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脱中国大陸を目指す香港 香港スタートアップウィーク報告 - 宮崎学 (ベンチャーキャピタリスト)

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スタートアップ週間の香港の街並み(筆者撮影)

香港と言えば、読者の皆さんはどういうイメージを持たれるであろうか。2014年に発生した雨傘革命による本反政府デモ、最近では書店関係者の連行事件など、中国政府との対立ニュースが世間を賑わせている。一国二制度という下、中国における資本主義の中心地として栄えてきた香港。その香港に、1月下旬、私は人生で初めて訪れた。 

 香港政府が主催したスタートアップウィーク「StartmeupHK」に参加するためだ。スタートアップの認知を盛り上げるべく、街は、写真のように、至るところにスタートアップウィークを啓蒙する看板にあふれ、あちらこちらでスタートアップ関連のイベントが開催されていた。

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 香港では、金融の中心地であることからまずはフィンテック、そしてヘルスケア、ビッグデータ、そしてIoTへの産業育成に注力していくという。果たして、実態はいかに。今回の記事では、香港の現場の雰囲気と共に、香港のエコシステムの発達状況、並びに香港発のスタートアップのトレンドをお伝えし、東南アジアや日本市場に食い込む可能性を考えたい。

香港はアジアの「ニューヨーク」

 シンガポールのトロピカルな陽気は人を穏やかにさせるが、平坦な土地で山が無く、代わり映えのない季節は、時折人を退屈にさせる。一方で、香港は、複数の島から成り立ち、山があり、四季もある。シンガポール以上に人口密度が高いため、高層マンションがあちらこちらにそびえ立っている。シンガポールよりも狭く、家賃の相場感は日本の2倍以上するという。現地で会った友人夫婦は、わざわざ広い家に住むため、香港の中心地とは離れた島に家を借り、毎日フェリーで通勤しているという。

 交通の便はかなり良い。複数の島々は地下鉄でつながっている。バスもフェリーもたくさん出ており、隣国のマカオには24時間で船が往来しているし、中国の深圳にもバスで数時間で行くことができる。セントラル(中環)と呼ばれる香港島の中心地は、世界有数のビジネスセンターだ。スーツ姿でさっそうと歩く金融マンで溢れている。中国特有の雑多な雰囲気の中で、西洋・東洋問わず様々な国籍の人が道を闊歩しており、まさに「人種のるつぼ」を感じさせた。

 エンターテイメントも多いのが特徴だ。LKF(Lan Kwai Fong)という繁華街では毎晩のように若者がパーティをしている。ちなみに、シードアクセラレーターのnestは、著名クラブが入るカリフォルニアタワーの1フロアを借り、イベント会場として毎晩のようにスタートアップ関連のイベントをしている。山の斜面沿いにはこじゃれた感じのレストランやバーがたくさんあり、郊外には(評判があまり良く無いが)ディズニーランドもある。

 香港人はどんな人々だろうか? 現地の人と触れ合って確信したことは、とにかく香港の人は最先端の物が好き、ということだ。アーリーアダプター層が多い。現地の投資家の知人の情報によると、世界で最も高い売上高を誇るアップルは香港にあるそうだ。確かに、ローカルの友人の携帯は、iPhone、iPhone、ひたすら iPhoneだ。私はHuaweiの格安携帯を使っているのでローカルの友人に見せたところ、笑われてしまった。

 狭い土地に様々な人種の人が密集し、ビジネスの舵をとっている。流行りものが好きで、皆が皆どことなく洒落て見える香港は、正に「アジアのニューヨーク」である。

イーロン・マスクが現れた!

 セントラル中心を歩いていると、テスラモーターズの車が走っているのを見かけることができる。本国アメリカやシンガポール、日本でも販売が苦戦しているのにもかかわらず、香港では昨年の発売以降、爆発的な人気だそうだ。私は、一晩で10台以上のテスラモーターズが走っているのを見かけた。1台1000万円前後はするはずである。なんと富裕層の多いことか。香港では東南アジアほどタクシーを使う必要性はなく、従ってウーバーも使う機会は少ないが、テスラモーターズのウーバードライバーも多いらしい。憧れのテスラモーターズに乗るなら、香港でウーバーをトライするのがお勧めだ。 

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政府主催のイベントに出席するイーロン・マスク氏

 そんなわけで、政府主催のメインカンファレンスには、テスラモーターズ創業者のイーロン・マスク氏が現れた。私は後方から見ただけだったが……。私が想像していたよりも(縦にも横にも)大きく、謙虚な感じだった(この時のインタビュー動画はこちらをご覧いただきたい)。 


香港のスタートアップ・エコシステムは

シンガポールの周回遅れ

 よく、香港とシンガポールはアジアの中心地ということで比較をされるが、スタートアップのエコシステムという観点では、残念ながら、香港はシンガポールに大きく遅れていると言っても仕方がない、というのが現場からの感想だ。

