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マイナンバー制度と情報管理の留意点

本年も我が国の政治・経済に大きな影響を及ぼす内外の懸案事項が多く、安倍政権はこれらを自政権の間に処理し、終局的には憲法改正にまで着手しようと意気込んでいるようだ。

 その内容や成果の是非はともかく、従来の大過なく無難にといった歴代政権と比較して、安部首相の懸案解決への積極姿勢と実践行動の努力は認められ、一応の評価はし得る。

 しかしながら、圧倒的多数与党の力を背景に、やや独断専行、傲慢さが感じられて、暴走しかねない傾向が見え始めたこと、何もかもと欲張り、焦り過ぎのきらいがあること、差し当たりの問題への小手先対応と、来るべき選挙への人気取り政策対応には長けているが、当面する緊急処理課題と長期的に腰を入れて取り組むべき課題との峻別と緩急・重要度の順位付けが曖昧であること、為政者側にとって都合の良い事項だけは、美辞麗句で自画自賛的にまやかし説明するものの、不都合な重要点については公明に具体的に伝えず、国家最高機密などと秘し、後になって開けてびっくりといった密約や事項が漏れ出てくるといった不信感が払拭しきれないこと、TPPや消費税の軽減税率問題などの重要法案審議のどさくさに紛れ、比較的に国民の関心は弱いが問題の多いその他の法案・事項もまとめて一括処理しようとする狡猾さがあること、いずれにしろ、将来どんな国家体制にしようとしているのかといった最も肝心な根本的理念やビジョン、目的の説明が不明確であることなどについては些か不満・不安である。

 本年に予定されている主要な政治的行事や注目すべき事項としては、1月初からのマイナンバー制度の発足、2月には、TPP交渉大筋合意署名式、3月の中国全国人民代表大会、自民党大会、ワシントンでの核安全保障サミット、5月、伊勢志摩におけるG7首脳会議、6月、石油輸出国機構(OPEC)総会、シンガポールでのアジア安全保障会議、選挙権年齢を18才に引き下げる改正公職選挙法施行、7月、参議院議員選挙、8月、リオデジャネイロ五輪開催、9月、中国でG20首脳会議、ウィーンで国際原子力機関(IAEA)総会、11月、日本国憲法70周年、12月、EU首脳会議、ペルーでAPEC首脳会議などと多々あるが、本稿では新発足したマイナンバー制度と、それに伴う情報リスク管理についての見解を述べよう。

 マイナンバー制度に関しては、昨年5月に導入法案の内容が唐突に公表され、国会で審議・承認・議決され、早速、年末までにはマイナンバーの通知表が説明書同封で全国民に簡易書留郵便で配布され、本年1月1日から施行されるようになったので、もう既に読者各位はご承知で、マイナンバーの通知書入手済み、番号認知、マイナンバーカードの取得申請も提出済み、企業としての対応も着々と進めているといった方も多かろうが、巷の庶民や中小事業者においては、僅か半年余という短期間で、事前の十分な予告やPR、説明もないままの拙速導入だった上に、その間に、個人情報の大量漏洩事件や、これに便乗した新たな手口の悪徳詐欺事件が早速に発生したことなどもあって、まだまだ、本制度への理解不足や誤解、行政当局への不信感、個人情報の収集と、その管理・保護体制への不安感、個人の生活実態やお金の動きがすべて把握されかねないことへの心理的不快さと抵抗感が根強く残存している。

 そこで正しく理解し、賢く健全に活用していただくために、念のため、その概要や活用上の留意点、対応策の要点などだけを改めて列挙しておこう。

(1)国民総背番号制導入の気運を高めた契機

 自由さや便利性の反面では、自己責任やリスクの増大があり、権利を主張するには義務が伴い、自己の存在を認めてもらい、それ相応の対応や恩恵を得るには、その存在を明らかにする登録や認証を得て、それを立証する制度や身分証が必要であることは当然であり、それを否定する人はいないだろうし、もし万一にもこれに抵抗する者がいたとしたら、そこには何か他者にあまり知られたくない複雑な事情が秘められているからのことであろう。

 しかしその一部の異端者のために、社会全体の秩序が乱れ多くの善良な人が迷惑を蒙ったり、正しく活用すれば機能的で便利な良い制度までもが、悪い印象を持たれて敬遠されることにもなる。

 今回のマイナンバー制度の導入についても、多分にそういった面があるのではなかろうか。感情的な嫌悪感や一部の不祥事の発生に対する不安や不満から、制度そのものの是非とを混同してはならない。

 健康保険や年金・福祉サービスなどのそれぞれの分野で、特定・固有の番号を付して処理するといったことは古くから採られ、円滑に機能し、不自由なく活用し、馴染んできたことであり、今次のマイナンバー制度は、国民全ての番号付けと、その範囲が福祉・税・防災の3分野に及ぶとはいえ、こういった付番管理行政は決して新奇な制度ではなく、欧米先進国の多くでは既に50年も前から、我が国でも過去に、戦時の米穀配給制度、戦後の「グリーンカード(少額貯蓄等利用者カード)」などで実際に施行されたこともあったが、反対が強く、漸次自然消滅したトラウマが残っていた。

