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電動化の必要性と世界の自動車市場におけるプラグインハイブリッド車(PHV)の“今”

撮影:田中丸善治

日本初の自動車エンジニア向け専門誌「日経Automotive Technology」(現在は「日経Automotive」に誌名変更)創刊に携り、同誌の編集長を約10年間勤め上げた鶴原吉郎氏。現在は自動車技術・産業に関するコンテンツ制作を専門とするオートインサイト株式会社の代表として活動する鶴原氏に、現在の自動車業界の流れやPHVの存在意義を語っていただいた。

プラグインハイブリッド車は今の技術と未来の技術を繋ぐ架け橋になる存在


―クルマが電動化することには、どのようなメリットがあるのか?

『世間ではプラグインを含むハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)などの電動車両が今や当たり前の存在になっていますが、そもそもなぜクルマの電動化が必要なのかと考えると、大きく分けてその理由はふたつあります。

ひとつは、改めて言うまでもありませんが、地球温暖化の原因となるCO2の排出量を減らす必要があるからです。今世紀終わり頃までに地球全体の温度上昇を2度以内にとどめなければ大きな気候変動が起こると言われていることから、大気中のCO2濃度をおよそ450ppmに安定化しなければならないとされています。

そのためには2050年頃までには先進国から排出するCO2の量を8割以上減らさなければなりません。もちろん、これは社会全体の課題なのですが、クルマから排出されるCO2の量の割合は大きいため、現状から8割以上減らすというコンセンサスは、すでに世界中のどの自動車メーカーも持っています。2015年10月にはトヨタも、「2050年に世界で販売する新車の走行時CO2排出量(平均)を10年比で90%削減する」という目標を打ち出し、「そのためごく一部の地域を除きいわゆる純粋なガソリンエンジン車から、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、燃料電池自動車(FCV)、電気自動車に置き変えていく」と発表しています。つまり環境面において、パワートレインの電動化というのは避けられない流れというわけです。

もうひとつ大きな理由として、いわゆる衝突回避を支援する機能(プリクラッシュセーフティシステム)や車線からはみ出しそうになると警告を出してドライバーに注意を促す機能(レーンディパーチャーアラート)、前方のクルマと一定の車間距離を保って自動でアクセル操作をする(レーダークルーズコントロール)機能といった、走行支援機能の普及による電動化の流れです。

近い将来実現されるであろう自動運転に関しても、ガソリンエンジン車でも可能な技術ではあるのですが、電動車両はモーターを直接コンピュータで制御できるので、命令を出してから応答するまでの速度がガソリンエンジン車より明らかに早い。つまり、急ハンドルを切ったり急加速、急ブレーキをかけたりして危険回避をする際などはモーターの方が応答性や制御性が優れているのです。

地球環境の保護という課題と、クルマが賢くなっていくという進化、その2つが原動力となってクルマの電動化が進んでいくわけですが、残念なことに、いわゆる電気自動車は現在の電池性能からすると航続距離が短いこともあり、まだ大量普及には至っていません。ただ、プラグインハイブリッド車であれば電気自動車的なメリットを部分的に享受しながら、なおかつ航続距離の不安なく運転することができますので、当面の現実解としては期待が出来ます。

つまりプラグインハイブリッド車は実用性はもちろんのこと、買い物など日常生活における利便性や環境性能を満たすクルマであると言えるでしょう。しかも今後技術の進歩に伴い、電気での走行距離も伸びていくことが予想されますので、プラグインハイブリッド車は今の技術と未来の技術を繋ぐ架け橋になる存在だと思います。

一連のディーゼル問題がプラグインハイブリッド車にとって追い風になる可能性も


―プラグインを含むハイブリッド車の技術およびマーケットにおいては、日本勢が磐石の地位を築いている。一方で、ヨーロッパ勢の自動車メーカーはどうのように考えているのだろうか。

プラグインハイブリッド車は今の技術と未来の技術を繋ぐ架け橋になる存在だと言いましたが、それでもまだ一般的に普及はしていません。その妨げになっている原因の一つとして車両販売価格が挙げられます。価格をどこまで下げられるかが普及する上での課題になっており、今後に期待したいところです。

海外に目を移してみると、先ほどのCO2の話とも関わってくるのですが、ヨーロッパには厳しい燃費規制があります。日本では「そのクルマの燃費がある基準をクリアすれば税金を安くします」というアメを与えるやり方ですが、ヨーロッパではメーカーに「クルマの平均燃費を2020年までにこれ以下にしなさい」といって違反した場合は罰金を取るというムチを入れる真逆のやり方をとっています。

