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市場の信頼を脅かすサンダース氏とトランプ氏

 市場は通常ならば、米大統領選に大きな関心を払わない。民主・共和いずれの党の大統領も、選挙活動中はさまざまな政治ショーを繰り広げる。だが、いったん就任してしまえば、自由貿易であれ、連邦準備制度理事会(FRB)の独立性であれ、正統的な経済政策を遂行するからだ。

 今年の大統領選は、こうした前提を放棄するいい機会になりそうだ。2008年の世界的な金融危機がエコノミストをつまずかせたように、今回の大統領選はこの政治的予言を無効にする。

 投資家たちは今になってようやく、自称民主社会主義者で「政治革命」を呼びかけるバーニー・サンダース民主党候補や、テレビ番組司会者のドナルド・トランプ共和党候補が実際に大統領になる可能性に備えようとしている。いずれの候補も、未曾有の不安をもたらし、政策を激変させる恐れがある。サンダース氏は大手銀行の解体や、政府管掌の国民皆保険の導入のほか、連邦最低賃金を時給15ドルに引き上げることを提唱している。一方のトランプ氏は中国やメキシコからの輸入品に大幅な関税を課し、移民の流入阻止のためメキシコとの国境に壁を築くことを主張している。だが危険なのは、2人の極端な政策だけではない。

 もっと大きなリスクは、サンダース、トランプの両氏とも正統の経済思想を認めていないことだ。2人は、主流派経済学者が彼らの提案を酷評していることを特に気にしていない。インフレ調整後の国民所得は1999年以降徐々に低下していて、米国は間違った方向に向かっていると思う人が圧倒的多数になっていることから、国民は非正統的な経済思想でも失うものはないと思っているのかもしれない。

画像を見る サンダース氏とトランプ氏は国民皆保険や不法移民などすでに改善しつつある政策を論点としている。左から:米国は正しい方向に向かっているか(緑:向かっている、赤:向かっていない)、米国人の健康保険未加入率、メキシコからの不法移民の数(推定)

 それは、それほど悪いことなのか。多くの経済学者は、フランクリン・D・ルーズベルトやロナルド・レーガンの経済思想は危険だと考えた。しかし両氏とも就任すると、鋭敏な顧問に囲まれ、最終的には大問題に適切に対処した。ジョン・メイナード・ケインズはルーズベルト大統領が金本位制を放棄したことを「大正解」と評価し、ミルトン・フリードマンはレーガン大統領がインフレ沈静化のための金融引き締めを支持したことに賛同した。

 だが今のところ、トランプ氏の経済政策は整合性がとれていない。同氏の陣営は、経済顧問として億万長者のヘッジファンド運用者カール・アイカーン氏を挙げる。一方、サンダース氏の政策を支持するエコノミストはいる。しかし、彼の考えには経済的な論拠はあまりなく、それよりもむしろ、世界は大企業と富裕層に有利にできているという凝り固まった思想に突き動かされている。

 オバマ大統領の医療保険制度改革により、無保険者の比率は少なくとも過去30年の最低水準に低下した。だがサンダース氏はそれを葬り去り、代わりにコストの高い国民皆保険の導入を求めている。彼はまた、金融危機後に銀行規制が厳格化したにもかかわらず、大手銀行はどうしようもないほど腐敗しているとしてその解体を訴えている。

 2008年に共和党の大統領候補だったジョン・マケイン氏は当時、10年間で1兆ドル以上歳入を削減する大規模な減税を提唱して批判された。超党派の非営利組織「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」によれば、トランプ氏とサンダース氏の施策が支出増や歳入減に与える影響はその10倍以上に及ぶ。

 市場は、どちらかが大統領になったとしても、法外なコストがかかるいずれの政策も議会で承認されることはないだろうと安心しているのかもしれない。サンダース氏の場合は特にそうだ。大統領選とともに行われる議会選で、少なくとも上下両院のいずれかは共和党支配のままになるととみられるからだ。コーナーストーン・マクロのアナリストであるアンディー・ラペリエール氏は、サンダース氏が大統領になれば銀行は「たたきのめされ」、トランプ氏が大統領になれば中国と貿易戦争が勃発するのではないかと懸念する。

 さらに言えば、2人とも何もないところから人気を得たわけではない。議員や国民の多くは、グローバリゼーションや金融への不信感を共有している。だからこそ、環太平洋経済連携協定(TPP)は批准が危ぶまれている。FRBについても、多くの議員は銀行の召使いか、放漫財政の隠れ蓑とみなしている。オバマ大統領は、共和党が下院に提出しているFRBへの監視強化法案に対して、議会を通過した場合は拒否権を発動すると表明している。サンダース氏が大統領になれば、同法案に署名するだろう。

 市場は、中国経済から原油相場までたくさんの懸念要因に直面している。そのリストに、次期大統領がFRBを規制し、貿易紛争を激化させ、ウォール街への攻撃を強化する可能性も付け加えられそうだ。

By GREG IP

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