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「あの日」の恐怖をたった5年でもう忘れたのか!? - 鈴木耕

 チェルノブイリ原発事故から今年でちょうど30年が経つ。そして、福島第一原発事故からもうじき5年が過ぎる…。

 何が変わったか? 

 2011年3月11日。あの大地震と大津波で、福島第一原発は壊滅的な打撃を受けた。そして爆発。空前の放射性物質が、日本の(いや、世界の)空と海に放出された。あの恐怖に怯えた日々は、ぼくの記憶から消えない。

 5年目の「あの日」が近づくにつれてぼくの気持ちは揺れ動き、このところ、悪夢にうなされる夜が多くなった。この寒さなのに、じっとりと寝汗をかいて目覚める朝が続く。

 「3・11」から2ヵ月間のぼくの怯えと揺らぎは『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日~5月11日』(マガジン9ブックレット)に収録してある。ご興味があれば、お読みいただきたい。

 ぼくの最近の心の不安定さは、その記憶が、このごろ鮮明によみがえるからだ。忘れるわけにはいかないが…。

 恐ろしい記事が、東京新聞(2月20日)に載っていた。福島原発爆発直後に、当時の菅直人首相官邸で内閣官房参与を務めていた劇作家の平田オリザさんが、文部科学副大臣だった鈴木寛氏の依頼を受け作成したという〔首相談話〕である。次のような内容だ。
(注・この文書については、数年前にTBSが報じていたと、ツイッター上で教えてくださった方がおられた。感謝する。でもぼくは、残念ながらそれを知らなかった。この記事で初めて知って驚いたのだ)

原発事故 
政府の力では皆様を守り切れません

 (略)四百字詰め原稿用紙七枚に相当する約二千八百字の長文で、避難の範囲といった具体的な数値については、発表時の放射性物質の拡散状況に対応できるよう「〇〇㌔圏内」などとした。

 赤字で「重要原稿草案2011・3・20」と書かれた草案は冒頭、政府の責任を認めて謝罪し、原発を所管する経済産業省や東電の責任追及を約束。その上で「国民のみなさまの健康に影響を及ぼす被害の可能性が出てまいりました」などと避難を呼び掛けた。パニックを警戒し「西日本に向かう列車などに、妊娠中、乳幼児を連れた方を優先して乗車させていただきたい」「どうか、国民一人ひとりが、冷静に行動し、いたわり合い、支え合う精神で、どうかこの難局を乗り切っていただきたい」などと訴えている。

 平田氏はパソコンで草案を書き、鈴木氏に渡した。福島原発事故の放射能汚染が首都圏に及ぶ可能性が少なくなったことから、公表しなかった。
 鈴木氏は本紙の取材に「官邸の指示ではない。私が独断で準備した」と説明。ただ、原発事故の影響がさらに拡大すれば、菅首相らに提案するつもりだったという。(略)
 首都圏避難を伴う「最悪のシナリオ」をめぐっては官邸の指示で当時の近藤駿介原子力委員長が一一年三月二十五日に作成。福島第一原発1~4号機の使用済み核燃料プールが空だきになって燃料が溶融するなどの想定で、首都圏の住民数千万人の避難を示唆する内容だった。

 まるで、近未来SF映画のワンシーンを見ているような気分に陥る。小惑星が地球へ大接近し衝突の恐れが生じ、政治家や科学者、軍部までもが協力して地球壊滅の危機に対処する…といったハリウッド映画定番のパニックSF映画にそっくりではないか。

 しかしこれはフィクションではない。

 この我々の国で、たった5年前に現実に起きていた恐怖の出来事だ。数千万人規模の避難を、政府が真剣に考えざるを得ないような、それこそ想像を絶する巨大事故だったのだ。

 なお、この「平田文書=首相談話草案」は、東京新聞に全文掲載されているし、起草した平田オリザ氏へのインタビューも併せて載っているので、ぜひ読んでほしい。でもぼくは、あの頃の恐怖が甦って、一回ではとても読み通すことができなかった…。