この難しい課題をクリアするために、現在、高い比率を占めるディーゼル車の燃費を向上させるように改良を重ねたり、ガゾリンエンジンを過給器付きのダウンサイジングタイプにしたりといった策を講じています。ただそれだけではまだ不十分で、特に欧州の高級車など排気量の大きなクルマを製造しているようなメーカーは燃費改善に対して分が悪い。そのため、走行中のCO2排出量を抑えることができるプラグインハイブリッド車を開発することで全体としての燃費を向上させる傾向にあります。

また、こうした高級車の場合、例えば500万円のクルマが560万円になっても、200万円のクルマが260万円になることに比べればさほど抵抗感が少ないので受け入れられやすいというユーザーの心理もあります。そういう意味では日本の輸入車のマーケットではプラグインハイブリッド車がより活発になってくるのではないでしょうか。

また、一連のディーゼル車の不正問題もプラグインを含むハイブリッド車に少なからず影響してくるとは思います。個人的にはディーゼルエンジンが今後すべて受け入れられなくなるということは決してないと思っています。実際、ディーゼルの新型モデルは現在もリリースされていますし、売上もさほど落ちてはいません。ただ将来的には、ディーゼルの排ガス規制はより厳しくなっていくでしょうし、今回の件でその時期が若干早まったところがあると思います。

今はハイブリッド車並みの燃費でハイブリッド車よりコストの安い技術ということでヨーロッパではディーゼルが普及していますが、今後ディーゼルの排ガス規制がより厳しくなれば、排ガスを浄化するために、よりコストの高い技術を開発および搭載する必要性が出てきます。そうなれば、当然販売価格を上げざるを得なくなるため、徐々にハイブリッドと変わらない水準になってくる可能性もあり、ディーゼル車の比率が非常に高いヨーロッパでも今後、プラグインを含むハイブリッド車の割合が増えていく可能性があると思います。

現在のディーゼル車が、すべてがプラグインハイブリッド車にならないまでも通常のハイブリッド車は増えていくでしょうし、ハイブリッド車が増えていけば電池やシステムなど多くのコンポーネンツを共有するプラグインハイブリッド車のコストも下がって、もっと買いやすい値段になる。そういう好循環に入る可能性はあります。

“クルマとしての魅力を高める“ことがシェア拡大のカギとなる


―ディーゼルエンジンの優位性が薄れる中、プラグインを含むハイブリッド車は自動車市場全体をリードすることができるのか?

そのためにはハイブリッド車にも進化は必要です。

例えば、ヨーロッパで販売されているクルマの8割以上をマニュアル車(MT)が占めています。それに対して日本は9割がオートマ車(AT)で、世界で一番AT比率が高い国なのではないでしょうか。MTに慣れたヨーロッパの人は、アクセルの踏み具合やシフトチェンジによって、クルマを自分の思い通りにコントロールしたいという欲求が強い傾向があります。

ハイブリッド車は燃費を最適にするためにコンピュータが積極的に介入するので、こうしたヨーロッパの人の嗜好とマッチしない部分があります。そのため、ハイブリッド車にとっては相反する課題ではありますが、仮に燃費性能をそのままにディーゼル車に近い、よりダイレクトなドライビングフィールが実現できれば、ヨーロッパの多くのユーザーに受け入れられる可能性はあるでしょう。

ちなみに新しいプリウスを試乗しましたが、ハイブリッドとしてのドライビングフィールという意味では相当にいいところまできていました。しかしながら、ディーゼル車と比べるとやはりまだ少し違いがあるので、そのあたりはヨーロッパの人たちがマインドチェンジしていくのか、それとも譲れないポイントとしてダイレクトな応答性を今後も重視するのか。なんとも言えないところですが、先ほども申し上げた通りヨーロッパのメーカー勢もプラグインハイブリッド車を次々と市場に投入しています。高級車というカテゴリーだからかもしれませんが、MT意識が根強いとはいえ、考え方が変わりつつあるという見方もできますね。

また2020年以降は、さらに燃費規制の強化が進むと言われていますので、ディーゼル車にとってさらに厳しい状況になってくるでしょう。もちろん、それまでにローコストで排ガスをクリーンにできる画期的な技術が開発されるかもしれません。あるいは2020年のみならずそれ以降も継続的に排ガスや燃費規制の強化は進んでいくはずなので、ディーゼルでなおかつハイブリッドとか、ディーゼルでなおかつプラグインとか、そういうクルマが登場してくる可能性も十分に考えられます。

ディーゼルエンジンとハイブリッドは別に対立するものではく、車両コストの問題はあるとしても、技術的にも両立するものなので、切磋琢磨し合ったり、その高い技術らが融合したりするかもしれない状況は、ユーザーにとってはある意味喜ばしいことかもしれませんね。

※次回へ続く

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