- 2016年02月17日 12:28
韓国国内で高まる核武装論 習近平もオバマもアテにならない - 織田重明
北朝鮮による4回目の核実験とその後の長距離弾道ミサイルの発射により朝鮮半島で緊張が高まっている。北朝鮮に対する制裁として韓国政府が今月10日に開城工業団地の操業停止と韓国人の引き揚げという措置に踏み切ると、北朝鮮は翌11日に「朝鮮半島情勢を対決と戦争の瀬戸際に追いやる危険千万な宣戦布告だ。絶対に容認できない」と反発。開城工業地区を軍事統制地域に指定して韓国人全員の追放と資産凍結をすると宣言してみせた。来月には米韓の合同軍事演習も予定されており、今後も南北間の緊張は続くものと見られている。
米国も中国もアテにならない
そんななか韓国国内で高まっているのが、核武装論だ。与党セヌリ党の一部から出てきたこの議論、年明けから韓国最大紙の『朝鮮日報』がたびたび取り上げている。たとえば1月28日付の同紙社説では「米中に頼れない韓国、今こそ独自の核武装を」とのタイトルでこう説いている。
「北朝鮮の各問題解決の責任を中国に押し付けてきた米国や、北朝鮮による相次ぐ核実験を黙認してきた中国を信じるべき時はもう終わった。今や韓国は自衛策として最低限の核兵器を保有するため、国民的な議論を行わざるを得ない状況に直面している」(日本語版から抜粋)
要は米国も中国もアテにならないので、北朝鮮に対抗して韓国も自前の核兵器を保有することを議論すべきだというのである。この論調は、北朝鮮による核実験から5日後にあたる1月11日付同紙社説ではもっとあからさまだ。このなかで、米国についてこう述べている。
「何よりも腹立たしいのは米国の曖昧な態度だ。(中略)これまで米国が核問題解決に向けてここ10年にわたり掲げてきた『戦略的忍耐』と呼ばれる対応策は、言い換えれば『戦略的責任回避』に他ならないことが少しずつ明らかになっているのだ」
言うまでもないが、韓国は米国と軍事同盟を結んでいる。だが、その米国が北朝鮮の核開発の動きになにもしようとしないと苛立っているのだ。1月28日付の同紙社説にはこうある。
「予測不可能な北朝鮮が突然、大韓民国に核攻撃を加えた場合、中国や米国がこれを阻止してくれるだろうか。米国がウクライナやシリアでやっていることを見れば、たとえ米国がわれわれを支援したとしても、それはソウルが灰じんに帰した後だろう」
韓国が頼みとするもう一方の国、中国はどうだろう。知人である日本メディアのソウル特派員に話を聞いてみた。
朴槿恵の電話会談に応じなかった習近平
「青瓦台(=大統領府)は、北朝鮮が1月6日に核実験に踏み切った際に、習近平国家主席が朴槿恵大統領の再三にわたる求めにもかかわらず電話会談にすら応じてくれなかったことにかなりショックを受けたようです。国防相間のホットラインも全く機能しなかったそうです。政権発足以来、米国や日本から疑念を持たれてまでも対中接近を進めてきたのは、中国に北朝鮮への圧力をかけてくれることを期待してのものです。ところが、肝心の時に相手にもされない。自尊心の強い韓国人には堪えたはずです」
そのせいであろう、韓国政府は米国が長らく求めてきた地上配備型の迎撃システム・終末高高度ミサイル(THAAD)の配備に応じる構えを示した。このシステムは、北朝鮮のミサイルを迎撃するためのものだが、中国は自国のミサイルの迎撃にも使われる可能性があるとしてこれまで配備に応じないよう韓国に圧力をかけてきたとされる。
その途端に中国共産党の機関紙『人民日報』の姉妹紙である『環球時報』は「それ(THAAD配備)によって生じる代償を払う準備をすべきだ」と脅し(1月27日付社説)、これに『朝鮮日報』が「中国はTHAADを口実に韓国を脅すな」というコラムを掲載して猛反発した。かつて韓国の尹炳世外相は「米中双方からラブコールを受けるのは悩みのタネやジレンマではなく祝福」と発言したが、米中双方にいい顔をしようとした朴政権の外交のツケが回ってきたというべきか。
ともあれ、北朝鮮がたび重なる核実験とミサイル発射によって、着実に核保有国としての既成事実化を進めているなかで、米中ともにアテにならないから韓国も核武装して対抗すべきというのが、朝鮮日報はじめ韓国保守層のなかで高まっている主張なのだが、読んでいて「?」と思うのが、日本についての記述だ。
「日本のように、核武装はしていないが決心さえすればいつでも核兵器を作る潜在能力を有する『核武装選択権(Nuclear Option)』戦略も前向きに検討する必要がある」(1月17日付同紙コラム)
「これまでに核兵器のあらゆる要素(濃縮ウランから核実験のシミュレーション、運搬手段に至るまで)を手に入れ、今は分解しているものの、ひとたび有事となれば『結合』すればいいだけという段階にまで至っている日本は、隣の不運の陰でにたにたと笑っている」(2月7日付同紙コラム)
これまで「朝鮮半島の非核化」を訴えてきた韓国政府
韓国では日本は核武装するだけの能力を有し、有事となればいつでもそれを兵器として使えると思われているのだ。最大手紙でそんな議論が行われていることに日本人として違和感を感じざるを得ないが、日本のプルトニウム保有量は国内外に47トン。長崎級原爆の5000発分!に相当する。日本の外からはそんな疑念を持って見られてしまうのであろうか。
朴槿恵大統領は1月13日の記者会見で、韓国国内で議論される核武装論について「韓国も戦術核を持つべきではないかという主張については十分理解する」としながらも、「これまでわが国が主張し続けてきたこと、国際社会との約束があるため、それ(=核武装)は約束を破ることになる」と述べて否定的な見解を示した。
韓国は北朝鮮による核開発を非難し、「朝鮮半島の非核化」を訴えてきた。核武装の道を歩むことは、そうした主張と矛盾することになるばかりか、核兵器不拡散条約(NPT)に加盟する韓国には国際社会からの制裁と孤立も待っている。
よもやこんな議論が韓国国内で大きな影響力を持つに至ることはないと信じたいが、外交の破綻が露になりつつあるだけに、韓国がどこに向かうのか、注視だけは怠らないようにしたい。
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