 それが今回再び導入しようという気運が高まった動機は、実は2007年(平成19年)に発覚した「消えた年金問題」であったと、当時の関係者の一人青木丈氏(注:元総務省行政手続室企画官僚、現行政管理研究センター客員研究員、大学客員教授)が著書の中で述べておられる。

 すなわち、年金加入記録の一元化を試みた際、入力ミスや結婚で姓が変わったことなどの理由により年金の記録が一部消えてしまったが、この場合も、もし固有番号による管理制度であれば起こらなかったのではないかと提起され、以後、総国民番号管理制度の気運が高まり、行政当局もその導入策を検討し続け、好機を持っていた。近年になり、悪徳詐欺事件、他人名に成りすまし事件、巧妙なマネーロンダリングや脱税が再増発することになったので、公正・公平のため導入を急いだもので、決して思いつきの拙速導入ではないとのことである。

(2)マイナンバー制度の概要

 詳細記述は公的配布資料でご存じだろうから省略するが、マイナンバーは俗称、正式名称は「個人番号又は社会保障・税番号制度」であることから、

 
  1.  本制度導入の目的は、脱税や年金不正受給の排除、なりすまし詐欺犯罪などの予防、複数医療施設を利用し多種の薬を併用している患者などについての情報連携を本制度を媒介にして強化し得ることなどで、医療・社会福祉サービスの充実を図る、災害被害時の安否確認や支援の敏速・充実化などの分野から、公正・公平な社会つくりに役立てることであるが、とりわけ取引のお金の流れを正確に把握することで、税管理の公正と厳格化に主眼が置かれている感が強い。
  2. ここでいう個人には、一般国民(自然人)だけでなく、法的に人格が認められている企業なども含まれるので、個々人だけでなく企業にも、双方全てに番号が付され、
  3. その番号を付けるのは、個人は総務省・地方公共団体が住民票コードに基づき12桁の番号、企業には国税庁が法人登録台帳に基づく13桁の番号が、
  4. 乱数表による無作為で、たとえ家族でも世帯単位でなく、また家族連番でなく各人ごとにバラバラで、その数値に生年月日や住所番号など個人情報を推測できそうなものは秘められずにつけられ、
  5. 付された固有・特定の番号は、原則一生涯不変、死後も永久欠番で、自由に好きな番号は選択できない。
  6. 簡易書留で各戸に配布されてきた番号通知表に基づく、所定の手続きで申請すれば携帯可能なカード化も出来、更に機能的・簡便に利用できるようになるが、紛失・盗用リスクへの厳重保管や注意義務は他のカードや有価証券も同じことである。
  7. カード化は任意で、全員の義務ではないが、番号通知書だけでは顔写真がついてないので本人を立証する証明書にはならない。
  8. マイナンバー・カードなら顔写真つきだから、自分が公認された日本国民としての実在を立証し、それ相応の対応や権利が受けられる、立派な身分証明書(IDカード)、日常生活のパスポートとイメージすれば馴染み易くなるだろう。
  9. この法や制度の実際の施行は、本年平成28年(2016年)1月1日からであり、既に始まっている。

 しかし残念ながら昨今は、単身で不在がち家庭、表札の掲示なし、男女別姓、1戸2世帯住宅、オートロック式・無人管理で立ち入り実査確認不能マンションなど、生活態様の多様化などから、番号通知の簡易書留郵便が配達不能で市区町村に返送されてきており、未だに本人に未配となっているのが推計7%ほど存在しており、現場担当役所としては戸別訪問手交をしなければならず苦慮しているようである。

(3)マイナンバーの利用できる分野

 差し当たりは、マイナンバー制度が摘要される範囲は以下の3分野に限定されており、その分野では国の機関と地方公共団体とは連携し利用し得るが、そこで知り得た個人情報やデータを、これ以外の他分野や目的に流用することは禁じられている。

 
  1. 社会保障分野
        
    1. 年金分野…年金の資格取得、確認、給付を受ける際に利用
    2.   
    3. 労働分野…雇用保険の資格取得、確認、給付を受ける際に利用したりハローワークの事務等に利用
    4.   
    5. 福祉医療、その他分野…医療保険等の保険料徴収、医療保険者の諸手続き、福祉分野の給付の受け取り、生活保護の実施、低所得者対策に利用
  2. 税分野
    • …国民の確定申告、諸届出、調書、内部事務等に利用
  3. 災害対策分野   
    • …被害者台帳の作成に関する事務、被災者の生活再建支援に関する支給や事務に利用

