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「小泉独占インタビュー」はなぜ実現できたのか〜ノンフィクションライター・常井健一氏に聞く

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昨年12月に発売された『文藝春秋』1月号のトップを飾り話題を呼んだ、「小泉純一郎独白録」。小泉氏が首相退任後初めて応じたロングインタビューだ。

小泉氏馴染みの小料理店で行われた4時間半にも及ぶ取材では、同氏が精力的に活動している「原発ゼロ」を始め、安倍政権への"注文"、次男である衆議院議員・進次郎氏への思いなどをざっくばらんに語っている。

このインタビューを行ったのは、36歳の若手ノンフィクションライター・常井健一氏。便箋7枚に小泉氏への疑問を綴り郵送したところ、突然携帯電話に本人からの電話があり、すぐに独占取材が決定したという。

編集部では、インタビューの全貌と取材秘話をまとめた『小泉純一郎独白』(文藝春秋)を2月に出版した常井氏に話を聞いた。【大谷広太、永田正行(編集部)】

小泉純一郎が取材に応じた「理由」

ーそれまで多くの依頼を断ってきたという小泉さんが、常井さんの求めに応じたのはなぜでしょうか。

常井:初めてお電話をもらった時に、「あなたが書いた進次郎の本、買って読ませてもらったよ。あれだけ現場を回って取材しているのは強いよ」と言われました。小泉さんとは面識はなかったのですが、そういったこれまでの積み重ねも、取材を受けていただくことができた理由の一つだと思います。

取材を受ける小泉元総理(常井氏撮影)
インタビューというのは、取材を申し込む側と受ける側がいますよね。受ける側としては何かメリットがあるから受けるわけですし、自然と主導権を握ることにもなります。そう考えると、小泉さんなりの目論見もあったと思うんです。私は大きく3つあったのではないかと思っています。

1つ目は、保守論壇で発表したかった。"原発ゼロ"を訴えるのに、リベラルな新聞社や出版社の媒体に発表したのでは、もともと支持しているような人たち以外に広がりにくいですよね。そこで『文藝春秋』という雑誌に意見が載ることに意味が出てくるのです。小泉さんが電話で、まず「インタビュー、受けるよ」と言った後、掲載媒体について確認された覚えがあります。

2つ目は、正月号に載せたかった。月刊誌や週刊誌は、正月号の第一特集が一番読まれるんです。帰省の移動中にでも久々に…と買ってくれる方もいますしね。取材時、「何月号に載せるの?」と聞かれ、「11月発売号です」と答えると、「もっと練ったほうが良いよ」と言うんですね。結果として12月売りの正月号に載せることになって注目も集まり、朝日、毎日、読売の論壇面でも取り上げられることになりました。

3つ目は、フリーランス記者の取材だったから。安倍政権の場合は、フジサンケイグループなど比較的思想の近いメディアに露出する傾向がありますが、小泉さんという人は、昔から雑誌やスポーツ紙にも自分の意見が載ることを重んじる人でした。支持の裾野がより広がるからです。総理になる前は雑誌に連載コラムを持っていたし、総裁選の真っただ中に「週刊文春」の阿川対談に登場している。小泉政権時代には、敏腕秘書だった飯島勲さんが雑誌記者やフリーランスにも、きめ細かく対応をしていたくらいなのです。ですから今回も、"若い無名のライターにオープンに書かせる"というのは、ある種のイメージ戦略でもあったと思うんですね。

今回のインタビューでは、私なりにロールモデルを持って臨みました。1982年の『文藝春秋』2月号で、田原総一朗さんがロッキード事件後の田中角栄に初の単独インタビューを行いました。田原さんがテレビ局から独立されて間もないころのお仕事で、出世作になりました。ロングインタビューという手法で原稿を『文藝春秋』に載せるのであれば、田原さんのこの仕事に匹敵するようなものを、と思ってそのコピーをカバンに入れて持ち歩いていました。田原さんの角栄インタビューは28ページでした。私の小泉インタビューも28ページなんです(笑)。

インタビューは受け手が主導権を握るものであっても、政治家の言いなりになるわけではありません。小泉さんに宛てた依頼のお手紙には「"原発ゼロ"の主張についてお聞きしたい」と書いたのですが、その話は1時間ほどで切り上げ、残りの3時間半は脱線した質問ばかりでした。ご自身の政治遍歴、安倍さんに対する考え方、息子たちや今の暮らしぶりなど、これまでベールに包まれていて読者の関心が高そうな話も聞き出せたのではないかなと思っています。

