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「鉄血のオルフェンズ」と「優しい家父長制」

昨今「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」というアニメがお気に入りである。もちろんガンダムは大好きな作品ではあるのだが、今作は今までのガンダムで描かれてきたどの世界とも関係がないし、共通点もほとんどない。一つのSFアニメとしてたいへん楽しませていただいている。

初代ガンダムの主人公はいわゆる内気で気弱な機械オタクの少年だった。今作の主人公ミカヅキは奴隷の少年兵である。感情が薄く、いつもポケットに入れたデーツを食み、砂漠のような厳しい環境の火星で多数の同じ境遇の少年たちと「宇宙ねずみ」として暮らしている。体には禁止されてるはずの「阿頼耶識システム」と呼ばれる脳と兵器をつなぐデバイスが埋め込まれ、人間離れした反応速度を得ている。そしてなにより、地球人たちに明らかな差別を受けている。

貧困地区の孤児として生きてきたミカヅキと、当時からミカヅキに常に策を与えて一緒に暮らしてきた親友オルガが、奴隷の少年兵として働かされてるところから物語は始まる。彼らはある事件から自分たちを奴隷兵としてこきつかってきた相手を出し抜き、組織をそのまま乗っ取って「鉄華団」を結成する。

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本作で中心的に描かれるのは「差別」と「家父長制」である。

阿頼耶識システムを埋め込まれた彼ら「宇宙ねずみ」も不当な差別を受けるが、さらにひどいのは「ヒューマンデブリ」と呼ばれる人身売買されてきた孤児たちだ。

tonarino-kawauso.com

上記サイトに明確に解説されてるが、宇宙ねずみは一応組織と雇用関係にある。対してヒューマンデブリは人身売買されてきただけの「所有物」だ。

差別の構造はこれだけではない。彼らの住まう「火星」は地球から不平等な貿易関係を結ばされている。そして火星の独立運動を指導する若き革命の乙女クーデリアを交渉のため地球まで連れて行くことが鉄華団の初仕事になる。

しかし奴隷兵のような少年たちだけで火星から地球への航行が成立するものではない。鉄華団はマフィア企業の傘下になり、地球へ進む後ろ盾を得る。

その文化は古典的な日本のヤクザそのものだ。袴姿で杯を交わすシーンなどガンダム史上初ではないか。

古典的ヤクザであるがゆえに、古典的な家父長制がそこにある。鉄華団団長オルガと義兄弟の盃を交わした名瀬は、幾人もの愛人を周囲に置き、彼女らに役割と居場所を与える「家長」である。家長であるがゆえの責任を背負い、面倒を見る。

同じく「鉄華団」という「家族」の「家長」であるオルガはその姿に何を思ったか。

家父長主義というのはパターナリズムとも言われ、強い立場の者が弱い立場の者の意思決定を代行することを言う。序盤からミカヅキの印象的なセリフがある。

「オルガ、次はどうしたらいい?」

意思決定をぶん投げるミカヅキとそれを受け止めて判断を下すオルガの姿は、まごうことなき美しき家父長制である。

「家長」として成長するべく背伸びをするオルガの姿と、対象的に描かれるのは主人公ミカヅキだ。

家長である名瀬やオルガは、家族を守るために家族を自分の判断に従わせる。だがミカヅキはクーデリアにこう言い放つ。

「あんたが決めることだよ(中略)だからこれは、クーデリアが自分で決めなくちゃいけないんだ」

古典的家父長制が描かれたかと思えば、古典的家父長制では真っ先に無視されるはずの女性の自己決定権を投げつける。

思えば名瀬の愛人たちにしても、自己決定権が無視されてるようには見えない。鬱屈した人物は一人もおらず、人生を楽しんでるようにすら見える。名瀬の第一夫人であり組織の戦闘におけるリーダーでもあり、自身もパイロットであるアミダは言う。

男の度量ってのはね、愛の量で決まるんだよ。男の中にはね、持ってる愛がやたら多い奴がいる。その愛はたとえ多くの女に分配されても、普通の男の愛なんかよりずっとでかくて、心も体も芯の芯から満足できるのさ。

まずいメシを独占するより、うまいメシをわけあったほうがいい。それがアミダの哲学だ。

そう考えると、家父長制とはいえ彼女らの自己決定権は奪われてはいない。そう、彼女らは自分の意志で自己決定権を預けているのである。「優しい家父長制」とでも呼ぶべきものがそこにある。

おそらくこれは時代の要請でもあるのだろう。パターナリズム批判が長らく続き、多くの判断が個々人に任されるようになり、我々現代人は「判断に疲れている」のだ。かのスティーブ・ジョブズが判断を減らすために同じ服をずっと着続けていたという話があるが、そうまでして「判断の数」を減らさないといけないところまで我々は追い込まれてる。

時代は判断を預けるに足る「強い男」を求めているのだ。

ミカヅキにしても自己決定権をオルガにあずけているのは「その方がおもしろそうだから」である。この作品で描かれる家父長制はみな自己決定権を自分の意志で預ける「優しい家父長制」だ。

初代ガンダムで主人公アムロが艦長であるブライトに殴られたり独房に入れられたりしたのとは大違いである。アムロは仕方がなくガンダムに乗り戦ったのであり、自分自身の意志などではなかった。

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少し気になるのは、「鉄華団」という家族の「家長」になったオルガがアミダのいう「愛の量がたくさんある男」になるのかと思いきや、むしろ複数の女性を抱きしめることになるのはミカヅキの方であることだ。

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小さい体に似つかわしくない大きな手を持つミカヅキは、「家長」になるのかはたまた別の道を選ぶのか。本作の描く「優しい家父長制」をミカヅキも踏襲するのだろうか。

最終回まであと1ヶ月、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」「心が叫びたがってるんだ」の長井龍雪監督が、この「ガンダム」をどう締めてくれるのか、非常に楽しみである。

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