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日本独自のオープンイノベーションの方法を考える

(続)米国の模倣でないオープンイノベーションを!

前回の要旨は次のようなものだ。

日本の製造業のハードウェアの力と、スタートアップのソフトウェアの力を合わせてビッグアイデアにチャレンジすることができれば「海外の商品より売れる日本の商品をつくる」ことができるはずだ。しかし、「ものづくり」という成功体験から離れることができない日本の製造業は、かなり保守的になっていて、そこに米国式のオープンイノベーションを持ち込んでも、なかなか受け入れられないように思う。米国の模倣でない、日本独自のオープンイノベーションの方法を考える必要がある。

米国では大企業がスタートアップを支援するコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)と呼ばれる取り組みが増えているという。それは単なる投資事業ではなく、大企業が保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットを提供し、新規事業の創出に成功したスタートアップとのパートナーシップによって自身のイノベーションをはかろうとするものだ。

製造業のイノベーション戦略を技術とドメインという軸で表わしたマトリックスで見ると、保有する知的財産やバリューチェーンなどのアセットをスタートアップに提供して新規事業を創出しようとする米国のCVCの取り組みは、②の集中多角型の戦略と言えるだろう。
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イノベーションのマトリックス

しかし、製造業にとってのアセットである「重要な技術」をスタートアップに提供することは難しいだろう。死蔵している技術・知的財産や、持て余し気味のバリューチェインを(再)利用した新規ビジネスのアイデアを社外に求めるだけではイノベーションを起こせるはずはない。限定的な技術の開示では、社内の人に比べてスタートアップが大きなハンデを負うことになり、そこに画期的なアイデアの創出を期待するのは無理な話だ。新しい事業や製品のアイデアを生み出す難しさは、スタートアップとて同じことだ。

一般消費者向けの製品の競争のパラダイムは、生産の力からソフトウェアの力にシフトした。しかし、これまでハードウェアの価値の向上に集中してきた製造業にとって、 Webサービスやスマートフォンのアプリケーションなどのソフトウェアは非常に不得手な分野だ。

イノベーションのマトリックスの①は、すでに獲得している経営資源やバリューネットワークの多くを活用してプロダクトのイノベーションをはかる水平型の多角化だ。冒頭の「日本の製造業のハードウェアの力と、スタートアップのソフトウェアの力を合わせてビッグアイデアにチャレンジする」とは、多くのスタートアップが得意とするソフトウェアを「新しい技術」として取り込み、プロダクトのイノベーションを目指そうというものだ。

技術(シーズ)からいきなりアイデアを捻り出そうとするのではなく、 まず、その企業が提供してきた製品を使う人々の体験に着目し、その人々が抱えている潜在的なニーズ(無意識のうちに諦めている問題)を見つけだすところから始める。これは米国のIDEOなどデザイン会社がコンサルティングに取り入れているデザイン思考と同様のアプローチだ。しかし、コンサルタントとクライアント(企業)という構図でも、企業がスタートアップを支援するというのでもなく、企業とスタートアップが共同で取り組むことが必要だと思う。

そのドメインに長く関わってきている企業の人は多くの貴重な経験と情報を持っているが、先入観やハードウェアからの発想の限界から、彼らが気づいていない潜在的なニーズが必ずある。それを発見し、それが満たされた時のユーザの新しい体験をデザインし、ハードウェア(製品)とソフトウェア(Webサービスやスマートフォンのアプリケーション)で分担して実現する。スタートアップはソフトウェアに限らず「新しいユーザ体験」をデザインすることを得意としている(はずだ)。

iPodやiPhoneの例を見ても、ビッグアイデアのプロダクト・マーケット・フィットには少なくとも3年はかかると考えたほうがいいだろう。その時間で、人々の思いを積み上げ、製品や連携するサービスに改良を加えて「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返す必要がある。そして徐々に、その価値が人々に理解されていく。

ハードウェア・スタートアップのジレンマ

これは製造業にとって馴染みのない取り組みだ。また、スタートアップにとってもハードウェアで「構築 - 計測 - 学習」のサイクルを繰り返すことは体力的に難しい。これも、企業とスタートアップが共同で取り組むことによって可能になるはずだ。

オープンイノベーションの目的は、単に新規事業を生み出すことではなく、企業活動のプロセスやマインドを変革することだろう。それには新規事業創出の組織やプロジェクトなどをつくるだけでお茶を濁すのではなく、経営のトップの強いコミットメントと覚悟によって根幹の事業のミッションとして推進しなければ成果は期待できない。

もちろん、IDEOのように大企業の経営トップに直接アプローチすることは、スタートアップにとって容易なことではない。スタートアップは、あらかじめ見込み先の企業のドメインを研究し、潜在ニーズについてのいくつかの仮説を立て、たたき台として企業に訴求できる新しいユーザ体験を描いておく。その上で、企業がスタートアップに出会う場が必要になる。すでに、スタートアップのショーケースやミートアップと呼ばれるイベントが開かれているが、企業側から見たとき接点を見つけることが難しい。スタートアップ側から大きく近寄ることが必要だと思う。


米国の投資顧問会社で働く広瀬隆雄氏は自身のブログで、WSJの記事を引用して、シリコンバレー(のスタートアップ)が不況の入り口に立っていると指摘している。

現在は、ごく一握りの有名なスタートアップ企業を除き、ベンチャーの資金が受けにくくなっています。

その一因はテックIPOの悲惨なパフォーマンスにあります。2014年以降にIPOされたテクノロジー企業は全部で48社ありますが、そのうち35社がIPO価格を下回っています。

その関係で、とうとうIPOウインドウが閉じてしまい、シリコンバレーは長い冬を耐えしのぐ、冬籠りモードに入りました。

シリコンバレーは「タイタニックのように」沈みかかっている WSJ

日本でもスタートアップを取り巻く環境が大きく変わるかもしれない。これまでのスタートアップの活動を否定するつもりはないが、このような形で大企業に変革を起こし、ビッグアイデアにチャレンジすることも面白いのではないだろうか。

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