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Rakutenの躓きとReebonzの快進撃にみるマーケティング戦略の違い

■東南アジア全域でのショッピングモール事業撤退を決めた楽天

2月いっぱいで楽天が運営する「Rakuten」がシンガポール、マレーシア、インドネシアのサイトを閉鎖、電子ショッピングモール事業からの撤退を決めました。楽天はインドネシアで2010年に地元財閥企業と合弁で事業をスタートしましたが、思うように事業が成長できず13年には合弁を解消。今回はそのインドネシアも含め、東南アジアでのプレゼンスを一挙に縮小するといわれています。

撤退の理由は明らかにされていませんが、おそらく売り上げ不振が最大の原因でしょう。

シンガポール地元紙『The Straits Times』によると、昨年末の時点でRakutenへの出店社は約500社だったといいます。そのうち1社への取材では、年間出店料はSGD4,000以上(約33万円)で、他に売り上げコミッションが10~20%。小規模事業者には出店料他のコストが高すぎて思うように出店社を集められなかったからという分析も紹介されていましたが、不動産価格や家賃が東京の2~3倍が当たり前、人件費が高いため、自前でまともなサイトを作るにはかなりの投資が必要なシンガポールでは、私はむしろ安いと感じます。

例えば、売り上げが50万円あって粗利率を40%とすれば粗利益が20万円。そこから出店料の3万円とコミッション10%を引いても利益12万円が残ります。これがもし実店舗であれば、どんなに小さな店であっても家賃が10万円以上、ショップスタッフの人件費が10万円以上ですでに赤字。逆に小規模事業者にこそRakutenのメリットはあったはずなのです。

しかしそうならなかったのはやはり、それだけの売り上げを上げられない事業者がほとんどだったということではないでしょうか。

■ブランディングが残念な楽天のウェブサイト

まだ見られるうちにと思い、楽天のシンガポールサイトを覗いてみました。

トップ画面のイチオシはSEIKOの腕時計、ハローキティーの雑貨、ASICSのスポーツシューズ、スナイデルのドレス。どれも知名度が高い日本ブランドですが、いま旬真っ盛りで、行列を作っても買いたい商品かというと・・・・微妙です。

下にスクロールするとピックアップ商品。KATANAのゴルフクラブと並ぶのはインバウンド需要を狙ったのか、アツギのタイツとムートンブーツ。さらにその下にはコラーゲンやスムージーといった健康食品から、補正下着、キャラクターグッズまで。日本の楽天市場と同様、脈絡なくさまざまなカテゴリーの商品が所狭しと並びます。

しかし、日本と同じくこのような商品を求めて検索し、このサイトにたどり着く消費者がどれだけいるのでしょうか?

日本のテレビ番組で「コラーゲンが流行っている」という情報が流れれば、数千人から場合によっては数十万人の人々がネット検索をかけて楽天市場に流入するでしょう。雑誌の商品紹介記事や有名人ブロガー記事でも同じです。しかしここは人口500万人強の小国。日本のような商品紹介の情報番組はほとんどありませんし、情報誌やブロガーの数も極めて限られています。また、シンガポールでは新製品をPRするとき、メディア媒体に強いPR代理店に頼んでマーケティングをしてもらうのが普通ですが、よほど露出を多くしない限り、たまに広告や記事広告を出すのではまず大ブレークは期待できません。

Rakutenの場合、知名度の高い日本ブランドを目玉商品に据えれば集客できると踏んでいたのかもしれませんが、”Rakuten”そのもののブランディングとマーケティングを怠ったため思うように集客=売り上げ増につながらなかったと思われるのです。

■有名ブランドに絞って自らのブランディングを確立したReebonz

いっぽう、シンガポールのeコマースで大成功をおさめている地元企業があります。その名は"Reebonz”。

CEOのサミュエル・リム氏を中心に3人の若手企業家が立ち上げた会社で、ブランド品(主に女性用バッグ)のフラッシュセールを軸にオンライン販売を行ってきました。このサイトでは、コーチ、マイケルコース、ケイトスペード等々、正規の店で買うとそこそこの金額がするブランドのシーズン落ち商品を買い付けてきて、10~60%程度の割引率でブランド品が大好きな女性たちに販売しています。

扱うものがブランド品ですから商品説明は最低限でかまいません。消費者は自分で調べていろいろな情報をもっています。宣伝も不要です。ブランドホルダーがこれでもかと金に糸目をつけず宣伝してくれるからです。後は旬のブランド、人気があるブランドの情報を集めて仕入れてくるだけ。そのブランド名で検索で流入してくる人々が自動的に顧客になっていくのです。

こうしてReebonzは2009年の設立以来急成長を続け、現在はシンガポールのみならず、マレーシア、インドネシア、台湾、香港、タイ、オーストラリア、韓国で事業展開をしています。

■ブランド力がない商品を売ろうとして失敗したReebonz

そんなReebonzにもRakutenと同じく撤退の過去があります。

それは2年ほど展開していた”Kwerkee”というブランド品ほど高額ではなくアートな雑貨類を扱っていたサイト。若手デザイナーや新興ブランドのインキュベーターになるという志もあったのだと思いますが、結局、よく売れたのはキャス・キッドソンなど、お手頃価格でもやはりブランド力のある商品のみで、ほとんどのブランドが不発に終わってしまいました(実はこの中に私が扱っているブランドも含まれていました)。

そこでReebonzはこの事業に見切りをつけて他社に売却。同時に始めたのが、ルイ・ヴィトンやエルメスなど、ディスカウント販売できない超高級ブランドの中古品を仲介するサイトです(Reebonzの中にセクションを設置)。これがヒットし、現在は個人からの委託出品のみならず、日本の中古販売店と組んでさまざまな超高級ブランドの商品を販売しています。

つまり、Reebonzはブランド商品のブランド力を自社ブランドとするマーケティングに特化したといえるのです。

■日本のマーケットより断然厳しい海外マーケット

日本とシンガポールの両方で営業活動をしていて思うのは、日本はつくづく恵まれている国だということ。その最大の要因は人口です。

例えば、20代女性の100人に1人が「この服好き」と買ってくれる商品があったとします。20代女性が1,000万人いる国であれば、ターゲットは10万人です。しかし、30万人しかいない国ではわずか3,000人しかいないのです。まずマーケット規模が違うのと、そのターゲットにアプローチする手段が日本では非常にいろいろと用意されている一方、シンガポールのような小国では上記のように限られているため、ターゲットを捕捉することさえ難しいのが実情です(インドネシアは国の人口は多いですが、クレジットカードを持っている人が極端に少ないうえに、物流にも非常に高いハードルがあるためeコマース人口はシンガポールより少ないといっても過言ではありません)。

その中でどのようなマーケット戦略を練って実践していくのか、そしてどのように消費者を集客していくのは、eコマースにとって最大の課題であり、生命線ともいえるでしょう。Rakutenを含む多くのeコマースサイトは、そこで躓いてしまっているのではないかと思うのです。

シンガポールでは旧正月の今月、社員の解雇を行ったRakutenに対し、若干感情的な批判もないことはありませんが、そこは現実主義者たちの国。好きな商品、魅力的な商品があれば「日本のお店では今後いっさい買い物はしない!」などと断言する人もいないでしょう。

シンガポール在住者としては、Rakutenに限らず、日本のeコマース事業者のみなさんがが捲土重来を期して再びしっかりとマーケティングを行い、近い将来、シンガポールでは絶対に買えないアイディアや機能あふれる素晴らしい日本製品を販売してくれることを切に望みます。

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