(4)マイナンバー制度導入・遂行のスケジュール



 ①2015年10月~11月
    
各市町村から各戸・各自宛てに簡易書留で、番号通知書と説明冊子などが配布される。11月末までに終了予定。


 ②2016年1月~
    
本制度施行、個人番号の利用開始、マイナンバーカード作成申請受付と承認後の交付開始。


 ③2017年~
    
健康保険、年金などに関する届出などへの記載開始。本制度関係の新情報ネットワークシステムの運用開始予定。マイナポータル運用開始。


 ④2018年~
    
預金口座への登録開始(任意)、カルテなど医療関連への利用。


といったように段階的に進められ、全ての分野での本格的運用は2年後ということになる予定。

(5)具体的なマイナンバーの利用例と国民側のメリット

 マイナンバーは、児童手当の現況届け(毎年6月)、高等学校就学支援金、奨学金の申請時、結婚や出産で扶養家族に変動があった際の勤務先などへの届出時、源泉徴収票などに記載するため勤務先に提示、金融機関などの法定調書に記載する時、雇用保険を受ける時、労災保険を受ける時、国民健康保険の加入手続きの時、厚生年金の裁定請求時など、本人であることを立証する必要があるあらゆる日常生活や企業勤務に関係する場合など、さまざまなケースで利用されるが、この場合従来のような健康保険証の提示、納税証明書の添付などはマイナンバーがそれにとって変わるので不要となるが、これらは従来からも必用なことで実施されてきたことであり、多少手続きの簡素化、能率化、簡便さはあろうが、多くの人たちがそれほど恒常的に頻繁に利用することばかりとはいえず、煩雑化、とりわけ事業者にとっては事務負担増、EDシステム改良、帳票類の更新コスト負担、情報管理や漏洩防止、リスク回避対策など、初期にはかなりの負担増となろう。

 そうなればこのシステム導入のメリットは、国民生活の利便に供するというよりは、それは間接的なもので、公正・公平化、脱税防止、悪徳犯罪予防、社会・医療サービス向上の成果次第ということになり、本制度のメリットは、むしろ行政側の利便性、効率化、徴税源探求のためのおカネの流れの把握、脱税の余地をなくし税務の厳正化を図るといったことに主体を置くという真意が窺い知れよう。

 行政側のメリットは、これまで各省庁・分野それぞれごとにバラバラ、中には類似・重複するような資料まであったのを、本制度で連接し共有することが可能となり、ビッグデータ・ベースを形成し得るようになり、縦割り行政の弊害が部分的にでも改められ、その突破口を開いたことは大きな改善・進歩といえる。

 にもかかわらず今回の制度を非難し忌避するのは、これまでの不正脱税の甘い蜜を奪われ、その道を断たれることになった者ともいえ、真正直に納税している善良な国民の多くにとっては喝采ごとといえよう。

(6)マイナンバー制度に関する事業者の対応

 本制度では企業にも13桁の法人番号が割り振られ、個人番号と同じような機能を有し、扱いも受けることとなる。

 番号指定を受けた企業の商号又は名称、本社や主たる事業所の所在地、法人番号の基本情報3項は、国税庁のホームページで公表され、誰でも検索・閲覧が可能となる。従って架空のトンネル会社などは排斥、淘汰されることとなる。

 また行政機関との間で個別の法人に関する情報授受が可能になるので、法人の名寄せ、紐付け作業が効率化するし、多岐間にわたっていた行政手続の申請なども一度で出来るようになり、法人番号を活用して企業情報共有の基盤が整備されれば、企業間取引の効率化や国民にも有用な企業情報の提供が期待できるようになろう。

 マイナンバーは前記したように、社会保障や税、災害対策に関する事務に利用されるため、当然企業はこれらに関与することが多く、事業者は事務処理をする行政機関や地方公共団体に、従業員などのマイナンバーを提供する役割を担うことになる。

 従ってこれを安全に取り扱うためには、従来の社内規定を見直し・修整したり、システムの対応、情報管理と漏洩リスク防止体制の厳格化、従業員研修、取引先への事前PRと理解・協力を求めることなども必要となるので、当初の負担は費用・労力・時間など大変であろうから、的確な事前準備と受け入れ体制づくりが重要になる。

(7)情報管理とリスク・マネージメント

 「情報を制するものが世の中を支配する」といわれ、行政、企業経営など、あらゆる場面で情報は最も必要な基本的要素であり活力素、正しい認識・判断・行動の源となるが、それは量・質兼備と同時に、正しく分析・活用し、それで正しい行動を取ることが肝要である。そういった面で、我が国の政治や行政の構造改革に際し、マイナンバー制度という情報発信源からの収集・管理・活用体制の整備を重視し、これで情報とおカネの流れを確実に把握、国民生活や企業経営実態をよく理解し、公明で公正・公平な治世と国家・社会建設に役立てようと試みたことは、誠によい着眼と英断で結構なことだ。

 この後は「信なくば成り立たず」、情報管理・活用の成否は、関係当事者への信用・信頼にかかるので、ダブルチェック体制など、情報漏洩リスク防止には十分留意しつつ、その健全・適正な運用の妙を発揮して頂きたいものである。

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