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亡命政府誕生か核放棄か 北朝鮮に残された2つの選択肢 - 横山了一

カナダのウォータールー大学のウェルチ教授が、1月17日付のDiplomat誌のサイトで、金正恩と非核化の計画につき秘密交渉を行ない、合意できない場合は、国連の議席を亡命政府に与える等して、問題を解決すべきだと提案しています。主要点は次の通りです。

経済圧力では痛痒感じない北朝鮮

 今までとは違ったやり方が必要である。北朝鮮は既にほぼ全面的な制裁を受けているので追加的な経済圧力に痛痒を感じないだろう。金正恩は小規模、低レベルの核兵器で、外国からの軍事攻撃を抑止できると思っている。

 ただ、金正恩にとって核より大事なものは権力の維持である。権力維持のためならば、核を放棄するかもしれない。

 国際社会が直接クーデターや革命を引き起こすことは到底出来ないが、金正恩に対する疑念の種を国内に蒔くことはできる。より良い道があることをみせることが金正恩に再考させるカギとなる。この方法は次のようになる。

 先ず、金正恩と秘密交渉をする。6カ月という時間を限って、非核化とその見返りとなる「(政治的)確約と経済的報酬」の合意に同意するよう迫る。経済的報酬は金正恩が秘密交渉勝利の利益だと国内に説明できる。

 北朝鮮が合意しなければ、国連総会が北朝鮮の議席を空席にすることを議決する。そしてその議席を亡命政府に与える。北朝鮮の新政府とは、関係の正常化、経済協力の強化、人権の保障などにつき詳細な交渉を行う。新政府は政府側に付く政府・軍の高官への免責を認め、忠誠を誓わない者は国際刑事裁判所に訴える。

 こうなれば北朝鮮の密閉社会は崩れ、既に政府に批判的な人々は金体制の打倒に動くだろう。金正恩は激しく対抗するだろうが、彼は大きなジレンマに直面する。合理的な人間であれば協力の道を選択するだろう。

 この方法には前例がないが、敢えて言えば、第二次大戦の時代に亡命政府が広く樹立された例、1971年に国連の中国代表権を蒋介石政府からとりあげた例がある。金正恩に対する承認取り消しを正当化する法的理由は以前の時代よりは大きくなっている。

 最大の問題は中国が乗ってくるかどうかということだ。中国には鍵となる役割を与えなければならない。中国には新政府の有り様につき最大の発言権を認めなければならない。またこの方法はあくまで例外であり国際政治の前例としないことを明確にしなければならない。

 少なくともこのような方法を検討することは、長い間欠如していた北朝鮮に関する地域協力を強化することになる。うまく行けば秘密裡の脅威だけで金正恩を変えることができるかもしれない。そうならなくても、金正恩の崩壊を早めることになるかもしれない。

出 典:David A. Welch‘Bringing North Korea Into Line’(Diplomat, January 17, 2016)
http://thediplomat.com/2016/01/bringing-north-korea-into-line/

*   *   *

 評価の高い国際政治の教科書をハーバード大学のナイ教授と共同執筆する学者による、大胆な北朝鮮非核化提案です。基本的には、エンゲージ論と武力行使によらないレジーム・チェンジ論である。多くの疑問や問題もありますが、知的作業としては極めて興味深いものです。同氏が言う基本的な認識はよく理解できます。一つは、今回の実験に対する国際社会の反応は今まで通りのものとなっているが、問題解決のためにはこれまでとは全く違った方法が必要である、二つ目は、金正恩と包括的解決につき秘密裡の交渉をして基本的な選択を迫ることが必要である、三つ目は北朝鮮の国内社会の変化を促し利用する、四つ目は、北朝鮮に関する地域協力は長く欠如してきたこと等の点です。

中国抜きにして朝鮮半島問題は語れない

 しかし、やはり制裁は必要でしょう。1月6日の核実験の後、国連安保理では米国の主導の下に議論が行われていると言われますが、おそらく中国は慎重姿勢を崩していないものと思われます。ウェルチ教授は、対北経済制裁は「すでにほぼ全面的な」措置が行われているので追加的な痛痒はないと述べていますが、措置の拡大や厳格化について、やるべき点はまだまだあります。日本などは安保理措置に加え独自の措置として全面的な貿易禁止等をしていますが、一番の問題は中国です。北朝鮮の貿易の約9割が対中国貿易で、それは増大していて、大きな抜け穴になっています。中国の安保理決議履行にも問題があると言われます。中国に奢侈、軍事物資の規制を超えて貿易、金融規制を強化し、拡大させることが重要です。北朝鮮にとっては最も痛いことでしょう。他方、人道的取引や援助は認めるべきだと思います。

 ウェルチは、自分の提案について最大の問題は中国が乗ってくるかどうかだと述べ、中国には北朝鮮の新政府の有り様について最大の発言権を認めなければならない、ともいいます。そこまで中国に配慮するかとも思いますが、現実問題としては中国を抜きにして朝鮮半島の将来は議論できません。中国と突っ込んだ議論が必要です。イランの場合には「中国」のような存在はなく、他方で、北朝鮮の場合は「イスラエル」もいないし、「イランの国民」もいないので、北朝鮮の核問題は一層難しくなっています。それに地域関係国の考えもあります。米国としても地域関係国の協力なしに、一国でやるつもりはないでしょう。

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