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機械に仕事が奪われる未来 AIは人類の敵か味方か? 新しい技術が経済にもたらすインパクトを考える(前篇)井上智洋×飯田泰之- 柳瀬 徹

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グーグル傘下企業が開発したAI(人工知能)が、欧州大会での優勝経験をもつプロ棋士に勝利したというニュースは、驚きとともに世界を駆け巡った。チェスや将棋よりも複雑さをもつ囲碁でコンピューターが人間を凌駕するのは当分先のこと、と思われていたからだ。

 同時に、コンピューターが人間から仕事を奪う可能性も、いよいよ真実味を帯びつつある。いたるところでAIが働く社会はユートピアなのか、それとも大格差社会なのか。AIのもたらす経済へのインパクトを研究する井上智洋氏と、人と人のコミュニケーションこそが成熟社会の鍵と見る飯田泰之氏、二人の経済学者が描くシナリオとはーー。

コンピューターに奪われる仕事、奪われない仕事

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井上智洋氏

井上 オックスフォード大学でAIなどを研究しているマイケル・オズボーンとカール・ベネディクト・フライが、『雇用の未来―コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文を発表して話題になりました。彼らが「クリエイティビティ」と「ソーシャルスキル」、そして「マニピュレーション(操作)」の三要素が残っていく職種の条件だろうと仮定して調べたところ、マニピュレーションの要素がある職種はあまり残らないという予測になってしまいました。

 事務労働のなかでも入力など定型的な業務仕事が代替されるのはわかっていたことですが、多くの肉体労働も代替されてしまう。タクシードライバーのような肉体を使って操作する仕事もなくなっていくし、ウェイターや理髪師のような仕事も残らない可能性が高いという予測は衝撃的でした。

飯田 マニピュレーション要素の強い種類の事務労働の代替は通説通りという見方もありますからね。

井上 彼らの予測では「10~20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化される可能性が高い」となっています。さらに野村総研がオズボーン&フレイと組んで日本版の「雇用の未来」をはじきだしたところ、「全雇用者の49%が自動化」となって、アメリカよりも若干高い。ほかの調査でも、2030年頃におおむね半分程度になっているというのが多いです。

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飯田泰之氏

 ただし、「雇用の未来」は技術的に代替可能であるかどうかしか考慮していません。代替可能になってもその技術が社会や企業に導入されるまでにはいくらかのタイムラグが発生します。それから、技術的代替可能性そのものも未来のことなので、確かなことは誰にもわかりません。「雇用の未来」では、各職種のコンピューターによる自動化されやすさを人工知能(機械学習)の研究者達が主観的に判断しています。

飯田 人工知能の未来を信じている人たちですね(笑)。

ポテンシャルが未知数のIoT

井上 近頃、人工知能と並んで注目されているのが「IoT(Internet of Things:コンピュータやスマートフォンなどの機器のみならず、あらゆるモノに通信機能を組み込みインターネットに接続させて、機器同士の通信や使用履歴の記録、遠隔操作などを可能にすること。「モノのインターネット」とも訳される)」ですが、これは人工知能以上にどうなるかわからない技術です。20年ほど前に「ユビキタス」という言葉が流行りました。これは「どこでもコンピューター」などと訳されましたが、あらゆるモノがコンピューターネットワークに接続される状況を意味しています。しかし、ユビキタスが結局のところ何の役に立つのかがいまひとつはっきりしませんでした。今度はユビキタスがIoTと呼び替えられたわけですが、企業側も今のところ何に使ったらいいのかよくわからないというのが正直なところみたいです。

 買い物をしているときに、冷蔵庫に何が入っているのかがわかればたしかに便利でしょうし、飛行機のエンジンからリアルタイムの情報が受信できれば、安全性は高まるでしょう。でもそれが産業革命のような大転換をもたらすのかというと、IoTだけでは恐らくそこまでのインパクトは持ち得ないでしょう。IoTと人工知能がうまく組み合わされれば、大きな可能性が開けてくるかもしれませんが。いずれにしても、次の産業革命の中心は人工知能だと思います。IoTについては、すごく期待している企業と、持て余している企業に分かれている印象です。

飯田 そうですね。ただ、検査や点検を人力でしなくても、稼働させたままデータが取れるという意味では、検査をしている人たちの仕事を奪う可能性はありますよね。いわゆる「技術的失業」の問題です。エリク・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィーの著書のタイトルになぞらえれば「機械との競争」ですね。

