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「LGBTはちょっと…」と言う前に - 後閑徹 (人材・組織開発コンサルタント)

先日、パナソニックが社内ルールを変更し、同性カップルを結婚相当の関係と認める方針を固めたとの報道があった。他にも同性パートナーを福利厚生の対象にする等LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの総称・性的少数者)を差別しないよう社内ルールの手直しがされるとのこと。同様の対応は日本IBM、レナウン等他の企業も検討しているという。

この報道に接し、2014年に女性活躍推進に関わる方々(ほぼ女性)30名強を対象としたセミナーで登壇した際の参加者の反応を思い起こした。私にとっては苦い思い出だ。

■返ってきた反応は…

登壇したセミナーで、私は以下のような問いかけをした。

「信頼するメンターがあなたのことを考えて以下のアドバイスをくれました。あなたは如何答えますか? 『あなたがレズビアンであることは決して恥ずべきこととは思わない。しかし、今回のパーティーでは異性のパートナーを連れていくべきではないかな?君の将来のキャリアのために。』」

これはスタンフォード経営大学院准教授(当時) デブラ・E・メイヤーソン著「静かなる改革者 しなやかにしたたかに組織を変える人々」に出てくるエピソードをアレンジした質問だ。

この質問を通じて私は参加者に以下の3点につき、働く女性のインタビュー事例を挙げながら解説した。
1.組織内の少数派が多数派による同調圧力を受ける
2.多数派に属する者はそうするのが当然のことと考えている、あるいは好意から同調を勧める
3.この構造はそのまま男性優位の組織文化がまかり通る我が国の企業組織における男性・女性の関係でも散見される

組織内で自らの価値・尊厳を守ろうとする少数派は、多数派にその思い込みを気づかせ、様々なリスクを負いながら抵抗する必要がある。どのようなリスクがあり、誰に、どのようにして、どの程度の抵抗をするか。そして、これらを考えることで背景にある組織文化の問題を理解してもらうことが狙いだった。

しかし、参加者の反応は私には驚くべきものだった。「ここはアメリカではない(だから相応しくない)」「レズビアンという言葉にドキッとして、もうそれ以上考えることが出来なかった」etc.内容を考える以前の問題だ。感情的・感覚的排除。思考停止。挙手をしてもらうと、この問いかけに嫌悪感を示した参加者は全体の3分の2強もいた。

女性は感情的だから、というつもりはない。なぜなら、同様のことは性別に関わらず、私達一人ひとりが無意識のうちにしている可能性が高いのだから。「なんで老人がでしゃばるんだ」「女性の活躍なんて…」と、深く考えもせずに表明される嫌悪感や思い込みは、残念ながら社会のそこここに見られる現象だ。

問いかけが上手く機能しなかったのは、参加者の属性やレベルを見誤った私の責任である。しかし、同時に、ダイバーシティ(多様性)経営の難しさの本質はまさにここに現れた感情的・感覚的排除、思考停止にある。

■最低限からダイバーシティ経営へ

現在、東芝、資生堂、富士通等のように行動基準・行動規範で性的志向による差別を禁止している企業は増加していている。それはCSR(企業の社会的責任)の最低限として、コンプライアンス(法令等遵守)のひとつの現れでもある。個人の尊厳、人権、あるいはそれに付随する重要な個人的利益を企業が守ることに他ならないからだ。多様性(ダイバーシティ)の受容は実現していくべき最低限である。

もうひとつ、ダイバーシティの積極的な側面にも目を向けてみよう。ダイバーシティ経営とは、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出し、価値創造につなげる経営」(経済産業省)を意味する。企業のメリットは良質な労働力の発掘・確保と、これまでとは異質な意見・人間との交流による新たな価値創造にある。

■ダイバーシティ経営に必要なマインド

そして、新たな価値創造の際に必要なことは、異質な意見や人間との交流による違和感から目を背けることではない。ましてや嫌悪感による感情的・感覚的排除でもない。必要なのは違和感や葛藤といった対立の炎を新たなプロセス・プロダクト・サービスを生み出すエネルギーに変換する作業だ。違和感や葛藤をもたらした対象をまずはそのまま認識し受け容れ、興味をもって探究する姿勢である。

「ダイバーシティ経営100選 ベストプラクティス集」(経済産業省)を読むと、中小企業から大企業まで、実に様々な努力をされていることに感心するばかりだ。LGBT・女性活躍推進に代表されるダイバーシティ経営は着実に前に進もうとしている。

思考停止には、見知らぬものをまじまじと見つめるという理性的でポジティブな側面がある。それは同時に自己の内面を照らし、組織や個々人のもつ常識・価値・信念を揺さぶる。これが価値創造のひとつの道筋だ。

ダイバーシティ経営を進める現在は、もう一度、個々人のマインドの在り方見つめる時期だ。多様性を受容するのみでなく、もう一歩前へ進むために、私達一人ひとりが見知らぬものをまじまじと見つめる理性を再確認する必要がある。個人の、そして企業・組織の、ひいては社会の発展のために。

【参考記事】
■インタビュー事例紹介 待機/職場復帰の不安(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=108 
■「男性と違う何かをする必要はない」(NBA女性コーチ)は正しい (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/47154584-20151209.html
■女性活躍の本質 ~「男性と違う何かをする必要はない」を書いて改めて思うこと~(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=101
■マタハラ降格判決から学ぶ組織人間の危険性(後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46987171-20151123.html
■女性活躍推進のためにはOSの更新が必要です (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46479264-20151005.html

Redesign Academia 代表 人材・組織開発コンサルタント 後閑徹

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