- 2016年02月18日 13:36
モノがつぶやくさくらインターネットのIoT - 川手恭輔
1/2昨年12月にブロックチェーンへの取り組みを発表して、それまで300円程度だった株価が2000円まで高騰して話題になった「さくらインターネット」が、今度は「さくらのIoT Platform」という新しいサービスを発表した。
IoTのためのモバイル通信サービスを提供する事業者については、このコラムでもソラコムやパナソニックを取り上げて紹介してきた。それらはMVNOと呼ばれ、NTTドコモなどの携帯キャリアのネットワークを借りて、独自のデータ通信サービスが利用できるようにしたSIMを再販する。
「さくらのIoT Platform」とは何なのか、ソラコムやパナソニックのサービスとは何が違うのか。その技術面とビジネスモデルの特徴と、目指すビジョンについて考えてみた。 さらに、それぞれの項目について個人的な期待度とその現時点での達成度についての勝手な評価を☆で表してみた。
モバイルもインターネットも意識しないIoTの実装
モバイル通信(SIM)を利用してモノがインターネット上のサーバとデータやリクエストの送受信をするためには、LTEや3Gの通信モジュールを組み込み、PPP、TCP/IP、HTTPといったインターネットのプロトコルによってサーバと通信する必要がある。インターネット上でセキュリティを確保するためのSSLの実装も、コンピュータの力が貧弱なことが多いIoTデバイス(モノ)にとっては負担が大きい。
「さくらのIoT Platform」が提供する通信モジュールをモノに組み込めば、センサーで取得したデータを簡単なコマンドで通信モジュールに送るだけでよくなる。データは通信モジュールから「さくらのIoT Platform」のクラウド上に送られて蓄積され、モノを管理・運用する事業者(以下、IoT事業者)のサーバからAPIでアクセスすることができる。サーバ側からモノにリクエストを送る場合は逆の流れになる。
モバイル通信もインターネットも意識しないで、モノをインターネットにつなげることが可能になるわけだ。通信モジュールとクラウドの間はセキュリティが確保されたモバイル通信網でつながっているので、通信をIoTに最適化することなども可能と思われるが、その辺もモノをつくるメーカは気せずに「さくらのIoT Platform」に任せることができる。
さくらのIoTの通信モジュール用には、ソフトバンクとソラコム(NTTドコモ)のSIMが用意されている。しかし後述するように通信自体には課金されないので、モノのメーカは2つのSIMをどのような基準で選択したらよいのだろうか。
【IoTの通信モジュール用として】
期待度 ☆
達成度 ☆☆☆
「モノのツィッター」というビジネスモデル
「さくらのIoT Platform」の発想は「モノがつぶやけばいいのに……」という会話がきっかけで生まれたという。ツィッター上の人々の膨大なつぶやきを解析することによって、様々な事業者にとって価値のある情報を得ることができるようになったように、IoT時代には「モノのつぶやき」が価値を生むのではないかという。
「さくらのIoT Platform」のクラウドには、モノから送られたつぶやき(データ)がタイムラインに蓄積される。IoT事業者がデータをパブリックにすれば、別の事業者(データ利用者)がAPIを使用して、そのデータが蓄積されたタイムラインにアクセスしてデータを利用することができる。
「さくらのIoT Platform」の課金モデルは、まだ固まっていないようだ。通信モジュールや通信自体への課金はせずに、IoTデバイスとクラウドで送受信されるデータに対してMessageという単位で課金されるという。さらにIoT事業者やデータ利用者が、インターネット経由でAPIを利用してデータにアクセスする場合も課金される。つぶやきが価値を生むのであれば、その価値にアクセスするデータ利用者が対価を払うというのが「モノのツィッター」が目指すビジネスモデルだろう。さくらインターネットの社内でも、その価値を生むモノのつぶやき、すなわちMessageに課金するのはおかしいのではないかという議論もされているという。
ツィッターなどのソーシャルネットサービスを立ち上げようとするとき、最初は収益を無視して投資を行い、ひたすらユーザの獲得に集中できる。ユーザとそのトラフィックを増やすことさえできれば、広告やユーザが生み出すコンテンツでのビジネスが見えてくる。「モノのツィッター」では、つぶやきを生み出すモノをどのように増やすかということが最大の課題になる。
モノのインターネットは、M2Mと呼ばれる分野が先行している。M2Mとは「マシン・ツー・マシン」の略で、モノとモノがネットワークに繋がり、人手を介さずに情報交換を行い、自動的に制御を行う仕組みを指している。これは物流やエネルギー、リモート監視・計測などの産業分野ですでに広く実用化されているテレメタリングと呼ばれるものと同じ概念だが、特に無線通信やクラウドなどのインフラの発達によって、そのユースケースが拡大し、IoT/M2Mなどと表現されるようになった。
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