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iPhoneのロック解除問題は終わらない

 スマートフォンのセキュリティー機能解除をめぐるアップルと米政府の戦いでは、政府側が勝利するだろう。

 アップルが、カリフォルニア州サンバーナーディーノで昨年発生した銃乱射事件のサイード・ファルーク容疑者が使用したスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」に関して、その暗号化されたデータにアクセスする手段を提供できるならば、裁判所がそれを強制することは間違いない。犯罪捜査に役立つ情報を提供できる立場にある企業なら、どんな企業でも強制されるだろうと予想できる。さらに言えば、ファルーク容疑者のアイフォーン上のデータは「安全」ではない。アップルが自社製端末の暗号化の目的を台無しにできるのなら、アップル以外にも可能なはずだ。

 アップルは法的に強制されるまで当局への協力を拒否することで、消費者に対する評判は何とか守れる。法制度の果たすべき役割は、アップルを迅速に命令に従わせることだ。また、「アップルが命令に従えば全てのアイフォーンユーザーを危険にさらす」というたわ言を信じてはいけない。

 もちろん、今後の大きな問題は、アップル(もしくはグーグルでもフェイスブックでもワッツアップでもどこでも)、メーカー自身でさえ解読できない端末やアプリを設計することが完全に可能だということだ。そして、その「今後」というのが既に到来していることも明らかだ。ファルーク容疑者が使用していたアイフォーン5cという機種は鍵となる安全装置を潜り抜けるためのアップル製ソフトに弱いと言われている。しかし、アイフォーンのそれ以降の機種は、米連邦捜査局(FBI)がアップルに(機器のデータ解読に必要な)抜け穴の開発を支援するよう求めているようなセキュリティー上の弱点が少ないとされている。

 しかし、法執行機関が利用できるいわゆる「裏口(バックドア)」を設けるよう米議会が要請することでは、この問題を解決できる公算が小さいのも事実だ。従って、現在のアップルをめぐる争いで政府が勝利しても、ティム・クック最高経営責任者(CEO)が公言するような広い影響はないかもしれない。

 こうした大げさな発言にもかかわらず、(政府が勝利するという)前例ができることは退屈とさえ言える。ただ、アップルが消費者のプライバシー擁護をひときわ声高に訴えることは、自社に有利に働く。アップルの争いはブランド戦略へと化している。そして同社が最終的に命令に従うことを強制されるとき、同社はいずれにしても勝利宣言し、現在のアイフォーン機種はアップルが暗号解読を強要されても、侵入できないように設計されていると強調できる。

 FBIやその他の米警察当局にとっては、結果は理想とは程遠いものとなろう。こうした機関は、最新機種の暗号化された情報にアクセスできないことで、ますます苛立ちを深めることだろう。法執行機関も国民も、そうした電子情報は10年前には存在せず、法執行機関はそれなしで生き残れたという(一部の主張する)議論にも慰めを見出すことはできないはずだ。情報が存在するのであれば当然のことだが、政府は国家の安全保障や法の執行という目的のために、情報を引き出すことを望む。

 ただ、人生は矛盾だらけだ。米テクノロジー企業が最大限に協力的になっても、コンプライアンスのために、市場は米国の権限の範囲を超えたアプリや端末を望むだろう。「バックドア」を作ることを強制する法律の制定に議会が抵抗する唯一の理由は、ソフトウエアに関する米テクノロジー企業の世界での優位性が損なわれるとの懸念だ。犯罪者たちが外国製の、そして外国で保持されるプラットフォームの端末に乗り換えるのであれば、米国政府に対する恩恵は短期的なものにとどまる。さらに、犯罪者が人気のある米国製の端末やメッセージアプリを使った場合、それをいかに追跡し、中断するかについて米機関が既に蓄積している相当の専門的能力の価値が下がることになろう。

 ただ、犯罪者側も代償に直面する。法執行機関は特定のメッセージの解読が難しい、もしくは不可能だと知るかもしれないが、デジタル端末を利用する犯罪者やテロリストも、法執行機関が引き出せるような情報を多く生み出すことになる。コンピューター上で気付かずに自身の居場所を明かしてしまい、監視用武装ドローン(小型無人機)に追跡された、今は亡きテロリストたちに聞いてみれば分かるだろう。最近の2つの例を見ても、通称「Sabu」(サブ)として知られるハッカーのヘクター・ザビエル・モンセガーや、麻薬サイト運営の中心人物「恐ろしい海賊ロバーツ」のような黒幕でも、オンライン上のアイデンティティーを隠すことに専門家としての注力をしているにもかかわらず、FBIが彼らを捕まえるのに役立つ手掛かりを消すことができなかった。

 しかし、最適というのは完璧と同じではなく、最適な解決策の一つに現在バックドアが含まれていないことは明らかなようだ。法執行機関のための「裏口」を犯罪者やハッカーたちが常に利用するわけではないにしても、消費者がそうしたものに賛成しないのは確実だ。アップルの例から学べるのは、主に、端末メーカーへの教訓だ。企業がユーザーデータへのアクセス手段を自社に残しておく限り、法の要請を受けることは間違いない。

 そして、こうした教訓さえ時代錯誤だ。つまり、アップルのアイフォーン5は、米国家安全保障局(NSA)の元契約職員エドワード・スノーデン氏が米当局の情報収集活動を暴露し、NSAの情報収集活動に焦点が当たる数カ月前の2012年9月に発売されていた。この告発事件を受けて、アップルとグーグルやフェイスブック、それ以外の企業が米国の安全保障の取り組みから距離を置く競争が始まる結果となった。スノーデン氏による告発前の最適バランスが何だったかはともかく、企業が世界の消費者との約束を守る必要性のために、今では合法的な法執行機関に必要とされるものを提供する余地が減っている。われわれは、その結果を受け入れることを学ぶべきだ。

(執筆者はWSJ編集委員で「ビジネスワールド」欄を担当するコラムニストのホルマン・ジェンキンス氏)

By HOLMAN W. JENKINS, JR.

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