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軽度者を減らせ - 楢原多計志

社会保障審議会・介護保険部会が約2年ぶりに開かれ、介護保険制度次期改正に向けて論議を始めた。
厚生労働省は主な検討課題として「地域包括ケアシステムの推進」と「介護保険制度の持続可能性の確保」を掲げた。
最大の焦点は軽度者への介護サービスをどう抑えるか。介護現場から「軽度者切り捨て」との批判の声があるが、厚労省「制度の持続には不可欠なものばかり」(老健局)と強気だ。制度の維持には保険財政の安定が欠かせないが、国民の理解と制度への信頼の方がより大切ではないか。

◆主な検討課題

  少し長いが、厚労省が部会に示した主な検討事項の概要は以下の通り。

【地域包括ケアシステムの推進】
1.地域の実情に応じたサービスの推進(保険者機能の強化等)
 (1)保険者等による地域分析と対応
 (2)ケアマネジメントのあり方
 (3)サービス提供への関与の在り方

2.医療と介護の連携
 (1)慢性期の医療と介護ニーズに対応したサービスのあり方
 (2)在宅医療・介護の連携等の推進

3.地域支援事業・介護予防の推進
 (1)地域支援事業の推進
 (2)介護予防の推進
 (3)認知症施策の推進

4.サービス内容の見直しや人材の確保
 (4)ニーズに応じたサービス内容の見直し
 (5)介護人材の確保(生産性向上・業務効率化等)

【介護保険制度の持続可能性の確保】
1.給付のあり方
 (1)軽度者への支援のあり方
 (2)福祉用具・住宅改修
2.負担のあり方
 (1)利用者負担
 (2)被用者負担(総報酬割・調整交付金等)

【その他の課題】
 (1)保険者の業務簡素化(要介護認定等)
 (2)被保険者範囲 等

◆所得再分配

今回は大枠が示されただけで、具体的な検討課題について厚労省は「次回以降に示したい」とした。だが、大枠を一読しただけで厚労省の狙いが見え見えだ。個人的には、「保険者機能の強化」「軽度者への支援のあり方」「利用者負担」「総報酬制」の4項目の行方を注目している。

「保険者機能の強化」は、保険者である市町村(広域連合)の機能を高める。具体的には、地域差の目立つ「要介護認定」などのデータを分析・検証したり、市町村の介護行政にケアマネジャーを絡めたりして、地域のバラつきを平準化することによって給付全体の伸びを抑える。市町村国保と同じ手法だ。 

「軽度者への支援のあり方」は、要介護1、2を対象とし、給付の伸びが著しい介護予防や生活援助サービス(掃除、洗濯、調理など)を保険給付から外し、給付を身体介護サービス主体に絞り込む。“財政再建の司令塔”と自負する経済財政諮問会議が16年末までに結論を出すよう求めており、厚労省は「避けて通れない課題」と強調する。一方、部会には賛否両論があり、公益委員の中にも「軽度者の排除になる」「重度化につながる」などと反対意見があり、意見調整は簡単ではない。

「利用者負担」は、前回改正に続き、所得や資産に応じた自己負担割合の引き上げが論点。「2割負担」の被保険者を増やし、保険給付額の伸びを抑える。公的年金の給付水準が下がる中で資産額を正確に把握できるのか、マイナンバー制度との関係についても突っ込んだ議論が必要だ。

「総報酬制」の導入には、猛反対している労働団体や経済団体の説得が条件となる。実質賃金が目減りする中で現役世代の負担増につながるだけに、特に労働団体委員の説得は難航必至。

4項目は、いずれも以前から検討課題として浮上しており、目新しいものはない。しかし、軽度者への給付抑制は前回改正で一部の介護サービスが保険給付から市町村事業に移行されたばかり。窓口業務の混乱が収まっていない市町村もある。また財政当局には「介護給付は要介護3以上に絞れ」との強硬意見もある。

厚労省は、自ら介護行政の現状や軽度者の生活実態をできる限り正確に把握し、実態に合致した具体案を提示し、審議を求めるべきだ。軽度者への介護サービスを率先して削るのは「介護離職ゼロ」の政府方針と矛盾しないか。

労働団体や経済団体は、社会保障制度が所得再分配や税制によって成り立っていることを再認識し、超高齢社会の構成員の一員として相応の役割を果たすべきだ。


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楢原多計志(関東学院大学 非常勤講師)

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