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日本の大学ランキングが急落した理由とは?その3(ほんとうの理由)

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例によって、2008 -2012年の論文数が6000以上ある大学だけに限ると、図表42にお示しするように、まずまずの直線相関関係が得られました。また、グループCの諸国では、推定値と実際値とはかなりばらついていましたが、論文数6000以上の大学に限ると、グループAとBの大学の集団のばらつきの範囲に収まりました。

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このデータから、規模の比較的大きな大学に限れば、InCites™によって、タイムズ社2015年Citationsを、ある程度の確度をもって評価可能であると判断しました。

<日本の大学のタイムズ社Citations急落の原因は何か?>

最後に、今回の分析の最終目的である、2014年から2015年のタイムズ社Citationsで、日本の大学が急落した原因についての分析をお示しします。

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図表43は、各データ処理工程におけるCNCIの累積変化を国・地域ごとの平均値を示したグラフです。

累積分布関数の性格上、両端の大学は、変化が少ないので、中ほどにあるCitationsが25~75の大学についてだけお示ししてあります。2008-2012CNCI-country adj(2014タイムズ社Citationsとほぼ同等と考えられる)から出発し、InCites™で求めた2014年Citations推定値、そこから地域調整を解除した値、大学数を変更した値、経年被引用インパクトの変化を加えた値、論文種を拡大した値、そして、再度半地域調整を適用した値、そして、地域調整係数の補正を加えた値をプロットし、最後に実際の2015年タイムズ社Citationsの値を示しました。

全体としての傾向は、上位(50より上)にある国では、地域調整の解除で上がり、各国によって、各工程での変化に多少の違いが見られ、半地域調整の適用でやや低下しています。下位の国(50より下)では、地域調整の解除で下がり、半地域調整の適用でやや上昇しています。つまり、上位にある国は、さらに上位になり、下位にある国はさらに下位になって、その差が広がる傾向がありますね。

赤で示した日本は、地域調整の解除でガクッと落ちて、その後の工程でさらにわずかに低下し、半地域調整の適用でやや戻っています。

国によっては、地域調整以外の影響が大きい国もあります。例えばイタリアは、地域調整よりも経年的な被引用インパクトの上昇が大きくなっています。米国の大学(ここに含まれる大学は上位大学ではありません)では経年の被引用インパクトが低下していますね。その結果、最終的なCitationsの米国の順位がヨーロッパ諸国に比べて低下しています。中国は、論文種拡大によるマイナス効果が大きく出ています。韓国では、Incites™では推定できない地域調整係数の上昇がみられます。タイムズ社の本拠があるイングランドの大学は、順調にランキングを上げていますね。

日本の場合は、地域調整の解除以外のファクターはほとんど影響しておらず、日本の大学のタイムズ社Citations急落の原因は地域調整の減弱化であると断定していいでしょう。

図表44は、国・地域別に、半地域調整を適用した場合の推定値、およびそれにさらに補正を加えた推定値と、実際のタイムズ社のCitationsの値との相関を見たものですが、当然のことですが、補正を加えた場合の方が、相関が良くなっています。

画像を見る図表43と同じことを日本の各大学別に示したのが図表45です。一番上にある大学が東京大学ですが、地域調整の解除でガクッと落ちて、あと、若干の低下がありますが、半地域調整の適用である程度回復しています。東大、京大は、推定値が実際のCitationsの値に近い値となっています。しかし、東北大学ではずいぶんとずれています。このずれについては、InCites™のデータでは説明できず、現時点ではデータベースが違うから、ということでしか説明できません。

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今回の検討の結論を図表46にまとめました。

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<おまけ、その1>

日本にプラスの地域調整係数が掛けられていた理由は、そもそも、日本全体の分野調整被引用インパクト(CNCI)が低かったからです。その優遇措置が今回半分に減らされたことにより日本のCitationsが急降下し、大学ランキングの低下の主要因となりました。

もしも、今後、優遇措置が完全に外されることになると、日本の大学のCitationsのランキングはどのようになるでしょうか?