 「草案」文中では「今日、明日、健康被害が出るわけではありません」とか「成人に、すぐに健康被害が出るわけではありません。100キロ圏内に、一週間以上とどまっても、屋内退避を続けていれば、健康被害は起こりません」とか事態鎮静化に懸命の文章も出てくるが、一方で繰り返し「理性と、強い自制心を持って、この最大の国難に、国民一丸となって対処していただきたい」との必死の呼びかけも混じる。それは、政府自らが上げた悲鳴のようにさえ感じられる。

 菅元首相はこの文書の存在を「知らなかった」としているが、「最悪の事態は私の頭にあった。スタッフはいろんなことを想定して準備する。(略)本当に避難が必要になった場合は、特別立法を含めて何らかの手だてをしたはずだ」と、同記事の中でコメントしている。

 「平田文書」や「近藤シナリオ」が示す通り、5年前の3月、我々国民は数千万人単位での避難を余儀なくされる瀬戸際まで来ていたのだ。今こうして暮らしているのは「偶然の幸運」でしかないのだということを、ぼくらはもう一度深く胸に刻まなければならない。それほどに、原子力発電というのは危険を背負った技術なのだ。

 政府・電力会社・財界・立地自治体などの「原発推進派」の人々からは、あの時の恐怖の記憶が、たった5年ですっかり消えてしまったのだろうか。それともあの時、まったく恐怖も危機感も持たなかったというのだろうか。たった5年で「原発再稼働」を喚き立てる人たちの神経が、ぼくにはとても理解できない。

 現在でも、どんな調査やアンケートの結果を見てみても、原発停止・再稼働反対の意見は常に60~70%ほど。一般の人たちの記憶とこれら再稼働派の人々の激しい乖離はどこからくるのだろう。

 3・11が近い。

 もう一度、あの日を思い起こしてほしい。思い起こして「原発再稼働」がほんとうにこの国の未来を明るくするものなのかどうかを、もう一度、考えてみてほしいのだ。
 その「考えるヒント」のひとつが、新潟県の泉田裕彦知事の意見と姿勢にあると思う。
 
 東京電力は、福島第一原発(6基)の廃炉は決定したが、同第二原発(4基)については今もなお廃炉を明確にしていない。だが、福島県民の感情を考えれば、とうてい再稼働など言い出せるはずもない。したがって、東電の頼みの綱は柏崎刈羽原発(新潟県)の7基なのだ。

 だが、東電をはじめとして再稼働を推進しようと必死の人々の大きな壁になっているのは、新潟県の泉田裕彦知事だ。彼はIWJ(ジャーナリストの岩上安身氏が主宰するネット上の報道メディア)のインタビュー(2013年9月)で、次のように語っている。(なお、このインタビューに関しても、ある方からご教示いただいた)

 「津波、電源喪失はきっかけでしかない。(本質は)冷却機能の喪失だ。止める、冷やす、閉じ込める、これが本質論」とした上で、日本の規制基準をアメリカの体制と比較して「原発の性能基準だけになっている。いざ、事故が起きた時に対応する仕組みがない」「事故が起きたらどうするかをまったく決めないで『安全だ』と言う状況で、(東電が)責任を果たせるのか極めて疑問」と不信感を表明している。

(このインタビューは必読。詳しくはこちらで確認してほしい)

 泉田知事は東電に対し、一貫して「福島第一原発の事故原因が完全に解明されない限り、柏崎刈羽原発の再稼働はあり得ない」との立場を崩していない。東電にとっては、凍土壁ならぬ泉田壁なのである。
 他の原発立地県の首長たちは、泉田知事のこの意見や姿勢をどう考えるのだろう。自分のところの原発だけは安全だなどと、なぜ言えるのだろう。泉田知事の姿勢はごく当然のことだとぼくは思うのだが、安倍政権と財界はタッグを組んで再稼働にひた走る。

 原発は、いまだに膨大な問題をはらんでいる。少なくなったとはいえ、日々の原発に関する報道を辿っていけば、その膨大な問題のほとんどは解決されていないことに気づく。いや、むしろ事故の影はますます濃くなって、問題は拡大しているとしか思えない。

 それでも安倍内閣にとっては、原発は景気浮揚のアベノミクスの譲れない矢である。問題をひた隠し、臭いものの蓋を懸命に作り続けている。だが、何度でも繰り返すが、カネか命か!
 
 このコラムでは、来週からしばらく「原発の今」を、さまざまなニュースから探っていこうと思っている。

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