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「平均のワナ」に陥っていないか -ボストン コンサルティング グループ日本代表 水越 豊氏

宮内 健=構成 宇佐美雅浩=撮影

進捗報告、来期の予算交渉、コスト削減提案、新規事業企画……数字で相手を動かすポイントを経営トップが指南する。

なぜバブルを見抜けなかったか

その数字から何を成し遂げたいか。数字を見るうえで大切なポイントはここにあると考えています。

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ボストン コンサルティング グループ日本代表 水越 豊氏

その際、陥りがちな落とし穴は「平均」だけを見て「分布(ばらつき)」を見ないことです。平均が悪いわけではありませんが、多くの場合、ヒントが潜んでいるのは分布です。クラスの平均点が50点だったとしても、100点と0点の生徒がそれぞれ10人ずつなのか、30点から70点の間に散らばっているのかによって、先生がとるべき教え方はまったく異なるでしょう。「どんな分布でこの平均値になっているのか」を考えることです。

物事のトレンドを最近の数字だけで判断するのもよくある落とし穴です。直近のトレンドが一過性のものかどうかを判断するには、スパンを長くとって見る必要があります。日本で1980年代末に不動産バブルが発生したとき、不動産を買った人の中には「まだ値上がりが続く」と判断した人も多かったでしょう。しかし、インフレ調整した地価の変動を戦後から眺めると、あの時期の上昇は異常だったことがわかります。その数字を見れば、不動産の値上がりがずっと続くと考える人は少なかったのではないでしょうか。

絶対値しか見ないことも多い。利益が増えていても、業界平均や競合に対してどうなのか相対的に見ることも重要です。自社内同士でしか比較しないこともあります。たとえばA事業部は売り上げが伸び利益も出ているが、B事業部はけしからんといった場合です。しかし、実情はA事業部が参入している業界は市場全体が伸びていて、競合も利益が出ている。実は競合より利益率で劣っているかもしれません。一方でB事業部のおかれる市場環境は厳しい状況で、B事業部は競合に比べて競争力が高い場合もあるでしょう。

もちろん、最初から「この数字さえ見ておけばいい」というものはありません。どの数字を見るかはその時々の課題によって変わります。重要なことは「どのように数字を見るか」であり、その前提になるのが「定量化」です。

意思決定や議論の際は、何事も数字で定量化して考えることが大切です。数字で測定できないものは改善できないのです。たとえばあるやり方でコスト削減をすると、トレードオフで品質が低下するとします。そのときコストはどれだけ削減でき、品質はどれだけ落ちるのか、定量化してそれぞれの規模感を把握しないとそのやり方を採用すべきかどうか判断ができません。

とくに企業組織の場合、担当者の立場によって課題が異なることがあります。品質担当者が「品質低下は絶対に認められない」と言い、営業担当者が「そんな商品は売れない」と言い合っていたら議論になりません。そこで定量化するのです。たとえば製造方法を変えるといくらコストが下がり、販売予測はどのように変化するのか。数値に置き換えて説明する。そこではじめて、同じ土俵に上がって議論ができるようになるのです。

意思決定に必要な数字の「粒度(りゅうど)」は内容によって異なります。「広告宣伝費を減らすと売り上げに影響が出る」という議論をしているとき、売り上げの減少は1億円なのか10億円なのか、だいたいの数字がわかればいい。一方で食品の安全基準はより明確でなければなりません。数字を使って議論するときは、どの程度の粒度が要求されているかを考えて定量化することが大切です。

「人の心理」を定量化する

日本人はもっと数字を使った議論に慣れたほうがよいと私は感じています。その際、数字を「因数分解」し「それぞれの数字に何の意味があるのか」を考えることが重要です。

ある商品の売り上げを伸ばす方法を例に考えてみましょう。まず、消費者に商品の存在を認知してもらう必要があります。ターゲットになるセグメントの大きさはどのくらいで、その中で当該商品を認知している人は何%いて、実際に購入した人は何%で、その中からリピーターになったのは何%か――。

因数分解が終わったら、各項を項目毎に定量化していきます。ポイントは、数値化しにくい定性的な情報も定量化することです。因数分解した結果、「売り上げを伸ばすことは難しく、撤退したほうがいい」という考えに至ったとしましょう。ここで結論を下すのは早計です。撤退するとなったときの社員の心理面のショックを直接的に数値化することは難しいので、たとえばそれを生産性の低下に置き換えてみる。数字がない場合には「そんな数字はありません」で終わるのではなく、近似値や代替指標を探し、定量化していくのです。

数字は説明の道具ではない

定量化の際に欠かせないのが「リアリティチェック」です。あなたの部下がインタビューを定量的に分析し、「商品を一度使った人の6割が継続的に買う」と算出してきたとしましょう。あなたから見るとこの数字は、経験上、明らかに高すぎる。こうした感覚はデータを見ていただけではわかりません。社会常識やビジネス経験から出てくるのです。リアリティチェックの精度を高めるため、他の基準と照らし合わせて比較したり、詳しい人にヒアリングすることも必要です。こうした数字への感覚は経験や練習を積むことで磨かれていきます。

物事を定量化し、分布やスパン、相対化の視点を持ちながら数字を眺め、想像力を働かせてリアリティチェックを行う。そのうえで、次のアクションプランを考える。こうしたプロセスを繰り返すことが大切です。

ただし、数字を単なる説明の道具に使ってはいけません。特に管理職の場合、部門が出した成果の説明が求められるため、安易に説明しやすい数字へ飛びついてしまいがちですが、それでは現実を見誤りアクションを間違えます。そうではなく、数字は考える道具として使う。数字の向こうで起きている現実を見抜く想像力を研ぎ澄まし、過去の経験や常識とは異なる変化を読み取る嗅覚をぜひ磨いてほしいと思います。

▼水越流「数字思考」3つのポイント
1.ヒントは「分布」にあり
2.「絶対値」ではなく「相対値」を
3.数値化しにくい情報も数字に置き換える

ボストン コンサルティング グループ日本代表 水越 豊
1956年、東京都生まれ。79年東京大学経済学部卒業後、新日本製鉄(現新日鉄住金)入社、88年スタンフォード大学経営学修士取得。90年ボストン コンサルティング グループに入社し、2005年より現職。

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