクラスからお金をいただいて、それを元手にすべての子どもたちをクリエイティブクラスに育てていく。

飯田 それがうまくいかないと、日本は新興国と賃金切り下げ競争をすることになります。たとえばプロの「おもてなし」、高度なホスピタリティを提供するサービスは感情に関わるものなので、AIはそう簡単には代替できないでしょうし、そこをもっと重視すべきだと思います。

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