井上 はい。IoTに限らず避けられない問題ですね。

飯田 産業革命期のイギリスで起こったラッダイト運動は、最初期の労働運動でした。機械によって仕事を奪われ、稼ぐことができなくなった労働者が、機械や生産設備を壊して回った。それでも馬車はバスに代わり、人力車はタクシーに取って代わられてしまいました。人間の肉体が機械に代替されて、肉体労働者が危機に瀕するというのがいわば伝統的な技術的失業だったわけです。

その一方で、20世紀末のコンピューター普及では、肉体労働から「シンボル操作型労働」の消失へと技術的失業の中身が変容しました。会計ソフトの発達で経理課の社員が減ったのは、その典型例です。

 つまり、ブルーカラーだけではなくホワイトカラーにまで技術的失業の波が届いてしまった。しかし今後の技術的失業は、ホワイトカラーの上層にまで及びつつあるということですね。

井上 アメリカでも事務労働がどんどん失われています。日本ではまだそこまで破壊的ではありませんが、これからアメリカの後を追うことになるのでしょうか。会計士や弁護士助手といった専門職も減っていく。銀行の窓口業務のみならず、与信業務までもAIに置き換わっていくという予測まであります。

飯田 機械による肉体労働の代替で、肉体労働に従事していた人たちが別の仕事に就くことでそれまでなかった付加価値が生み出され、むしろ経済全体は発展するといわれてきました。高度成長期はもちろん、80年代の工場無人化あたりまでは実際にそうなってきたのです。その一方で、コンピューター普及はどの程度まで付加価値を生んだのか、ちょっとはっきりしない気はします。

井上 プログラマー、ウェブデザイナー、IT系のサービス企画やマネジメントの仕事は増えましたが、ただ情報技術というものの性質上、新たに増えた仕事と失われた仕事を比べれば、基本的には減る仕事のほうが多くなります。みんながネットで飛行機やホテルの予約をするようになったら、リアルの旅行代理店の雇用者数が減る。ネットのほうが安上がりだからみんなが使うわけで、ネット業者がリアルよりも人件費を払っていたら安くはできませんから。これが人工知能の導入まで進めば、さらに雇用を減らす可能性が高いとは思います。

「機械との競争」は不可避である

飯田 一方で、従来型の技術革新ではまったく違う分野の新たな仕事が生み出されてきました。日本の産業構造でいえば、第二次産業である工場労働者の需要減少を吸収したのは、準ホワイトカラーの仕事。典型的には営業マンでした。

 営業マンの仕事は、以前にも増してあらゆるビジネスのキーになってきています。顧客の漠然とした要望に対して解決できるパッケージを提案すること、いわばコンサルティング機能としての営業がビジネスの主役になりつつある。コンピューターが発達しても営業マンの数が増えている理由はここにあります。

 コピペで広まったジョークに「NASAは100億ドルの開発費をかけて無重力でも書けるボールペンを開発した。一方ロシアは鉛筆を使った」というのがあります。本当はNASAだって鉛筆を使っていたわけですが(笑)、ボールペンの性能比較や、最安値を探すことはコンピューターの得意分野です。でも鉛筆を真のソリューションとして提案するのは人間の仕事だった。あなたに必要なのはボールペンなのか、鉛筆なのか、それとも紙を変えることなのか。その人の仕事ぶり全般を見ての提案は、人間でないとできなかったわけですが、これもまたAIの発達で次のステージに移行しつつあるのでしょうか?

井上 予兆といえるものは出てきていますよね。アマゾンなどのレコメンデーション機能は「協調フィルタリング」の仕組みを使っています。購買履歴が似た人を見つけて推論し、「この商品を買った人はこちらも買っています」と提案する。まだそこまで賢いシステムではありませんが、提案型の営業までもが代替される未来の始まりとはいえるかも知れません。

 そもそも、外交員が毎週のように訪ねてくる生命保険の営業スタイルがネット保険に代替されつつあるのは、みんなが「必要なときにだけ提案してほしい」と思っていたことの裏返しでもあって、それはコンピューターのほうがうまくやりやすい分野ですよね。とはいえBtoBではまだ当面、生身のセールスマンが必要かなとは思いますが。

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