           2014年  2015年  将来

  • 東大   約175位→約320位→約400位
  • 京大   約300位→約420位→約520位
  • 阪大  約360位→約500位→約570位

 となり、さらに惨憺たる結果が待ち受けています。

なお、タイムズ社のランキングでは、被引用数に関連した指標としてCategory Normalized Citation Impact(分野調整被引用インパクト)が用いられているのですが、実は日本の大学は「分野調整」を適用されると、低い被引用インパクトがいっそう低くなるのです。このことについては、次回にお話しすることにいたします。

 

<おまけ、その2>

つい最近、タイムズ社が規模の小さい大学(学生数が5000未満)のトップ20位ランキングを発表しました(The world’s best small universities 2016)。その中には、日本の東京医科歯科大学(タイムズ社大学ランキング2014年276-300位→2015年401-500位)、横浜市立大学(400位圏外→601-800位)、東京海洋大学(400位圏外→601-800位)が含まれています。

そして、その中にはInCites™のデータでは説明のできないCitationsの大きな低下よって大学ランキングが大きく低下した米国のフロリダ工科大学(Florida Institute of Technology)(タイムズ社大学ランキング2014年200位→2015年601-800位)もちゃんと含まれています。

InCites™では説明のできないCitationsの大きな低下をきたした日本の首都大学東京(大学ランキング226-250位→401-500位)は、残念ながら含まれませんでした。学生数が5000を上回っていますしね。

昨年、タイムズ社の世界大学ランキング担当機関から外れたトムソン・ロイター社は、2015年9月15日に世界で最も革新的な大学ランキングを発表し(The World Most Innovative Universities)、その100位以内に、大阪大学を筆頭に日本の大学が9大学含まれていました。今度は、2016年1月16日にタイムズ社が小規模大学の世界ランキング20を、申し訳的な感じがしないでもありませんが発表し、その中に日本の大学が3大学含まれていました。

これは、ランキングなるものが、評価軸の設定によって、全く異なる結果をもたらすものであることを如実に示しています。

今回、世界的に大きな影響を与えているタイムズ社とトムソン・ロイター社が相次いで従来の評価軸とは全く違うランキングを発表したことは、大いにけっこうなことであると僕は思います。

これによって、大学ランキングなるものの無意味さを感じる人の割合が増えたかもしれませんし、また、大学ランキングにそれなりに意味を感じている人々にも、少なくとも評価軸が複数存在するということが分かっていただいたのではないでしょうか?

ただし、この大学ランキングシリーズの最初のブログで書きましたように、「第1次安倍内閣の時、平成19年6月の教育再生会議第二次報告では「世界の上位10校以内を含め上位30校に少なくとも5校が入る。」と書かれており、また、第2次安倍内閣の平成25年6月の日本再興戦略に「今後10年間で世界大学ランキングトップ100位以内に10校以上を入れる。」と書かれています。なお「世界のトップ100大学に10校」は、平成25年1月日の第一回産業競争力会議において竹中平蔵議員が提出した資料の中に書かれています。

つまり、日本国家は、大学に関係したほとんど唯一の数値目標として、大学ランキングを掲げているのです。この現実は、国民や関係者が心して受け止めておかねばなりません。

  今までは、日本の財政状況が厳しいことから、今後はそれに加えて人口減少への対応として、引き続き行政の縮小がなされていくと考えられますが、その時に何から切り捨てていくかの意思決定に、一面的な評価軸に基づいたランキングの下位から切っていくということがなされる可能性があります。実際、平成19年には、教育再生会議第二次報告に大学への「選択と集中による重点投資」や国立大学の「運営費交付金の大幅な傾斜配分」の文言が書かれ、小規模大学の切り捨てがなされようとしました。

 このような一面的な評価軸による選択と集中政策や意思決定は、日本の歩むべき道を誤らせる危険性を常にはらんでいると思われます。

 トムソン・ロイター社の革新的大学ランキングにおける日本の9大学と、タイムズ社の小規模大学ランキングにおける日本の3大学を合わせると、10大学を超えることになり、一応100位以内に10大学という目標を達成していることになりますが、果たして産業競争力会議の皆さんは、これをどう評価されるのでしょうか?

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