原稿については、実は本人には見せていません。「お見せしましょうか」などと事前に言ってしまうと、「どうせ削除されて載せられないだろうから…」と、肝心の質問が出来なくなりますから。小泉さんも“小泉純一郎にオフレコ無し”と言われるくらいの方ですので、原稿のチェックについては何も言いませんでした。なので、インタビューの席で言ったことを、遠慮なくオブラートに包まず出しました。雑誌が発売されて、お渡ししても「お、出たか!後で読むよ!!」で終わり(笑)。

昨日、本が刷り上がったので、小泉さんにお渡ししに行こうと思っています。

若手ノンフィクションライターが育たない現状

ー雑誌業界全体が厳しくなる中、ノンフィクションが生まれにくくなっているとも言われています。

常井:まず私なりに定義しておきますと、「ノンフィクション」とは、最低1ヶ月、長い場合は数年かけて取材した、署名入りで1万字以上の読みもので、「ノンフィクションライター」とは、フリーランスで、その取材成果を書籍にすることを最終目標として書く人ということになります。私のように政治家を描く人間ですと、ノンフィクションを語ることは、フリーランス論と出版ジャーナリズム論が入り混じった話になると思います。

私自身は「ノンフィクションライター」になってまだ3年しか経っていません。弟子としてどなたかの教えを受けたこともなく、賞も取っていません。しかも、名乗りたくて名乗り始めたわけではないんですよ(笑)。サラリーマンの雑誌記者を辞め、フリーランスとして政界を取材するようになった頃、信頼する編集者に「まず肩書が必要だよ」と言われました。ただ、「ジャーナリスト」という肩書には抵抗感があったんです。「ジャーナリスト」という言葉には"立派な人"というイメージがあるような気がしていて、それは自分で名乗るものじゃないよなあと(笑)。「それなら、ノンフィクションライターで良いんじゃないですか」と言われたことがきっかけです。

最初に、人気・知名度の割にメディア露出が極めて少ない同世代の政治家・小泉進次郎に興味を持ち、全国各地で密着取材を始めるようになります。幸い、出版社からのサポートも得ることができ、進次郎についての記事を雑誌に書きながら、それらをまとめて2冊の本(『小泉進次郎の闘う言葉 (文春新書 )』『誰も書かなかった自民党: 総理の登竜門「青年局」の研究(新潮新書)』)として世に出すことも出来ました。

ー書き手不足も今後深刻化していきそうですね。

常井:ノンフィクションライターというのは、決して稼げる仕事ではありません。そもそも稼ぎたいなら会社を辞めませんし、他の職業を選んでいます(笑)。雑誌が次々と消えていく中、ネット媒体で仕事をする人も増えてはいますが、私の場合はまだ躊躇しています。紙媒体ほどの原稿料が出ないことも多いですし、記事を出す前に編集者の手ほどきを受けたり、プロの校閲者にチェックしてもらえたりする機会もほとんどありません。あとは、裁判になった時の対応についても既存の出版社にノウハウがあります。

しかし、一方で、最近の出版社には、ノンフィクションの分野の若い書き手を育てようとする編集者が皆無に近いんです。大手出版社でさえ一人、二人いるかいないか、というような状況です。いたとしても、「一か月先までアポが取れません」という大物編集者。あるいは、若い人ほど大物のほうしか向いていない(笑)。最初は、あまりに孤立無援で、「ノンフィクションライター」と名付けた友人に騙されたと思いました。

そんな中、マンガの編集者と話すのが、非常に勉強になることに気づきました。どう新人を発掘するか、育てるかということを日々考えていて、そういう意欲の高い若い編集者と仕事できるマンガ家の卵たちが羨ましくなります。ノンフィクションの世界でなんとか食えるようになってきても、同業者で批評し合う文化も出版界には存在しませんし、若手の同業者もほとんどいませんから、若手ならではの悩みを共有することもできないんですよね。

そこで参考にしているのが、70〜80年代、ノンフィクションが全盛だった時代の仕事です。立花隆さん、沢木耕太郎さん、柳田邦夫さん、保坂正康さん、佐野眞一さん、猪瀬直樹さん……と言った大物が、今の私と同じ30代半ばにどのような仕事をしていたのか、彼らの本を読みながら、「これは敵わない!」とか勝手にライバル視して学んでいます。とりわけ私にとってのロールモデルは、児玉隆也さんという方です。1974年10月に発売された『文藝春秋』11月号の田中角栄特集で、立花隆さんによる著名な「田中角栄研究-その金脈と人脈」と並んで掲載された「淋しき越山会の女王」という記事を執筆した方です。翌年、残念ながら38歳の若さで亡くなってしまうのですが、光文社の契約の記者から社員になり、30代で飛び出して、亡くなるまでの3年間、社員時代は思うように書けなかったことをフリーとしてとことん書いた方です。

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