- 2016年02月18日 10:40
ガチャ規制議論とTCGについて(ギャンブル方面の観点から)
ガチャ規制議論とTCG(トレーディングカードゲーム)について
http://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/3885624.html
TCGとコンシューマーアクトについては昔からアメリカや欧州(とりわけドイツ)で議論になっていますが、現状で言えば適法である、セーフだという見解になっており、日本でもあまり問題視されません。
理由は:
・ 完全な購買・所有物であり、二次市場が存在していてフェアバリューがはっきりしている。
・ エディションごとに正規の箱買いを一定数行えば、そのエディションで発行されるカードはすべて手に入る。つまり、エディションでの上限金額がはっきりしている。
ということで、小売のパック販売はこれらのフェアバリューでの購買よりも安い金額でモノを購入できるチャンスが与えられているという形になるため、消費者問題としては取り上げる余地のないビジネスだといえるのかもしれません。
んー、ナルホド。私は消費者行政は全くの専門外なので勉強になりました。一方で、いわゆる「賭博」との兼ね合いでいうと、TCGのようなパック販売というのはちょっと整理の仕方が違うのです。
TCGのパック販売がとっているような「中身に何が入っているか判らない」販売方式というのは世の中には伝統的に存在しておりまして、その代表例がお正月などにデパートが売り出す「福袋」です。この種のものは一般的に「ランダム型販売」などと呼称され、法律上も「賭博」とは認識されません。
その理由は:
・そこに偶然性は介在するものの、原則的に消費者は自身が支払った代金と同等、もしくはそれ以上の価値相当物を入手している為、「損」をすることがない。
・その為、賭博の構成要件である「偶然の勝敗により財物・財産上の利益の得喪を争う」のうち、特に「喪(そう)」すなわち「財産上の利益を失う」という要素が成立しないため「賭博」とは認定されない。
というものになります。ただこの時にやまもと氏が消費者行政の観点から使用した「二次市場(転売市場)」の存在を前提に論議を進めてしまうと、「消費者が無価値なものを掴まされて損をしている状態が発生するだろ」っていう話になってしまうので、原則的にランダム型販売で入手される商品は「小売価格」を前提に価値判定がなされ、それが一般的な常識の範囲内にある限りにおいては問題視がなされない、という事になっています。
なので、TCGのパック販売においては、全てのカードはゲーム内におけるカードの有用性や、それらの二次市場における取引価格は別として、製造原価に適正利益を上乗せした小売価格において同一価値の商品であるという前提で販売が為されており、それをランダム販売をしたところで消費者に対して「財産上の利益の得喪」は発生しないというのが、少なくとも法律的な「建前」。この点が消費者行政の観点からTCGのパック販売を解説したやまもと氏の説明と少し違ってくるところであると言えます。
となってくると、実はやまもと氏による別記事で出て来る、ソシャゲガチャの新しい販売方式提案に関しては少し違った論議が出て来る。
【山本一郎】ソシャゲのガチャで,本当にヤバい問題はどこなのか
http://www.4gamer.net/games/238/G023885/20160216028/
山本:論点はたくさんありますが,整理すると大きな問題は「特定のキャラやアイテムが出る確率が第三者からはっきり分からないこと」と「その特定のキャラやアイテムを直接買える方法がないこと」で,ユーザーは目隠ししたまま,欲しいカードの排出確率も知らない状態で高額のガチャを回し続けることになります。
長田氏:
そのキャラやアイテムが,例えば5万円,場合によっては50万円ですよ,と明示されていれば,それを買う人はご自由に,ということになります。そのうえで,もっと安く手に入れる手段として,確率が明示されているガチャがあります。とても低い確率かもしれないけど,ロマンを求める人はそこにチャンスがありますよ,というのならば分かります。
前述した「ランダム性のある販売方式」の法律的な「建前」に基づくのならば、実はガチャで獲得されるキャラやアイテムに対して運営側が主体的に5万、50万と異なる財産上の価値を明示するという事は、消費者行政的には問題がなくとも賭博行政的な観点ではあまりお勧めできない案になります。
消費者行政、賭博行政の両者から一定の妥当性がある形でソシャゲガチャの在り方を提案するのならば、寧ろ先述のTCGのランダム販売方式に倣って
・プレイヤー毎に異なるカードスタック(箱)が用意されており、各プレイヤーはそこからランダムに抽選でカードを獲得する
・各プレイヤーはスタックを全部を購買すれば希望するカードを必ず手に入れることが出来る
というものの方が良いかなと思います。これならば消費者が「出ないカード」を求めて延々とガチャを回すこともないですし、一方で「全てのカードは小売価格において同一」というランダム型販売における法律上の「建前」も、一応は維持できるものと思われます。本問題に関しては、私の立場としても引き続き注視してゆきたいと思います。
追伸:
ちなみに「月刊Wedge 3月号」(2月20日発売)にやまもと氏と私の一連のソーシャルゲーム問題に関する対談記事が掲載されております。ご興味のある方は書店でご購買頂くか、東海道・山陽新幹線のグリーン車(無料配布)にてご覧ください。