 まず、圧倒的に政府の支援が少ない。シンガポールは、本連載の初回の記事でも書いたように、各省庁がそれぞれスタートアップ支援のプログラムを実施し、極めて盛んである。海外資本のスタートアップさえも、「シンガポールに有益である」と判断されれば、税制面でのメリット、補助金、もしくは投資を受けることができる道が拓かれている。一方で、香港は、政府系のインキュベーション施設の「CyberPort」を中心に幾つか存在するが、まだまだ政府の支援は不活発な状況だ。地元の起業家に聞くと、補助金もほとんどなければ、ワーキング施設やイベント・プログラムも他国と比べると少ないそうだ。

 次に、シード~シリーズA時期にフォーカスした、企業の立ち上げ段階を支援するインベスターが少ない。シンガポールでは、国土が狭いにも関わらず、アジア全域を投資対象とするシード・シリーズAのインベスターがごろごろいる。ひとたび会合を開催すれば、質の良いネットワーキングになる。一方で、香港はどうか。私も一生懸命色々な場所に繰り出したが、アーリーステージのインベスターには数人会うことができただけで、ほとんどはヘッジファンドやコーポレートの投資部門など、比較的レイターステージを対象にした人が多かった。

 現地の投資家の友人に聞いたところ、多くのVCは、そもそも香港に拠点を置いていたが、中国経済が成熟するにつれて、拠点を香港から上海や北京に移してしまった、ということである。その代わり、企業の立ち上げ時期に支援するのはファミリービジネスなどを持つ個人のエンジェル投資家、もしくはレイターステージに投資するプライベートエクイティがアーリーステージの企業に投資し、エコシステムのキーになっているということだ。

 結果として、香港発の起業家はまだまだ少ない。旅先で出会ったとある香港の起業家は、香港のスタートアップシーンが発達しない(起業家が少ない)理由として、2点教えてくれた。一つは、スタートアップを始めること自体、香港ではまだカッコイイと見なされていない。どちらかと言えばヘッジファンドとか外資系の企業で年収の高い企業に就き、テスラに乗ってiPhoneを使いこなすのがカッコイイと思われている、ということだ。もう一つの理由は、香港の生活コストが高すぎて、スタートアップのようなリスクの大きい環境に飛び込むことが難しい、ということだ。どちらもうなずける。

 私としては、一台1000万以上するテスラを買う余裕がエンジェルにあるなら、そのお金を意欲高いスタートアップにもっと投資しても良いのではないか……、そうすればもっともっと起業が盛り上がるのに…、なんて考えてしまった。

香港ならではのスタートアップの特徴

 それでは、訪問期間中に出会った企業の中から、香港ならではのスタートアップのトレンドを紹介したい。まず、香港発で目だったのは、BtoB向けのコーポレートサービスのプラットフォームだ。「DragonLaw」は、法務サービスのプラットフォームで、特定のテンプレートを用意してくれる。たとえば、企業の投資契約をしたい時、簡単な投資契約のフォーマットがすぐに手に入り、その後で追加費用を払えばカスタマイズのコンサルティングを弁護士に頼むことができる、といったサービスだ。

 「Lynk」は、サイトに加盟している様々なエキスパートと企業をつなぐプラットフォームだ。たとえばウェブアプリを創りたいといえば世界中から最適な人材を集めることができ、プロジェクトはウェブ上で行われる。これ以外にも、会計管理、人事システムや会議室管理の業務効率化を目的にしたソフトウェアなど、コーポレートをターゲットにしたスタートアップが多いのが印象的であった。

 一方、一般のコンシューマー向けという意味では、富裕層向けのサービスが多かったのが香港らしい。(残念ながらウェブサイトがないが)ウーバーの飛行機版、つまり香港の富裕層が持つプライベートジェットを、空き時間に貸し出す、というビジネスモデルを展開している企業や、メイド・コンシェルジュ系のオンデマンド系サービス(アプリ一つですぐにハウスキーパーやクックをデリバリーしてくれるようなコンセプト)も流行っている印象だった。

 また、個人的に面白いと思ったのは、教育系のスタートアップだ。「SnapAsk」は、学生がスマフォで宿題をとると、登録してある学生がチャットベースで教え、その対価にいくらか収入を得ることができる、というモデルである。香港はシンガポール並みに教育費をかけるらしく、子供の学力向上のためなら富裕層はためらわずに出費するということだ。学生は香港での生活費が高いため、少しでも稼ぎたいらしい。非常に香港らしくて面白いと感じた。

 香港市場は、単体では決して大きくはない。私が出会って提案を受けた香港のスタートアップの中では、香港の次のマーケットとして、中国本土や日本ではなく、東南アジアを見ている人が多かったように思う。地理的に近い中国市場を目指すのでは? と私は考えていたが、誰もが言っていたことは、中国国内は全く隔離された別の世界なので、オペレーションをするのが難しい、ということだ。中国本土よりも、文化的にも近く、マーケットの成長期待もある東南アジアを攻めていきたいと考えている。今後数年、ASEANのスタートアップ戦線に、香港系企業が食い込む可能性は大きい。戦況はますます激しくなるばかりだ。

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